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 キュウリグサは3月〜6月に大変小さな花を咲かせます。この写真は6月半ばに小布施町で撮りました。

 キュウリグサという名前は、葉をもむとキュウリのにおいがすることによります。試してみましたが、う〜んという感じです。典型的な草のにおいとしか言いようがないような・・・。

 この写真から花の色の組み合わせは3種類あることがわかりました。つぼみと咲いたばかりの花(下の花)は淡赤紫色をしており、時間経過と共に淡青紫色に変わります(左上の花)。花冠の裂片基部にある黄色い鱗片が目立っています。この青紫と黄色は補色関係でポリネーターにアピールしているのかもしれません。そしてさらに時間が経つと鱗片の黄色が薄れて白くなっています(右の花)。色の組み合わせが3通りあって見ていて楽しい花です。

 スケールを一緒に写し込んで花の大きさを測定しました。この花の大きさは2〜3mmでした。雄しべと雌しべに通じる花中央部の入り口の大きさは0.4〜0.5mm程度でしょうか。これまた大変小さな穴です。こんな小さな花にやって来て、小さな入り口を通って受粉させるポリネーターはいったい誰なのでしょうか。

 花序を横から見たところです。この花序はサソリ形花序巻散花序)と呼ばれています。花序の下から次々と咲いていきます。それに従いくるくる巻いていた花序が巻戻って伸びていきます。

 小布施町で見られた株は茎やがくに白く細かい毛(伏毛)がたくさん生えていました。

 最後まで咲き上がると左の写真のように花序が長く伸びた姿になります。果実は4つにわかれています(分果)。果実を上から覗くと、ちょうど円グラフの25%が4つ組み合わさったような形。

 気になっていたポリネーターは、ヒメヒラタアブでした。胸部の後にある黄色い突起と腹の黒い帯が特徴。晴れた日に1時間くらい観察したところ、ヒメヒラタアブ以外のポリネーターは見られませんでした。そして7〜8分に一回くらいの訪花で予想より頻度が高かったのには驚かされました。予想では、こんなに小さな花に訪れる虫はいないのではないかと心配していたのです。

 このハナアブはあれほど小さな花冠の入り口に口を差し込めるのですね。アブが去った後の花を見てみましたが、花が壊されていることはありませんでした。

 青紫色と黄色の配色はツユクサをイメージさせます。ツユクサは蜜を分泌しないので専らハナアブの仲間がポリネーターです。この青紫と黄色はハナアブの好きな配色なのかもしれません。

  • 時間の経過と共に花の色が赤紫から青紫に変化する現象

時間の経過と共に花の色が赤紫から青紫に変化する現象はホタルカズラをはじめ他のムラサキ科の花でも観察されています。花の色の変化について詳しく研究されているのはヘブンリーブルー(西洋朝顔)で、参考になるかもしれません(日本植物生理学会・植物科学トピックス10)。以下に要約します。

 ヘブンリーブルーのつぼみは赤色ですが、咲くと青色に変化します。そして花が終わってしぼむと再び赤くなります。花弁において色がついているのは表皮細胞だけで、その液胞に色素が均一に溶け発色しています。色素はヘブンリーブルーアントシアニンで、その色を反映して花弁の色が変化することがわかりました。この色素は酸性度によって赤〜青に変わるので、開花によって液胞の酸性度が変化することが推測されます。そこで、先端の太さが1μm以下という極細のpH電極を開発し、液胞中のpHを測定しました。すると、つぼみではpHが6.6で、これに対して咲いた時では7.7まで上昇することがわかりました。また、花中心部の白色の表皮細胞ではpHの変化はほとんど観察されませんでした。以上まとめると、ヘブンリーブルーは開花に伴い、表皮細胞の液胞中でpHを6.6から7.7へと急上昇させることで液胞中のアントシアニンを赤から青に変化させていました。そして、しおれるときはpHを上昇させていた機能が失われることで、または細胞が壊れることでpHが低下して赤色に戻っていました。

 赤〜青色の花ではアントシアニンが花の色を決めていることが多いです。この色素はリトマス試験紙と同様、酸性では赤くアルカリ性では青くなる性質があります。キュウリグサにおいても花色の変化はアントシアニンと酸性度の変化で説明できそうです。でもこんな小さな花を研究材料にする人はいないですよね。

 アントシアニンは酸性度以外に、金属イオンの配位によっても色が変わります。アジサイの花色とアルミニウムの関係が有名です。アジサイの青色はアントシアニンがアルミニウムイオンと配位したときの色。土壌が酸性だとアルミニウムイオンが吸収されやすくなって花の色が青くなり、土壌がアルカリ性だとアルミニウムイオンの吸収が無くなり赤いアジサイになるそうです。これは一見リトマス試験紙と逆のようにも思えます。もっとも、赤いアジサイの花をすり潰して色素液のpHを上げればリトマス紙と同様青くなるはずです。