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洋ラン:様々な形の花と受粉に対する工夫

洋ランは、人工交配により園芸用の新品種がさかんに作り出されており、属間雑種などでは原種にない特徴のランも生じています。その場合でもランが虫媒花として採ってきた工夫を花の形にかいま見ることができます。実際に、訪花中のポリネーター(花粉媒介動物)を見て、どのように受粉が行われているのか観察してみたいのですが、原産国は海外ですので日本のラン科植物を参考に花の形から推測していきたいと思います。

洋ランの品種については世界のラン科植物を、栽培方法などは素人園芸解説を参照下さい。また、Park Townには詳しい用語集があります。ランに関しての総論(英語)が出版されています。)

洋ラン:花の基本的構造

まず、シンビジュームを例に花の構造を見ていきます。パフィオペディラムの仲間については少し異なりますので後述します

 花は左右対称の形をしており、外花被片3枚と内花被片3枚から構成されています。形状と配置の点から、外花被片は背萼片(ドーサルセパル)と側萼片(ラテラルセパル)にわかれ、内花被片は側花弁(ペタル)と唇弁(リップ)にわかれています。特に唇弁は品種毎に特殊な形に進化しており、受粉のために重大な役割を担っています。時に唇弁は蜜標で美しく飾られ、ポリネーターの着地点にもなっています。またある種では、苞葉が花弁様の形態をしていることもあります。

 蕊柱(ずいちゅう(コラム))は、雄しべと雌しべが合着してできた構造物で、ラン科に特徴的です。ずい柱の先端には葯帽があり、その奥の葯室には粘着体付きの花粉塊が納められています。柱頭はずい柱の下側にあり、成熟するとその表面が粘液で覆われます。

受粉の過程

ラン科の受粉は、花粉がぎっしりつまった花粉塊をポリネーターに運ばせ、一度に受粉させるという独特な方法で行われます。この理由については、一つの果実に数万から数十万という莫大な数の種子が入っていることに関係あります。詳しくはサギソウのページに記してありますので参照下さい。

 ポリネーターは蜂を始めとする昆虫やハチドリなどの小鳥が考えられます。受粉の過程について虫を例に考えてみます。花の魅力に引き寄せられた虫が唇弁にとまって花の奥に入ろうとすると、葯帽の隙間からのぞいていた粘着体がその虫の頭〜背中に付着します。すると、粘着体とつながっている花粉塊が引き出され、虫に運ばれることになります。その虫が別の花に入ろうとしたとき、花粉塊は粘液に覆われた柱頭にトラップされるのです。その後、花粉塊は粘液により膨潤し、柱頭の組織に巻き込まれ吸収されます。受粉は、正確に言えばこの段階のことです。そして莫大な数の花粉管がずい柱の中を胚珠に向かって伸びていき、受精となります。

生存競争に勝ち抜く洋ラン

 洋ランの分布の中心は熱帯雨林です。熱帯雨林は植物の繁茂が著しく、特殊な生態を持たないと生存競争に勝ち抜けません。洋ランは一体どんな工夫をしているのでしょうか。

 まず一つめが着生することです。樹木の枝などに着生し、高い位置で生育することで光合成に必要な光を労せず手に入れています。熱帯雨林には多数の植物が茂っているため、林床にはほとんど光が届かず地面から新たに生育しようとすると極めて難しいのです。一方、雨は多く降るものの、高い所では水を得るのが困難になります。ラン科植物は乾燥に耐えられるように葉や茎などが進化しています。特に根は太く、貯水性のある構造に変化しています。

 二つめがラン菌を利用する能力です。必要な栄養をラン菌から得ることで胚乳を持たない小さな種子でも発芽や成長に問題がなくなりました。一果実当たり数万個から数十万個という埃のような種子をばらまけるので進化のスピードが増し、適した環境にたどり着ける確立も高まりました。こうしてラン科植物の繁栄と多様性がもたらされたのです。また、ラン菌が根にとり着くことで、樹上という養分の少ない環境でも支障なく生育できるという利点があります。

