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ルドベキア 花による紫外線の反射と吸収

 花はなぜ美しいのでしょうか。それはポリネーターの視覚があったからこそです。植物は子孫を残すため、花粉を運んでもらえるポリネーターに美しく飾ってアピールするように進化してきました。ポリネーターの代表であるハナバチや蝶など昆虫は、ヒトが認識できない紫外線も見ることができるといいます。そして植物側もその波長領域を利用してアピールしていることが知られるようになりました。今回は紫外透過・可視吸収フィルターU-360)を利用して様々な花を撮影してみました。

 ルドベキアの一品種(キク科オオハンゴンソウ属)

 舌状花の花弁(以下単に花弁と記述)の基部に向かってやや色が濃くなって見えますが色の境界ははっきりとしていません。

 ところが、それを紫外透過・可視吸収フィルターU-360)を用いて撮影すると左のように写ります。撮影方法の詳細は下記をご覧下さい。

 写真の明るい部分が紫外線を反射し、暗い部分が紫外線を吸収しています。色の差はデジタルカメラの特性と反射波長の微妙な違いの影響ではないかと考えています。

 花弁の半分より基部側が紫外線を吸収し、先端側が強く反射していました。また頭花の中心の筒状花では最も強く紫外線を吸収していることがわかりました。

 上記二枚の写真を重ねました。マウスを左の写真に重ねると切り替わります。


ルドベキア以外では花の紫外線反射はどのようになっているのでしょうか。近くの園芸店で許可を得て撮影しました。

 ガザニアの一品種(キク科クンショウギク属)

 花の形はルドベキアに似ていますが、紫外線反射の様子は異なっていました。花弁基部にある濃褐色の模様で紫外線吸収が強く、花弁の縁でやや反射がある他は一様の反射率となっていました。

 ヒマワリ(キク科ヒマワリ属)

 ルドベキアと同様、花弁基部側で紫外線吸収が強くなっていました。花弁先端側の反射はルドベキアほどは強くありません。

 ジニアの一品種(キク科ヒャクニチソウ属)

 この花も形はルドベキアに似ていますが、紫外線反射の様子は全く違っていました。花弁基部側の紫外線吸収もありません。この花では可視光線と紫外線反射の様子が似ている写真となりました。

 マツバボタン(スベリヒユ科スベリヒユ属)

 八重咲きのマツバボタンです。花弁の基部以外では紫外線を反射しています。クローズアップしてみると、中心部の赤い模様と紫外線吸収部は一致していました。また、雄しべが紫外線を吸収している一方、雌しべでは反射していました。右下の写真で花弁上に写っている黒い斑点はこぼれた花粉です。花粉も紫外線を吸収しています。

 バーベナ(クマツヅラ科クマツヅラ属)

 花の中心は色素が無く白いですが、紫外線は吸収してやや暗く写っています。

 ナデシコ(ナデシコ科ナデシコ属)

 可視光で確認できる褐色の輪状模様は紫外線写真では認められませんでした。雄しべの紫外線吸収がやや強い他はほぼ一様の反射となっています。

 ゲラニウム ブルーサンライズ (フウロソウ科フウロソウ属)

 野生のハクサンフウロに似ています。可視光写真では花弁基部は明るく写っているのに対し、紫外線写真では花の中心に吸収があり黒っぽく写りました。また、花弁にある筋模様も紫外線をよく吸収しています。

 ペラルゴ デンティキュラータ(フウロソウ科)

 これは左右相称花です。上弁2枚に特徴的な模様があります。蜜標と考えられます。それと同じ部位に紫外線吸収模様もありました。

 ゼラニウム(フウロソウ科テンジクアオイ属)

 これもペラルゴ・デンティキュラータと同じように2枚の上弁に紫外線吸収模様がありました。しかし、可視光線では全ての花弁が同じように見えています。

 ニーレン ベルギア(ナス科)

 合弁花の場合も紫外線を反射している花弁の中で中心部で吸収しています。花を斜めから見ると突き出したしべが紫外線を強く吸収していることもわかりました。

 カリブラコア(ナス科カリブラコア属)

 ニーレンよりもさらに花弁基部が筒状深くなっています。この花も紫外線を反射している中で中心では吸収しています。


花の模様と紫外線反射パターンが一致しないこともありますので、紫外線の反射と吸収の仕組みに興味が持たれます。

そこで、ルドベキア・プレーリーサン(写真左)を詳しく調べました。プレーリーサンは花弁基部側が濃いオレンジとなっています。 マウスを写真に重ねると紫外線写真に切り替わります。

まず、花弁を切片にして顕微鏡で観察しました。

 これは紫外線反射部位(花弁の先端側)の切片です。写真上方が花弁の表側、下方が裏側です。表側の表皮細胞は円錐状となっています。この形態については別ページで記述しています。 写真下は同じ視野の紫外線写真です。紫外線を強く吸収する部分はありませんでした。

 一方、紫外線吸収部位(花弁の基部側)の切片を観察すると、表側の表皮細胞は紫外線を強く吸収しており、大きさも大きいことがわかりました。 裏側の表皮細胞では紫外線の吸収はありません。また、紫外線反射部位に比べて細胞が小さくまとまっているようにも見えます。 ちなみにバックグランドの色が濃いめですが、これは切片を作るときに紫外線吸収物質が流れ出て封入した水に広がったためと考えられます。この物質は水溶性であることもわかりました。

