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  • サギソウ(ラン科ミズトンボ属)

 サギソウは日当たりの良い湿原に生息します。最近では野生ではなかなか見ることはできませんが、園芸店で容易に手に入れることが出来るようになっています。シラサギが飛んでいる様な白い唇弁と長い距が特徴です。距を光に透かしてみると蜜が貯まっている様子がよくわかります。花の中央にある穴(距の入口)から口を差し込み、細長い距に貯まった蜜を吸えるのは口の長い蝶や蛾の仲間となります。

 花の中央を拡大してみるとかなり複雑な構造になっています。この構造から推測される受粉の仕組みは次のようになります。やって来たポリネーターが蜜を吸うために距の入口に口を差し込もうとすると粘着体が虫の口周辺に付着して、それに連結している花粉塊が葯室から引きずり出されます。このようにポリネーターに付着した花粉塊は、別の花を訪れたとき、粘着力のある柱頭に付着して受粉することになります。この写真では左側の葯室には花粉塊は残っていますが、右側の葯室は空となっています。運び去られると白丸のように粘着体も無くなるので空であることがわかります。

 シャープペンシルの芯を粘着体に触れさせると、簡単に花粉塊が着いてきます。花粉塊はモヤシのような形で2パートに分かれています。かなりしっかりと付着するので簡単には落ちません。このようにラン科の花はポリネーターに花粉を塊で運ばせます。

 なぜ、花粉塊で受粉なのでしょうか。ラン科の実は胚乳が無いためほこりのように小さく(1/1000mg以下)、万単位の数で多く実ることが知られています。数多く結実させるにはそれ相応の数の花粉が必要になります。そのため、花粉が詰まった花粉塊で受粉させるという方法に進化したという訳です。一般に、種には発芽のための養分が蓄えられていますが、ラン科の植物では発芽時ラン菌に栄養をもらうので養分を蓄える必要がなくなりました。ラン科の植物は、ラン菌の協力を得ることで究極まで種を小さくし、数を多く実らせる作戦をとった植物です。