home > 草花メモ&エピソード > コモロスミレ

コモロスミレ(スミレ科スミレ属)

 小諸市海応院にある解説板から・・・「コモロスミレは、スミレの八重咲きの一品種で、大正12年(1923年)、海応院に下宿した小諸尋常小学校訓導の中條正勝氏により海応院境内で発見された。当初は、矢沢米三郎氏により「ヤエスミレ」とされていたが、その後、変化に富む八重咲きの特徴を持つスミレは他にないということがわかり、小諸で発見のスミレ、「コモロスミレ」と名付けられている。花は、春葉の間から花柄を出し、4月下旬〜5月上旬頃咲き、地上茎が無く束性する多年草である。花の色は濃い紫色で、多重に咲く。この八重咲きも花弁の数が二重から多重と変化が多い。葉は、被針形で先はやや丸みをおび、縁は鋸歯状となり、葉のもとは、わずかに心形の切れ込みが、葉柄には翼がある。」

 花の形状以外の性質はスミレと同じです。花の色や葉の形状などはスミレと変わりありません。学名も(V. mandshurica f. hasegawae)でスミレ(V. mandshurica)の一品種として登録されています。スミレの花弁は上弁2枚・側弁2枚・唇弁1枚で、がく片は5枚と決まっていますが、コモロスミレは花弁とがく片の数に変異があり花によってまちまちです。

 雌しべと雄しべについては、外見上異常がないように見えます。しかし、花を解体して調べていないので正確なところはわかりません。

 八重桜があるように、放射相称花の八重咲きはよくあることですが、 左右相称花で八重咲きになるのは大変珍しいと思います。

 さらに花の形状について細かく観察してみます。スミレでは側弁の基部に毛がありますが、コモロスミレでは唇弁に特徴的な模様のある花弁にも毛が生えていることがあって、形質発現が混乱していることがうかがえます。

 もう一つ、コモロスミレの特徴としては、左の写真でわかるように花弁の距がたいへん小さくなっていることが挙げられます。花によっては痕跡程度に小さくなってしまっています。距は蜜を貯めておく器官で、ポリネーターによる受粉に重要な役目をします。一般に、生殖器官に変異が起こると種ができずに絶滅しますが、コモロスミレは、受粉にポリネーターを必要としない花、閉鎖花によっても種ができるので、花の形が異常でも子孫を遺せたと考えられます。

以上のまとめ・・・ポリネーターに花粉を運んでもらうために花の構造が進化して特殊化した左右相称花では、それに変異があると子孫を遺せなくなりますが、コモロスミレの場合は閉鎖花をつけることができるので子孫が遺り、八重としての一品種として確立されたと考えられます。

参考までにスミレ科の花の構造を解体して調べてみました。ここで用いた花は普通に数多く見られるタチツボスミレです。

 

 スミレ科には特徴的な構造の「雄しべの距」が2本一組あります。花を解体しないと分かりません。これは唇弁の距に収まっています。この「雄しべの距」はスミレ科の種によって形や長さが異なります。唇弁の距が長いナガハシスミレでは雄しべの距も長くなります。この雄しべの距の先端から蜜が出て唇弁の距の中に蓄えます。

もう一つ、特徴的な構造物は葯の先にある「付属体」です。花粉は葯の内側(雌しべ側)に作られ、普段は付属体があるため外に出にくい構造です。ポリネーターが蜜を吸いに来たときだけ付属体の間からこぼれ出てくるしくみになっているようです。推測ですが、蜜を吸うためポリネーターが口を差し込むと、雄しべの距に触れることになり、その震動が葯に伝わって花粉が外にこぼれ出てくるのかもしれません。