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フクジュソウ(キンポウゲ科フクジュソウ属) 開花・温度傾性

フクジュソウは、日中、晴れた日だけ花を開きます。雲って気温の低い日や、夜間は花を閉じています。花が開く時、花弁の動く様子を観察しました。

 フクジュソウは明るい林床や放置された農地などに群生する多年草です。早春、葉の展開に先駆けて枝先に花を咲かせます。花弁は10〜20枚あり、黄色で光沢を持っています。花が終盤になると、花弁の開閉反応がにぶくなってきます。この写真でも、枝が一番伸びた終盤の花だけ花弁の展開が不十分です。


 簡易的な微速度撮影。

 開花の様子を1分間隔で撮影し、65分間を13秒に縮めた映像(5分間を1秒の割合)にしました。(この株は園芸種です。)

以下は映像のキャプチャーです。

 日光が当たって約5分後、花に変化が見え始めたので撮影開始しました。

 撮影開始後9分

 徐々に花が開いていきました。

 撮影開始後25分 

 上の写真から16分間たっていますが、ほとんど変化がありませんでした。この間、木陰に入って太陽光が弱められていたからかもしれません。

 撮影開始後35分

 上の写真から10分間で大きく開きました。肉眼でもわかるほど花弁の動くスピードは速いのです。

 撮影開始後53分

 花が十分に開きました。この後、花弁が反り返る変化も見られました。

今回の観察では、花が閉じている状態から完全に開くのに50分程度かかりました。日差しが一時的に遮られたときには、開花の動きを止めて様子を窺うような仕草も見られました。しかし、フクジュソウは花を開くと決めればその動きは意外に速く、肉眼でもそれを見ることができます。開花に適した条件下ならば、10分程度で開くと見られます。その適した条件とは何でしょうか。それが推測できる映像を別の日に撮りましたので次に紹介します。


次の映像は30秒ごとに撮影し、上と同じように、5分間を1秒の割合で短縮した映像です。

 日光が当たるとすぐ花が開き始めましたが、完全に開く前に花は閉じていきました。その後、日光が当たっているのにもかかわらず全く開く気配がありませんでした。

 日光が当たった瞬間は輻射熱により地表面の温度が上がりました。しかし、この日の気温は非常に低かったため、上昇気流により周りから冷たい風が流れ込んでくるとすぐに地表面の温度は下がって開きかけた花が閉じたとみられます。

 以上により、フクジュソウは日光ではなく温度を感知して花の開閉を決めていることが示されました。このように、温度変化に反応して特定の動きをすることを温度傾性といいます。花弁の動きを見ていると、ある決まった温度がスイッチになっているように思えます。その温度を超えるとすばやく開き、その温度を下回ると大急ぎで閉じているからです。

 フクジュソウの開花と温度はなぜ密接に関係しているのでしょうか。それは、ポリネーター(送粉昆虫)の行動に関係しています。ある一定温度以上でなければ昆虫は活動できません。すなわち、フクジュソウはそれらの昆虫が飛んで来られないほど寒い時には、しべを守るため閉じているのです。さらに、フクジュソウの花弁は光沢のある黄色をして太陽の方を向いて咲くので、花の中は凹面鏡のようで外気温よりかなり(10℃近くも!)高くなります。花を訪れた昆虫はその暖かさでさらに元気になれます。 

 ポリネーターとして考えられるのが越冬中のハナアブの仲間です。というのも、フクジュソウが提供しているのは、花粉と”暖かさ”で、蜜は分泌していないからです。だから、多くの植物が利用しているハナバチの仲間はメインのポリネーターではないのです。尤も、咲くのは早春だから、まだ活動を始めていないハチたちをあてにはできません。