 三つめは、特殊な昆虫を受粉に利用していることです。多種類の植物が混在し開花している環境では、虫媒花であっても同種間での花粉の受け渡しが困難になります。そこで、特定の昆虫をポリネーターに採用し、それ以外の昆虫を受粉に関わらせないように共進化させることで、大切な花粉塊を無駄にしない工夫がなされています。共進化であるため、花の構造、形状、大きさや、色、香りなどに虫好みの個性と多様性が見られ、それがまた園芸的にも価値が出て人々を魅了するのです。ただ、特定の昆虫だけをポリネーターにすると、その昆虫が絶滅した場合に子孫が残せないという危険性が生じます。しかし、その心配よりも、花粉塊が着実に受粉に使われ無駄にされないことにエネルギーを使っているところを見ると、進化の上ではそちらの方が大切なようです。


 新発見の洋ランやおもしろい形や色の洋ランは園芸的価値と希少価値が高まり違法取引が絶えません。現在ではワシントン条約によって国際取引が厳しく規制されていますので、くれぐれも法令遵守でラン栽培を楽しむようにお願いします。また、日本産のラン科植物も絶滅が心配される種もありますので盗掘などなさらぬようにお願いします。


Cymbidium シュンラン属

美しい花がたくさん咲くのが特徴です。

 Cym. Great Flower 'Ballerina'

  Cym. Half Moon 'Wanderland'

 Cym. All Star 'Exotic Night'  Cym. Roseberry 'Yong Lady'


Lycaste リカステ属

3枚の外花被片(背萼片と側萼片)、及び3枚の内花被片(唇弁と側花弁)の形状が、それぞれ類似している特徴があります。多くの場合模様も3枚一緒です。また、バルブ(シュードバルブ;偽鱗茎)とよばれる茎が変形した組織が目立ちます。扁平な卵形で水分や養分を蓄える組織です。

  Lyc. Elizabeth Powell

 Lyc. aromatica

 透明感のあるオレンジ色の花で、見ためがおいしそうです。

Angulocaste(Anguloa x Lycaste)

 Angcst. Olympus ' Honey '

 比較的大きな花がたくさん咲き、また、葉も美しいので見映えがします。


Cattleya カトレヤ属

動物の鼻頭のようなコラムが特徴です。コラムとリップの間隔が大変狭く、力強いポリネーターが、花の中にこじ開けて入ろうとするときに受粉するしくみになっています。

 C. nobilior

 C. walkeriana

 C. percivaliana

Epicattleya (Epidendrum x Cattleya)

 Epic. Siam Jade

Sophrolaeliocattleya (Cattleya x Laelia x Sophronitis) 

 Slc. Tutankamen 'Pop'


Coelogyne  セロジネ属

 Coel. cristata

 リップ上の黄色い毛羽だった構造物が特徴的です。覆い被さっているコラムにポリネーターが着実に触れるのに役立っていると見られます。


Laelia レリア属

 L. anceps Sanbar Gloriosa

 大変きれいなランです。


Dendrobium セッコク属

茎は多肉の棒状で立ち上がるのが特徴です。デンドロビウムの中でも、長い穂状花序を伸ばし、たくさんの花を付けるのがファレノプシス系です。リップが大きく、その奥にコラムが隠されています。

 Den. thyrsiflorum

 Den. primulinum

 たこの吸盤のようなリップ

 Den. Stephen Batchelor

 Den. Alice Iwanaga 'Happiness'


Epidendrum エピデンドラム属

花茎から色鮮やかな小花をたくさん咲かせます。コラムとリップが一体化して手前に突き出しているのが特徴です。

Encyclia

 Encyclia vitellina(=Epi. vitellinum)

 エピデンドラム属にエンシクリア属が含まれることもあります。

 コラムとリップの色が一致して一体化しています。

 Enc. polybulbon (= Epi. polybulbon)

 小さいですが繊細で美しい花です。

 Epi. medusae

 不気味な形と色。その名もメデューサ。

 Epi. ibaguense

 他のランと違ってリップが上に向かって伸びています。

 Epi. pseudepidendrum


Bulbophyllum バルボフィラム属

この属には、形、色、においなどが風変わりで興味深い植物が含まれます。

 Bulb. echinolabium

 リップが変化して長めの距になっています。そしてこの花はかなり臭いです。一般の植物は、良い香りと距に貯めた蜜でポリネーターを誘うのですが、この植物は違っているのかもしれません。距に貯まっているのも蜜ではなくて臭い液体なのかも?。花の中心部もなんか動物の肛門みたいだし。。。ポリネーターはハエかな?

