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写真1
  • アヤメ(アヤメ科アヤメ属)

アヤメ、ノハナショウブ、カキツバタはいずれもアヤメ科アヤメ属で外観もよく似ています。まず、それらの区別から説明します。アヤメ(写真1)の特徴は名の由来となった網目模様(文目・あやめ)です。この模様は蜜を吸いにやってくる虫に蜜の所在を教える道しるべの役目をはたすもので「蜜標」と呼ばれています。ノハナショウブ(写真2)の特徴は蜜標が一本の黄色の筋となっていることと、葉の中央部に太い筋「中脈」が走っていることです。カキツバタの葉はアヤメに似ており、花はノハナショウブに似ています。ただ、蜜標の色が黄色ではなく純白の筋であることで区別できます。

次に、花の構造について記します。垂れ下がっている大きな花弁状のものが外花被片です。訪れる虫に蜜標で蜜の所在を知らせ、とまってもらう足場の役目をしています。内花被片は直立しており、水平方向から飛んでくる虫に対して花を大きく見せて目立たせる効果があります。草原に生えるため他の植物に紛れないように縦方向のアピールも大切なのでしょう。対照的に、高原の湿地に生えるヒオウギアヤメ(写真3)は内花被が痕跡程度に退化しています。ヒオウギアヤメが生育する環境では他の植物の背丈は低いので内花被片を直立させて目立たせる必要も無くなったのかもしれません。同様に、湿原に生えるノハナショウブも退化はしていませんが、アヤメに比べて内花被片は小さくなっています(写真2)。蜜標の上に覆い被さるように突き出ているのが雌しべの一部である花柱です。花柱も着色しているので花弁の一部のようにも見えます。その先端付近下側の受粉する突起部分が柱頭です。花柱は3本に見えますが、基部で結合しており1本しかありません。先端から大きく3裂し、120度の角度を持ってそれぞれ外側を向いているため見かけ上3本に見えるのです。

その3裂した花柱の屋根の下に雄しべがそれぞれ一本ずつ隠れています。花柱をめくってみるとよくわかりますが、柱頭の奥、上側にがあって蜜を求めてやって来たハチ(特にトラマルハナバチ)の毛羽だった背中に効率的に花粉をなすり付けられるようになっています。花柱は送粉者であるハチの姿勢を制御する構造物でもあるのです。また、梅雨の時期に花を咲かせるアヤメにとって花粉を雨で流されてしまうことはどうしても避けなければなりません。雄しべを花柱の屋根の下に格納する方法はとても理にかなっているといえます。

以上まとめると、虫媒花であるアヤメ属がとった工夫で一番重要なものは多岐に渡る花柱の役割と言えるでしょう。その役割とは 1.花粉を雨から守ること。2.花弁のような色で華やかにし送粉者の昆虫にアピールしていること。3.訪れた吸蜜するハチの姿勢を制御して、ハチの背中に花粉をなすりつける助けになっていること。4.本来の役目である受粉した花粉管を子房に届けること。さらに他の植物との競争の激しい草原に生きるアヤメについては 5.大きめの内花被片を直立させて水平方向からでも目立たせること。6.蜜標を豪華な網目模様にしてハチに「おいしい蜜がここにありますよ!」と強烈にアピールすること。も大切な工夫と言えると思います。

刀のような形(剣形)のアヤメ科の葉については、「表(おもて)面」が無くて(単面葉)、これも特徴的で興味深いのですが、別のパートで解説しようと思います。

写真2           写真3