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写真1            

  • ミゾソバ(タデ科タデ属)

 水辺や林縁などのやや湿ったところに群生しています。茎には下向きの棘があります。この棘を他の個体に引っかけて上に伸びることができるので、植物が密生した所に生きるミゾソバにとってはとても大切な棘なのです。

 花は枝先に十数個集まって付いています。花の色にはバリエーションがあって白花の先端が紅紫色の個体(写真1)や全体が紅紫色をした個体もあります(写真2)。これら上部に付く花とは別に地面に近い下の方にも花が1個だけついた枝が出ていることがあります(写真3)。密度高く群生しているために、群の中の地面付近は訪花昆虫が来られない領域でもあります。この1個の花はその後どうなってしまうのでしょうか。

 その花と同じ様な高さから地面に突き刺さったかなり長い枝が出ているのを見つけましたので、それを引き抜いて撮ったのが写真4です。その枝の先端には上部の花と同様の色をした花が1個ついていました。それを割ってみると雄しべ、雌しべともそろっていました。地中に花を潜らせたのではそれこそ訪花昆虫が来られません。これは一体どういうことなのでしょうか。調べてみると、この花は閉鎖花といって固く閉じた花の中で自家受粉する花でした。すなわち、上部の花の受粉は開放花にして虫たちに任せ、下部の少数の花は閉鎖花にして自家受粉をしていたという訳です。たった1個の花のためにわざわざ長い枝を伸ばして地中に潜らせなくても。。とも思いますが、これも花を虫の食害から守るための苦肉の方策なのかもしれません。それに、そのまま発芽できるので好都合なのでしょう。

     写真2          

写真3

 自家受粉の長所は何といっても受粉の確実性です。短所は多様性のある子孫を残せないこと。自家受粉でできた種子は、親の近くで芽生える限り遺伝子の多様性は必要ないと考えられます。親に近い性質を持っていれば親と同じ所でなら堅実に生きられるということです。反面、他家受粉は虫に頼る受粉なのでその確実性には欠けますが、多様性のある子孫を残せるので新天地での生育、繁栄には可能性が広がります。

 

    写真4