 Bulb. lobbii

 塊に変化した唇弁(リップ)が、蝶つがい構造でバランスよく支点に乗っています。そのため、わずかな風でも、ぷらぷら揺れるので、この動きがポリネーターを誘うと考えられています。野生ではどんなポリネーターが関わっているのでしょうか。大変興味深い品種です。

 ポリネーターは、ぷらぷら揺れるリップを「えさ」or「宝物?」と思い込んで捕らえようとするに違いありません。しかし、リップは支点にしっかりくっついているので持ち去れません。勢い余ってリップごと「くるりん」と回転してコラムの先端に頭突きまたは背中で体当たりしてしまうのだと思います。そして花粉塊がポリネーターに付いてめでたく運ばれるという訳。よく観察すると、リップのコラム側にハート型のように切れ込みが入っています。これは、開花前リップをコンパクトに収納していたことによりますが、「くるりん」となったときに支柱が邪魔にならないようにするためでもありますね。リップの可動範囲を最大限にとるための細工だったのです。進化ってすごい!

 この品種はラテラルセパルが前方に伸び、重なり合って合着しています。まるで一枚の穴の開いた花びらのようです。リップは、B. lobbiiと同じように塊に変化し、ぷらぷら揺れる仕組みになっています。

 Cirrhopetalum属に分類している場合もあります。

 Bulb. picturatum ?

 リップや背萼片の様子が上の品種とほんの少し違っていますが、そっくりな近縁種です。

 写真を見ていて気づいたのですが、このタイプの花は虫に擬態しているのですね?合着したセパルが羽で、光沢のあるリップが虫の胸部に見えます。ドーサルセパルにひょろひょろと糸のように伸びているのは触角をイメージしているのかもしれません。花が虫の形に似てくるのだから共進化ってすごいですね。

 予想される受粉方法は。。。虫に擬態して、それを捕食しようとやってくる昆虫を受粉に利用する。または、雌と思い違いして交尾にやってくる雄を受粉に利用するのか。。。既に、研究されているのかもしれません。分かったら報告します。

 Orchid Species Photographsバルボフィラム属のページにいろいろな種類の花が掲載されています。それを見ていると、色々な虫に擬態しているがわかります。羽アリに見えたり、ヨコバイに見えたり、甲虫に見えるものさえありました。


Oncidium オンシジューム属

小さな花が花茎にたくさん咲きます。リップが三裂し、基部に突起があるのが特徴です。

 Onc.Twinkle 'Red Fantasy'

 ?

 オンシジウム類は属間雑種も多くよくわかりません。。

 リップの上にある黄色い突起が虫にとっては魅力的に見えるのかも??


Odontoglossum オドントグロッサム属

近縁種が多く、属間交配もさかんに行われています。リップ基部に突起があるのが特徴です。

 Odm. sp.

 Odm. bictoniense

Colmanara (Miltonia x Odontoglossum x Oncidium)

 Colm. Wildcat

Maclellanara(Brassia x Odontoglossum x Oncidium)

 Mclna. Pagan Lovesong 'Ruby Charles'


Comparettia コンパレッチア属

小型の着生ランです。小さい花の中でリップだけが大きく目立っています。2枚の側萼片が距に変化しており、蜜を吸う蝶や蛾がポリネーターと見られます。

 Comp. speciosa

 赤い色が特徴です。色のある花は、採用しているポリネーターが昼間活動し、色を認識できることを示しています。特に赤は蝶の好む色として知られています。また、唇弁が大きく、ここは吸蜜のための着地場所です。すなわち、花にとまってからでないと吸蜜できない蝶の仲間がポリネーターです。


