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写真1

   写真2

 写真3

写真4 
  • ホソバウンラン (ゴマノハグサ科ウンラン属)

ユーラシア大陸原産で明治〜大正時代に観賞用・薬用植物として持ち込まれた帰化植物です。日本の気候にも合っていて比較的丈夫なため各地で道ばたなどに野生化しています。長野県内でも野生化したホソバウンランを見ることができます。写真1:名前の通り、海岸の砂地に生えるウンランより葉が細長くなっています。写真2:また、花はキンギョソウ(ゴマノハグサ科)にも似ていますが、ホソバウンランの方は筒部の基部が下に長く伸びて距になっているのが特徴です。この距の中に蜜を貯めていると考えられます。下唇が大きく膨らんでおり、トリカブトの僧帽形をした上がく片のようにも見えるので、「雌しべはどこかな?」とつい下唇の下をのぞいてしまいましたが、もちろんそこには何もありません。実はこの花は上唇と下唇が密着しており、筒部を隠しているので外からは全く雄しべや雌しべの存在がわかりません。写真3:がくは5枚で花冠との位置関係もこの写真でわかります。写真4:密着している上唇と下唇に少し亀裂を入れてずらしてみたものです。かなりしっかり密着しているので亀裂を入れないとこの様に写真が撮れませんでした。このような花を仮面状花とよんでいます。下唇の隠された部分には細かい毛がたくさん生え

写真5

ていました。11月上旬にこの花を見つけたのですが、観察中、訪花昆虫は見られなかったので、強く密着した花にどのように入って蜜を吸うのか見てみたいところです。おそらく、ハナバチの仲間が力強くこじ開けて花の中に入り、距にたまった蜜を長い口で吸っていくと考えられます。その際、ハチの背中が受粉に関わっているはずです。これだけ密着していれば蝶をはじめ送粉に関わらない昆虫は完全にシャットアウトされているに違いありません。下唇を切り取って雄しべ、雌しべの位置関係を観察しました(写真5)。長い花糸と短い花糸が2本ずつあります。「>」の字形の葯と「<」の字形の葯が接しているため一見「X」の字に見えます。柱頭は長い方の葯と短い方の葯に挟まれていました。「XoX」と読めた?。。。配置の美しさに感動しました。花糸は花冠基部にくっついているので花が終わり花冠が落ちると花柱だけが残ります(写真3の上部に花冠の落ちた花が写っている)。周囲の個体では小さな丸い実がたくさんできていました。花期は夏から晩秋まであり、群レベルで見れば花期の長い植物です。

ホソバウンランのポリネーター(送粉昆虫)について

 ホソバウンランの花に訪れる昆虫はハチの仲間が中心で、蝶は訪れません。この写真のようにハキリバチの仲間(バラハキリバチ?)とトラマルハナバチがポリネーターの中心となっているようです。ハキリバチは上唇側にお腹を合わせ、花冠の中に頭を押し込んで吸蜜します。力の弱いハチの場合、この方が体重をかけられるのでもぐりこみやすいし、花粉を集める所はお腹に生えている毛なのでこの体勢が適していると言えます。トラマルハナバチは上唇側を背に合わせてもぐり込みます。花粉が、頭と背中の毛につきます。

 この他に、ミツバチ、クロマルハナバチ、フタモンアシナガバチ、アリの仲間などが訪れていますが、いずれも、その多くが距の部分に口をつけ、盗蜜していました。上唇と下唇ががっちり閉じているこの花の蜜を吸うのは一苦労で、その分、盗蜜が横行しているようです。正確な統計は取っていませんが、主観的には訪花昆虫の8~9割が盗蜜のようです。

 ミツバチやクロマルハナバチは個体によって正式ルートで吸蜜する個体もいました。左の写真は正しい作法で蜜を吸うクロマルハナバチです。頭と背中に花粉の付いた個体はその証拠となります。この個体は盗蜜することはありませんでした。逆に盗蜜蜂は盗み専門なので体に一切花粉が付きません。作法を心得た蜂は花の口をこじ開けるのに手間取るので、蜜集めに時間もかかります。よって蜜集めに関しては盗蜜バチに比べて不利になります。特にミツバチは力が弱いので、なかなか花の中に入れないこともありました。

全ての訪花昆虫が盗蜜に走ったらホソバウンランにとって一大事です。と同時に蜂側にとっても未来の花が減ってしまうことにもなるし、エサとなる花粉の供給源でもあるので急激に全ての虫が盗蜜を行うとは考えにくいですが、盗みが横行している現在、植物側からも何らかの進化の必要性に迫られているのかもしれません。