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写真1           

  • カタクリ(ユリ科カタクリ属)

カタクリ(写真1)は多年草植物で、花をつけるまでには種から発芽してから7-8年もかかります。カタクリの群落をよく観察すると、葉が2枚の株と1枚の株があることに気づくはずです。開花している株は必ず葉が2枚あり、1枚の株は花をつけることができません。すなわち、発芽して6-7年目までは1枚の葉で地上に現れ、鱗茎に十分な栄養が蓄えられたところで2枚の葉を出し開花することができるのです。毎年旧鱗茎の下に新鱗茎が作られていくので、開花している株では長さ5-6cmの鱗茎はかなり地中深くにあります。カタクリはスプリングエフェメラル(春のはかない命)、あるいは早春植物と呼ばれる一つで、まだ落葉広葉樹林の木々が葉を付ける前の早春に葉を展開させます。そして、他の植物が茂る頃には地上から姿を消してしまいます。光合成が効率的にできる早春には地上に出て、効率が落ちる時期に地中で眠ってしまうライフパターンを選択した植物なのです。花が終わると花柄が30cmくらいに伸びて稜が3つある実ができます。種にはエライオソームと呼ばれるアリが好む脂肪酸に富む部分があり、成熟して実からこぼれ落ちた種はアリによって地中に運ばれ、分散し発芽しやすくなります。片栗粉(でんぷん)はこのカタクリの鱗茎から作られますが、現在市販されている片栗粉はジャガイモから作られるでんぷんでできています。

写真2         

カタクリの花被片は普通淡紅紫色ですが、写真2は野生では大変珍しい白色の花を付けたカタクリです。妙高高原町を散策中に見つけました。

写真1の2株は花被の開閉度合いが異なっています。樹木の陰の具合から花被温度に差ができて開き方が違ったものと考えられます。これからもわかるようにカタクリの花は日が当たって花被温度が上昇すると開き、夕方、日が陰って温度が下がると閉じます。これは花が終わるまで毎日繰り返されます。

同じユリ科のチューリップでも知られていますが、花被片の開閉には細胞の伸張が関係しています。即ち、温度が上がると花被の内側の細胞伸張が外側に比べて大きくなるため開いていき、温度が下がると、逆に外側の細胞伸張が内側に比べて大きくなるため閉じていきます。昔のサーモスタットにも使われていたバイメタルの原理です。植物では細胞伸張を司っているのはオーキシンという植物ホルモンで、この濃度が花被の内側と外側で温度によって異なるため細胞伸張にも影響し、結果的に花の開閉につながっています。