虫媒花は送粉昆虫たちにアピールするために、色や形で目立っています。我々人間もそれらを「花」として認識し易いと言えます。現在、虫媒花の中でも蜜を分泌しハチを送粉者とする植物が繁栄しており、ほとんどの雄性先熟がこのグループに入るので、これが目立って多い事になります。一方、雌性先熟となる植物の特徴は、風媒花であったり(イネ科の一部やオオバコ科など)、虫媒花でも蜜を分泌しなかったり(モクレン科やウマノスズクサ科など)、送粉昆虫の少ない季節や場所に開花する植物であったり(ショウジョウバカマ属など)します。すなわち、蜜を出してハナバチなどが頻繁に訪れ、訪花昆虫に人気の花は雄性先熟であり、送粉昆虫の訪花が無いか頻度が少ない花は雌性先熟である傾向があると言えると思います。
では、なぜハナバチに好まれると雄性先熟で、送粉昆虫に恵まれないと雌性先熟傾向なのでしょうか。両者の長所と短所を比べてみると理解できるかもしれません。
まず、風媒花を考えてみます。この場合、雌性先熟であれば展開した雄しべなどに邪魔されずに柱頭で花粉をキャッチしやすくなるし、自家受粉も避けられます。それから開花期間に対する雌しべの活動期間が長く取れるので、風にのるために小さくて比較的寿命の短い花粉でも受粉のチャンスが広げられます。群レベルで見たとき、仮に雄性先熟ですと、開花期間後期の花々では雌しべが多数成熟しているのに対し花粉は不足傾向になり、風まかせで寿命の短い花粉にとって雌しべに到達しにくくなってしまいます。また、オオバコのような穂状果穂では位置的な理由で雌性先熟が有利と言えると思います。
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次に、虫媒花の中でも蜜を出さなかったり、送粉昆虫が少ない場合を考えてみます。雌性先熟ですと、運悪く虫の訪花が無く雌性期間中に受粉できなくてもショウジョウバカマやミズバショウの様に後から成熟させた花粉で同花受粉させることも可能となります。雄性先熟では、そう都合良くいきません。例えば、訪花昆虫が少ないために先熟の花粉が花に残っている時には後熟の雌しべは他家受粉のチャンスもないまま自家受粉を余儀なくされます。また、花粉が全て運び去られていた時では、餌としての花粉がない雌性期は昆虫の人気がさらに無くなり受粉できなくなってしまいます。すなわちこの場合は、他家受粉の可能性を最大限に残しながら、自家受粉も可能にしている雌性先熟が有利といえると思います。
最後に、ハナバチなどの花から花へ次々訪花する昆虫が十分に存在する環境を考えてみます。ある地域内で早期に開花した個体について、仮に雌性先熟とすると、雌しべが受粉可能でも付近に花粉が全く無いので他家受粉できません。一方、雄性先熟では、開花の早い個体が雌性期に入ったときには既に他株の花粉は熟しているので他家受粉可能となります。逆に、ある範囲内で最も遅く開花した個体が雌性期に入った時は付近の雄しべが全て枯れ落ちてしまっていてもハチの体に付いている花粉がまだあるので受粉可能です。この様に、花への投資という点からもこの場合は雄性先熟が有利となります。
以上のように、植物の種類により事情は少しずつ異なるものの、蜜を出してハナバチ類の訪花を受けると雄性先熟が有利である一方、それらがかなわない花では雌性先熟に意味があるということが推測できました。
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