Vanda バンダ属

リップが小さいのが特徴です。湿潤した環境に生育する着生ランで、水や養分を貯えるためのバルブがありません。

 V. caerulea


Phalaenopsis ファレノプシス属

胡蝶蘭の仲間です。

胡蝶蘭の花粉塊

 園芸店で販売されている胡蝶蘭です。

花被片が紅紫色できれいです。

 胡蝶蘭のずい柱を正面から見た写真です。

 葯帽の下から薄い粘着体がのぞいています。粘着体の裏側に粘着物質がついているので、ポリネーターが花の奥から引き返すときに体に付着すると見られます。

 ピンセットの先を粘着体の裏側に触れてみました。すると、簡単にピンセットの先に貼り付き、花粉塊は葯帽と共に花から外れました。

 上の写真を裏側から見たところです。花粉塊が二つ仲良く並んでいました。

 葯帽は花粉塊から簡単に落ちます。するとこんな形。なんか、かわいい。

 花粉塊の右斜め下から見た図。粘着体と花粉塊をつなぐ、花粉塊柄はアーチ状です。

 花粉塊が外れたずい柱は左の写真のようになりました。

 取り外した花粉塊を、ずい柱下側の窪みにある柱頭に触れさせてみたところ、花粉塊が柱頭に強く接着し、離れなくなりました。それを無理に引き離したら、次の写真のようになりました。

 花粉塊と花粉塊柄の間にある黄色いゴム状の組織で切り離され、丸い二つの花粉塊は柱頭表面にしっかり付いていました。ピンセットの先には粘着体が左の写真のような状態で残されていました。写真の黄色い部分は、引きちぎられたゴム状の組織です。それは弾力があって、引き離そうとしても長く伸びてなかなか切れませんでした。実際においてもポリネーターは引き離すのに苦労しているのではないかと思いました。

追加情報

 花粉塊を取り除くと、その5〜6日後に花はしおれはじめます。取り除いていない花に比べて傷むのが早いのです。花を長く楽しみたいときには花粉塊を取ってはいけません。

 この写真は、花粉塊を取り除いて8日たったものです。矢印上は、花粉塊を取り除いただけの花で、矢印下は、花粉塊を取り除いた後、柱頭に花粉塊を付着させた花です。どちらもほぼ同時にしおれ始めました。両者以外の花はしっかりとしているので、花穂の位置が影響して順番にしおれたのではありません。

 白矢印は、花粉塊を取り除いた後、柱頭に花粉塊を付着させた花の花柄です。しおれていない花と同様、花柄はみずみずしく、しっかりとしています。

 一方、花粉塊を取り除いただけの花では、花柄にしわがよりはじめ花柄ごとしおれているのがわかります。

 以上から次のようなことがわかります。花粉塊が取り去られると、花がしおれるスイッチが入り、5〜6日後にはしおれ始めます。しおれる前に受粉できなかった花は花柄ごとしおれてしまいますが、受粉できた花は種子成熟のため花柄はしおれません。

 受粉した花のその後です。花柄は緑色になり、太くたくましくなりました。太くなった部分が子房です。花被片はドライフラワーのようになりながらも付いたままです。この写真ではわかりませんが、ずい柱の先端は黒褐色に変化しています。

 花粉塊がついたままの花も枯れ始めました。こちらは非常に花もちがよく、約50日ほど咲き続けました。

 受粉後、約6ヶ月で子房が黄色く変色した後ぱっくりと割れました。綿のような細かい繊維の間から極めて小さな種がこぼれ落ちました。微風でも飛び散らされてしまうほど小さな種です。

 落ちた種の写真

鉛筆の芯先と比べて撮りました。非常に小さく細かいことが分かると思います。遠くから見るとほこりのようです。目を近づけてみると細長い小さな種が落ちているのが分かります。

 顕微鏡で観察しました。紡錘形をしていました。こんなにも小さな種なので栄養を貯めている胚乳はありません。既述したようにラン菌の助けで栄養を得て発芽するのです。


パフィオペディラムの仲間:花の基本的構造

パフィオペディラム属は、存在感のある大きな花のため人気があります。しかし、組織培養によるクローン増殖技術が確立されていないそうで、値段が高めであったり、品種によってはなかなか入手できないものもあります。その他、地上に根を下ろす少数派の地生ランであったり、花の構造においても一般のランと大きく異なる点がありますので以下に見ていくことにします。

