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小さなアイヌ語教室 モシ

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■ アイヌ語にみる自然 ■

                         **天上の湖と大地に生きる神々 **
ここでは、自然の中に生きる術を求め、自然のリズムの中で自然を畏怖しながら生きてきたaynuの語彙の中から、具体的な自然の事物・事象を対象とする単語の代表的なものを示します。
アイヌ語の一つ一つの単語の中に自然と共鳴していくようなaynuの自然観が感じ取れます。
サブ・タイトルの天上の湖と大地に生きる神々は、読み進むうちに理解できると思います。
なお、アイヌ語で自然を表す代表的な単語はkamuyだと考えてよいのではないでしょうか。
単語は主に沙流方言によるもので表記します。

  <注>単語の配列は、@〜Cの分野別で、主要なものから(アルファベット順ではありません)。
     単語中の-や=は単語を構成要素(接頭辞・接尾辞や語根、人称接辞)に分解するための符号で
     通常は書く必要なし(要素の独立性が強い場合は-で表記⇒ -を書くのが一般的です)。
     ※の構成要素の説明は、@〜Cごとに既出事項は省略もありますので関係箇所をご覧下さい。
     *は、※以外の補足説明です。

@気候
  @-1. 季節
paykar*1 パイカ:春
sak*1:夏
cuk*1 チュ:秋
mata*1 マタ:冬  *派生語matanki マタンキ(=狩猟⇒またぎの語源)
  *sir-*1⇒⇒*1の季節になるという意味の完全動詞
   sir シ(=あたりの様子<自動詞や名詞と結合し主語(を示す人称接辞)の不要な完全動詞を形成>)

  @-2. 気候
sesek*2 セセ:暑い
popke*2ケ:暖かい
meman*2 メマン:涼しい
me-an**2
メアン又はme-rayke*2 メライケ:寒い  ※me(=寒さ)an(=ある)rayke(=を殺す)
  **2は感覚を表す言葉(=*2と感じる)
   sir-*2⇒⇒*2の気温・気候であるという意味の完全動詞(**2だけはsir-無しで単独使用する完全動詞)
   sir シ(=あたりの様子<自動詞や名詞と結合し主語(を示す人称接辞)の不要な完全動詞を形成>)

  @-3. 天候
sir-pirka シカ:天気がよい  ※sir(=あたりの様子<完全動詞形成>)pirka(=よい・美しい)
sir-wen シン:天気が悪い  ※sir(=あたりの様子<完全動詞形成>)wen(=悪い)
niskur ニ:雲  ※nis(=空)kur(=影)
apto*3ト:雨
upas*3 ウパ:雪
rera*3 レラ:風
  **3+as ア(=<動詞>)……雨(雪・風)が降る(吹く)という意味の文
   *3+isam イサ(=ない・いない・無くなる<否定動詞>)……雨(雪・風)が止むという意味の文

A天体
kan-to-kotor カントコト又はnis(-or) ニ(ニソ):空
            ※kan(=上の)to(=湖沼)kotor(=のこちらの面・の表面)nis(=空)or(=の所)
(to-kap-)cup(-kamuy) (トカ)チュ(カムイ):太陽  
            ※tokap(=昼)←to(=湖沼)kap(=皮)←ka(=の上・の見える側)p(=もの)
(kunne-)cup(-kamuy (クンネ)チュ(カムイ):月
            ※kunne(=夜、黒い)←kur ク(=影)ne(=である) *r+n⇒n+nの音交替
nociw ノチウ(ノチュー):星


makayo

pukusa

B植物
  B-1. 植物の総称
nonno ノンノ:花
kina キナ:草、山菜
(ciku-)ni (チク)ニ:木
(ni-)tay (ニ)タイ:林、森  ※tay(=木や草の集まって生えている所)
karus :カル:きのこ

  B-2. 野草
pukusa プクサ:ギョウジャニンニク
pukusa-kina プクサキナ:ニリンソウ
seta-pukusa セタプクサ:スズラン  ※seta(=犬、ののしりの言葉としても使用)……スズランは有毒
makayo マカヨ:フキノトウ
kor-ko-ni ココニ:フキ  ※kor(=(種としての)フキの重複使用(2回目のr省略))ni(=木)
noya ノヤ:ヨモギ
kunaw クナウ:フクジュソウ
maw マウ:ハマナス(の実)
surku スク:トリカブト  *その猛毒を毒矢に使用
eskerimrim エケリ:カタクリ
si-puske-p シプ:イナキビ  ※si(=自分)puske(=ふくらむ)p(=もの)
turep ト:ウバユリ(の根)
pe-ka-n-pe ペカンペ:ヒシの実  ※pe(=水)ka(=の上)n(←un=にある)pe(=もの)
hat ハッ:ブドウ(の実)
amam アマ:穀物  *amamの中心はヒエ
supki スキ:アシ(ヨシ)
si-kina シキナ:ガマ  ※si(=本当の、大きい)kina(=草)
kuttar クッタ:イタドリ
top ト:竹
ermu-kina エムキナ:オオバコ  ※ermu(=ネズミ)kina(=草) *茎がネズミのしっぽに似る
ki キ:カヤ
si-amam シアマ:米  ※si(=本当の、大きい)amam(=穀物)  *比較的新しい言葉か
kimi キミ:トウモロコシ  *←日本語の(トウ)キビから