 この顕微鏡写真は、紫外線反射部位と吸収部位の境界付近を花弁の表側から観察したものです。マウスを写真に重ねると紫外線写真に切り替わります。

 濃いオレンジの色素が満たされている細胞と紫外線吸収物質が満たされている細胞は一致していません。オレンジの色素が紫外線を吸収しているのではないことがわかりました。

 さらに花弁基部側の紫外線吸収部位を観察しました。花弁裏側の表皮をはがし、透過光で視野を明るくしました。

 マウスを写真に重ねると紫外線写真に切り替わります。

 濃いオレンジの色素は全ての細胞が持っているわけではありませんが、紫外線吸収物質はほとんどの細胞に貯えていることがわかります。

 これはちぎり取った花弁の紫外線写真です。

写真上が花弁裏側、写真下が表側です。顕微鏡写真で示されたように、花弁の裏の表皮細胞には紫外線吸収物質が貯えられていないので、紫外線は吸収しません。

 次に、花弁の汁をろ紙に叩き出しました。いわゆるたたき出し法、あるいはたたき染め法。

 写真上は紫外線写真。区別しやすいように3つの部分に切り分けました。それをろ紙にたたき出し紫外線写真を撮影しました。上と比較しやすくするため位置が同じになるように反転させています。

 これにより、紫外線吸収には構造や生命活動は全く関係なく、紫外線吸収物質の存在が重要であることがわかりました。

 ゼラニウム。

 ちぎり取って並べて紫外線写真を撮ったものです。通常の可視光写真は上に記載してあります。

 紫外線吸収は上弁2枚の特に花弁基部側に見られます。

 たたき出し法

 写真左は、たたき出した後のろ紙です。それの紫外線写真を撮ると写真右のようになります。

 花の色で染まっていないところで紫外線が強く吸収されていることがわかります。

 ろ紙にたたき出しできるので、ペーパークロマトグラフィーを行いました。

 写真左のサンプルは、プレーリーサンの花弁のうち紫外線吸収部位をすり潰したもの。展開溶媒は約50%エタノールです(計量スプーンでエタノールの濃度調整のため「約」)。

 写真右のサンプルは、左からプレーリーサン・プレーリーサンとゼラニウムを混ぜたもの・ゼラニウムです。展開溶媒は約60%エタノールです。

 クロマトグラフィーの結果から、プレーリーサンには少なくとも2種類の紫外線吸収物質があることがわかりました。また、ゼラニウムの場合は紫外線吸収物質は1種類と見られますが、クロマトグラフィーの移動距離が異なるので、プレーリーサンのものとは違う物質であることがわかりました。

 紫外線吸収物質は何であるかが次の課題となりますが、いわゆる台所実験では解決は不可能です。正確な構造まで決めるには大学の研究室レベルの分析機器が必要です。

 紫外線吸収物質はフラボン類かな???

・・・ということで簡単な呈色反応の試験をしました。(参考:フラボノイド色素の呈色反応

 上記右側のペーパークロマトグラフィーをアンモニア(キンカン・金冠堂を使いました)でアルカリ処理すると紫外線吸収部位が濃い黄色になるという実験。

 左:無処理 中:アンモニア処理 右:紫外線写真

 フラボン類は、無色〜淡黄色の水溶性の色素ですが、アルカリ性にすると濃黄色に変化します。


まとめ

 多くの植物において花弁では紫外線を反射しますが、花の中心部やしべでは吸収していました。また、可視光で見える蜜標と同じ位置で紫外線を吸収している花もありました。よって、花は、紫外線を認識できるハチやチョウなどのポリネーターに対し、紫外線を反射させてその位置を示し、吸収によって蜜のありかを示しているのではないかと考えられます。紫外線吸収は蜜標の役割を担っているようなのです。

 紫外線吸収は、花弁表側の表皮細胞に貯えられた紫外線吸収物質によって行われており、生命活動や構造は必要ありません。一方、紫外線の反射には花弁の構造が重要で、花弁の深部で反射した紫外線を表皮細胞の紫外線吸収物質がブロックして反射と吸収を調節しているのではないかと考えています。

 ペーパークロマトグラフィーの結果から、紫外線吸収物質は植物によって異なっていることがわかりました。ルドベキアについては複数の紫外線吸収物質を持っていました。水溶性の物質であることやアルカリ性にすると無色から濃黄色に変化することなどによりフラボン類と示唆されました。


紫外線写真の撮影について

器具

フィルター:U-360フィルター ((株)テックジャムより入手)

 カメラ:オリンパス E-330

レンズ:オリンパス 50mm F2.0 MACRO

 三脚

 U-360フィルターは5cm角のガラス製で厚さ約2mmです。黒い色をしており可視光線を通さないので透かしても何も見えません。

レンズのフードに左の写真のようにダブルクリップでフィルターを固定しました。フィルターに映っている白い円は反射している光源です。

 それをレンズに取り付けて撮影します。長時間露出が必須なので三脚を使用します。

 具体的な露出について。

例えば最上部のルドベキアの写真では・・・

天気:曇り

通常の写真: ISO100 f=2.2 1/1250

紫外線写真: ISO1600 f=2.2 2"

と紫外線写真では大きく露出をかけなければ写りません(この例では4万倍)。また、これは赤外線写真でも言えることですが、紫外線も可視光の屈折率と異なるため可視光で合わせたピントのままではボケてしまいます。紫外線写真の場合、可視光で合わせた後マニュアルでピントを近距離側にシフトする必要があります。撮影前ファインダーや液晶では映像を確認できないので、ピントは試行錯誤で合わせなければなりません。何枚も気にせず撮れるデジタルカメラだからこそできる撮影です。(他のカメラ、あるいは他の紫外線フィルターなら試行錯誤しなくてもピントが確認できる可能性はあります。)