 一番に目に付くのは、大きく袋状に変化した唇弁(リップ)です。袋状のためこれを特別にポーチと呼ぶことがあります。これは食虫植物に見られるような葉の構造に似ていますが、虫を捕らえて消化吸収するわけではなく、受粉に重大な役割を負っています。ポーチの内側には細かい毛が生えていたり、縁に「返し」がついていたりとポリネーターをコントロール工夫がいくつもあります。

 次に他の花被片の特徴についてですが、3枚あるはずの外花被片が2枚しか見あたりません。それは、左右の側萼片が合着して1枚の下萼片ベントラルセパル or シンセパル)になっているからです。下萼片は幅広くなっており、唇弁の背景を飾り付けていると見られます。

 そして、一番注目すべき点は、ラン科に典型的なずい柱(コラム)が見られず、仮雄ずい(Staminodeスタミノード)が発達していることです。スタミノードは品種によって独特の色や形をしており、品種同定にも役立っています。その役割は、多くの場合ポリネーターをおびき寄せることのようです。”雄しべ”に相当するのは、ずい柱の基部近くで左右二つに枝分かれしてその先端に葯室が付いている所です。また、写真には写っていませんが、(花柱)と示した棒の下面に柱頭が付いています。

受粉の過程

 花粉塊で受粉するのは一般のラン科と同じです。受粉のプロセスは、様々な方法で花に引き寄せられたポリネーター(昆虫)がポーチの中に落ちた時から始まります。ポーチの中は細かい毛が生えていて、柱頭・葯に虫を導く仕組みになっています。それ以外の方向には、逆向きの毛が生えていたり、返しが付いていたりで、逃げ出せない構造となっています。だから、必然的に虫は花の基部の方に登っていき、葯に触れることになります。すると、一般のラン科植物の時と同じように、虫には粘着体を介して花粉塊が付くことになります。そして、花の基部に設けられた唯一の脱出口を通ってようやく解放された虫は、また別の花に向かって飛んで行きます。

 次は、柱頭に花粉塊を渡すプロセスです。別の花で花粉塊を付けられた虫がポーチに落ちると、先ほどと同じように花の基部に向かって登っていきます。すると、葯の手前には粘液に覆われた柱頭が下を向いて待ちかまえているので、それに花粉塊が付き受粉ということになります。以上のようにポリネーターとなる昆虫は、知らない間に受粉の手伝いをさせられています。

 ポリネーターになり得る条件は、1. ランの花に魅力を感じていること  2. 遠くのランまで空を飛んで花粉塊を運べること  3.体の大きさが、葯や柱頭に触れて脱出するのにちょうど良いということ  4. 何度ポーチに落ちても懲りない積極性があること です。「ランの花に魅力を感じている」というのは、花粉塊を運ばせるのに極めて大切な条件です。できることなら他の花には目もくれず同種のランだけを訪花して欲しい訳ですから、ラン側はポリネーターとなる昆虫の種類を限定し、それが気に入るように、色や香りなどの形質を進化させていくのです。それに応じ、昆虫側も自身の形や行動を進化させていきますが、このように、お互いが選択圧を及ぼし合いながら進化することを共進化といいます。

Phragmipedium フラグミペディウム属

 Phrag. Grande 'Elwood'

 根元に達するほど細長いペタルが特徴です。

 Phrag. besseae

 オレンジ色の美しいランです。ポーチの入り口が狭まっており、アツモリソウ属(Cypripedium)のアツモリソウを想像させます。

 Phrag. Rosy Charmでしょうか。

 besseaeの一品種。ポーチのかわいい入り口が素敵です。


Paphiopedilum パフィオペディラム属

 Paph. sp.