kunaw

eskerimrim

pukusa-kina

maw

  B-3. 樹木
ci=kisa-ni チキサニ:ハルニレ
  ※ci(=私達が)kisa(=を穿つ)ni(=) *別名アカダモ、エルム……火を起こすのに利用
retar-tat-ni レタッタッニ:シラカンバ(白樺)
  ※retar レタ(=白い)tat(=樺の皮)ni(=)、tat-niで樺の木 *r+t⇒t+tの音交替
kamuy-tat カムイタッ:ダケカンバ  ※kamuy カムイ(=神)tat(=樺の皮)
pero ペロ:ナラ  *多くのnisew ニセウ(=ドングリ)がなる
tunni トンニ:カシワ  *大きなnisew ニセウ(=ドングリ)がなる
susu スス:ヤナギ
ke-ne ケネ:ハンノキ  ※kem(m省略=血)ne(=である、になる) *産後に皮を煎じて飲むと増血剤に
ranko ランコ:カツラ
sunku スンク:エゾマツ  *民話の中でaynu を助けることが多く敬愛される
tope-ni トペニ:(イタヤ)カエデ  ※tope(=乳液)ni(=木) *木に穴をあけると甘い汁が出る
ku-ne-ni クネニ:イチイ、オンコ  ※ku(=弓)ne(=である、になる)ni(=)
ci=ku-pe-ni チクペニ:エンジュ  ※ci(=私達が)ku(=を飲む)pe(=雫、露)ni(=)
yam-ni ヤニ:栗の木  ※yam(=栗の実)ni(=)
kasup-ni カスニ:マユミ  ※kasup(=杓子)ni(=) *この木で杓子を作る
nesko ネコ:オニグルミ、クルミ
opke-ni オケニ:コブシ  ※opke(=屁、おなら)ni(=) *枝を折ると臭い
sikerpe-ni シケペニ:キハダ、シコロ  ※sikerpe(=キハダ(シコロ)の実)ni(=) *実を香辛料とする
yay-ni ヤイニ:ドロノキ  ※yay(=自分自身(を・に))ni(=) *マッチの軸とする 

C動物
  C-1. 動物の総称
c=e-p チェ:魚  ※ci(i省略私達が)e(=を食べる)p(=もの)
cikap チカ:(カラス程度以上の大きい)鳥
cikap-po チカッポ:小鳥  ※po は指小辞 pon-cikapという地域も(pon ポン:小さい)
heporap ヘポラ:蝶
kikir キキ:虫

  C-2. kamuyと呼ばれる動物
(kim-un-)kamuy (キムン)カムイ:熊  ※kim(=)un(=にいる)kamuy(=)
kamuy-cep カムイチェ又はs-ipe シペ:サケ  ※si(i省略主要な・大きい)ipe(=食べ物)
kotan-kor-kamuy コタンコ
カムイ又はkamuy-cikap(-po):フクロウ  ※kotan(=村)kor コ(=を持つ)
rep-un-kamuy レプンカムイ:シャチ  ※rep(=)un(=にいる)kamuy(=)
at-kor-kamuy アッコ
カムイ:タコ  at(=ひも)kor(=を持つ)kamuy(=)
tannne-kamuy タンネカムイ又はkina-sut(-un-kur) キナス
(キナストゥンクル):ヘビ
                       ※tanne(=長い)kina(=)sut(=の根元)un(=にいる)kur(=)

  C-3. 魚など水中の動物
sak-ipe サキペ:マス  ※sak(=夏)ipe(=食べ物)
heroki ヘロキ:ニシン
susam スサ
:シシャモ  *susu スス(=ヤナギ)ham ハ(=)からできたとの伝説がある(柳葉魚)
hunpe フンペ:クジラ
pipa ピパ:カラス貝
am-us-pe アムペ:カニ  ※am(=爪)us(=(そこ)についている)pe(=もの)
ciray チライ:イトウ
samam-pe サマンペ:カレイ  ※samam(=横倒しになっている)pe(=もの)
nina ニナ:ヒラメ
e-rek-us エレク:タラ  ※e(=その頭(顔))rek(=ひげ)us(=(そこ)につく(生える))
tanne-cep タンネチェ
:ウナギ  ※tanne(=長い)cep(=)
to-cep トチェ
:フナ  ※to(=湖沼)cep(=)
atketek ア
ケテ:ホタテ貝
rap-us-cep-po ラプッポ:トビウオ  ※rap(=羽)us(=(そこ)につく(生える))cep(=魚)po(=<指小辞>)

  C-4. ほ乳類
yuk ユ:シカ
isepo イセポ:ウサギ  ※i(=イー<擬声>)se(=と言う)po(=<指小辞>)
ci=ronnu-p チロンヌ:キツネ  ※ci(=私達が)ronnu(=を殺す)p(=もの)
seta セタ:犬
cape チャペ:猫
tusunike ト
スニケ:リス
esaman エサマン:カワウソ
tannu タンヌ:アザラシ
horkew ホケウ:オオカミ
ermu エム:ネズミ
hoynu ホイヌ:テン
tonakkay トナッカイ:トナカイ  *アイヌ語が日本に定着
rakko ラッコ:ラッコ  *アイヌ語が日本に定着

  C-5. 鳥
paskur パ
:カラス
amam-e-cikap-po アマメチカッポ:スズメ  ※amam(=穀物)e(=を食べる)cikap(=)po(=<指小辞>)
cip-ta-cikap チタチカ:クマゲラ、キツツキ  ※cip(=船)ta(=(丸木舟)を彫る)cikap(=鳥)  
eyami エヤミ:カケス
kapa(r)-cir カパ()チ:クマタカ  ※kapar カパ(=薄い)cir(=鳥) *r+c⇒t+c の音交替

  C-6. 昆虫
soya ソヤ:ハチ
nin-nin-ke-p-po ニンニンケッポ:ホタル
                ※nin(=減る⇒ピカー<擬態(MOSIR仮説)の重複使用>)ke(=<自動詞形成>)

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