 ドーサルセパルとペタルに斑点模様が強烈に入っています。おもしろいのですが、ほくろ顔のようでちょっと引いてしまいます。

 Paph. drury 'Goldwood'

 Paph. sp. (Winston Churchill x Hoopla 'Harbest')

 人工交配がさかんに行われ、新しい品種が続々生まれます。学名がまだつけられていない時には、学名に「sp.」を付ければよいとされているのですが。。。

 スタミノードをよく観察すると、その中心につやつやした小さなこぶが見えます。どうやら、これを蜜か水滴と間違えてポリネーター(ハナアブ)が引き寄せられるようです(Banziger H. 1996.)。その罠にはまるとスタミノードは滑りやすいので、ポーチに転落して受粉のお手伝いです。また、尿臭を放ち遠くの虫まで呼び集める可能性があるそうです。

Banziger H. The mesmerizing wart: The pollination strategy of epiphytic lady slipper orchid Paphiopedilum villosum (Lindl) Stein (Orchidaceae) Botanical Journal of the Linnean Society 121 (1): 59-90 1996

 Paph. Suime 'The Glove

 スタミノードがコウモリの鼻のようにも見えます。その真ん中に、みずみずしい水滴のような「こぶ」が見てとれます。この角度から見ると、ハナアブが興味を持ってだまされてしまうのも分かる気がします。

 色彩的に磁器の壺のようなイメージ

 Paph. micranthum

 ミクンラタムは、ポーチがピンク色でかわいい花です。

 花の特徴は大きめのポーチに「返し」がついており、ポリネーターが逃げるのを防いでいます。花の基部には特徴的なスタミノードが見られます。まるで黄色い羽をもった虫がとまっているようです。その両側には枝分かれした雄しべがあり、その先に黄色い葯室が観察できます。ポーチに落ちたポリネーターが脱出するためには、ポーチの基部とスタミノード、それに花柱からなる隙間を通り抜けなければなりません。すなわち、適したポリネーターとは、この隙間を通り抜ける時に葯室に触れるくらいのぴったりした大きさの昆虫でなければならないのです。大きすぎても、小さすぎてもポリネーターとしては不適当というわけです。

 Paph. Norito Hasegawa

 パフィオペディラムの仲間は葉から離れて一個だけ咲く頂花性のランなので、写真的に見映え良く撮ろうと思うと苦労します。やはり、野生に咲いていないと魅力は引き出せないということでしょうか。

 Paph. haynaldianum

 Paph. lowii

 Paph. rothschildianum

 花被片の色はくすんだ緑地のストライプだし、リップは茶褐色で心臓に血管が走っているようなすじ入り。女性的な視点で見ると、全く、気持ち悪いだけの花ですが、意外と男性陣に人気があります。

 1985年の研究(Atwood, JT 1985.)は次のように報告しています。スタミノードの様子をアブラムシの群れと思い違いをしたハナアブがそこに卵を産もうとするそうです。その時、誤ってスタミノードからポーチに落てしまうと受粉の作業を手伝わされるというのです。そう言われてみると、確かにスタミノードに生えている茶褐色の毛はアブラムシが群がっているようにも見えます。

Pollination of Paphiopedilum rothschildianum : Brood-site deception. Atwood, JT Natl. Geogr. Res. 1 ( 2): 247-254. 1985.

 Paph. supardii

 上のロスチャイルディアヌムと花の色と形が違います。特にスタミノードの変化が顕著です。「擬似アブラムシ」の様子が異なっているということは、ポリネーターも別種なのでしょう。

 Paph. sanderianum (写真提供:長政さん

 細くねじれた極めて長いペタルが特徴です。

 一説によると、この細長いペタルに蜂やアブがとまり、そこを登っていってポーチに落ちると言うのですが、本当でしょうか?

 実際には、長くねじれているペタルが風に揺れると「農業用防鳥テープ」のようにチラチラと目立つのでポリネーターに対して看板の役割をしているだけというのが正しいようです。この品種は、パフィオペディラム属では珍しく、ポーチ上部の縁で蜜を分泌しているといいます。蜜を目的にやってきた蜂などが足を滑らせてポーチに落ち、ポリネーターとしてはたらくようです。


今後も、蘭展や植物園でおもしろいランの写真が撮れたらこのページにアップロードしていきたいと思います。