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小さなアイヌ語教室 モシ

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■ やさしいアイヌ語 ■
   
《序章》 アイヌ語とニホン語
 
 
 アイヌ語は人間の心に優しい言葉です。
 自然と共鳴する言葉がおおらかなリズム感とともに人を広々とした世界に誘ってくれます。

 また、アイヌ語は学ぶのにも易しい言葉です。
 ニホン語を使える人間にとってそのことは強く感じられます。

 アイヌ語は今まで類縁関係にある言語を見つけられないと言われてきました。
 それはニホン語も同様です。
 二つの言葉はいずれも言語の世界の孤児とみなされてきたのです。

 ところで、ニホン語を使う人間がアイヌ語に接した時、何が起きるのでしょうか?
 実は、簡単にその言葉の世界に入り込むことができてしまうのです。
 (その事例や原因の多くがこのページで示されるはずです。)

 このことはアイヌ語と日本語の類縁関係を暗示するものかもしれません。

 歴史的に弥生時代以後のニホン語がアイヌ語の母体になったとは考えられません。
 そこで、原アイヌ語とでも呼ぶ言語が(大陸伝来の言語も加え)ニホン語を形成した(注) とも考えられます。
 それならば、アイヌ語は日本語の父や母、兄姉ということになります。

   (注)こうした視点で書かれた書籍を挙げておきます。
        片山龍峯『日本語とアイヌ語』(すずさわ書店)……在野の研究者の緻密な言語学的実証の成果
     ただし、代表的なアイヌ語研究者の大半はこの考えに否定的です。
 
 
《第1章》 アイヌ語のイメージをつくるために
 
 
発音
 

@母音が主音になった音
  ローマ字表記では(子音)+母音で表示できる1音で、明確な音です。
  多くの発音が日本語とあまり変わりませんが、-uの音は日本語よりは唇を丸く突き出して発音します。

ローマ字表記 備考(カタカナ表記等)   ローマ字表記 備考(カタカナ表記等)
a i u e o アイウエオ ha hi hu he ho ハヒフヘホ
ka
ga
ki
gi
ku
gu
ke
ge
ko
go
カキクケコ
ガギグゲゴ
pa
ba
pi
bi
pu
bu
pe
be
po
bo
パピプペポ
バビブベボ
sa
sha
si
-
su
shu
se
she
so
sho
サシスセソ
×シ
ma
mi
mu
me
mo
マミムメモ
ta
da
-
-
tu
du
te
de
to
do
タ×トテト
ダ×ドデド
ya
(yi)
yu
ye
yo
ヤ(イ)ユイ
yiはiと同じ発音
ca ci cu ce co チチ ra ri ru re ro ラリルレロ 
na
ni
nu
ne
no
ナニヌネノ
wa
-
(wu)
we
wo
ワ×(ウ)ウ
wuはuと同じ音

  ※母音はa,i,u,e,oの5音。カタカナ表記で、ト、チ、チ、チ、チ、イ、ウ、ウの音も1音です。
   2通りの(=発音に幅がある)発音が可能な音については通常上段の表記をします。

A子音のみの音
  @のあとに続き、ローマ字表記では子音1文字で表示される1音です。
  日本語にはない発音が多く、明確な音ではありません(殊に破裂音といわれるp,t,kの音)。

ローマ字表記 備考(カタカナ表記等)   ローマ字表記 備考(カタカナ表記等)
p プ 表記は小さいカタカナ n ン 表記は大きいカタカナ
t ツ 表記は小さいカタカナ y イ @のiとほぼ同じ発音 表記は大きいカタカナ
k ク 表記は小さいカタカナ w ウ @のuとほぼ同じ発音 表記は大きいカタカナ
s シ 表記は小さいカタカナ r ラリルレロ 前にある母音の発音に連動 表記は小さいカタカナ
m ム 表記は小さいカタカナ  

  ※カタカナ表記では小さな文字を使用するものが多いのが特色です

B音節
  音の1まとまりで、1音節には@単独(開音節)@にAが続く場合(閉音節)とが有ります。
  単語はいくつかの音節(1音節の場合も)によりできています。
  音節はアイヌ語を理解しようとする時重要なものです。

Cアクセント
  アイヌ語単語の最初の音節が
          開音節の時には⇒⇒その次の音節(2番目の音節)に
          閉音節の時には⇒⇒その音節(1番目の音節)に
                                    アクセントがきます。
  ※例外もありますから、それは覚えなければなりません。

          ⇒第14回アイヌ語弁論大会発表内容 ※例外や要注意アクセントを ine などと表示

D音(素)交替
  ローマ字表記で一つ一つのアルファベットは音素と考えてよいでしょう。
  音節の接点(音節(や単語)の末尾と次の音節(や単語)の最初の音素)で連続しない音素があります。
  この場合音素に規則的な交替が起き、発音が変わってきます。
       (例) 表記 or オ+ta タ→発音 ot+ta オ
  つまり、 -r+t-→-t+t- となります。
  他にも、-r+c-→-t+c-
       -r+r-→-n+r-
       -r+n-→-n+n-
       -n+s-→-y+s-
       -n+y-→-y+y-
       -m+w-→-m+m-
       -n+w-→-n+m- などの音素交替が有ります。

          ⇒第14回アイヌ語弁論大会発表内容 ※音素交替の箇所を or ta などと表示
 
語順
 
 
例えば英語を習い始めたころ、以下のようなことにカルチャーショックを感じたことがあるかもしれません。
   「あの山は大雪山です。」
       →"That mountain is Mt. Taisetu.(あの・山は・です・大雪山)"
しかし、アイヌ語で同じ意味の文章をつくってみると、
       →"Toan nupuri Nutapkauspe ne.(あの・山は・大雪山(アイヌ語地名ではヌタカウペ)・です)"

アイヌ語では語順についてあまり強く意識する必要はありません。
日本語の文章を語順通りにアイヌ語の単語に置き換えれば、ほぼアイヌ語の文章ができてくる感じです。
   (少し極端な表現をしましたが、語順はかなり共通性が高いといえます。)

ここでは、語順が異なる最も明快な例として、否定の somo ソモ を挙げておきます。
否定の somo は動詞(句)などの否定する言葉の前で使用されるのです。
   (例)Cuk somo tanne. チュ ソモ タンネ. (秋は・…しない・長い→)秋は長くない。

ただし、(ka) somo ki カ ソモ キ という慣用表現を否定する言葉の後に使うこともできます。
        ※ka …も somo…しない ki …をする
   (例)Cuk tanne (ka) somo ki. チュ タンネ (カ) ソモ キ. 秋は長く(も)ない。
この場合は日本語と語順が同様ということになります。
 
 
人称
 
 
@人称
人称を示すものに人称接辞(主格・目的格を表すものがある)と人称代名詞があり、それで、4種類の人称(1人称・2人称・3人称・不定人称(4人称))を表します。
不定人称(4人称)は日本語には見られない人称で多様な使用法があります。その代表的な用法として、
   a.相手を含む私たち(1人称複数の用法)  cf.相手を含まない私たち→表の1人称複数(ci,as)
   b.一般的な人を表す(不定人称の用法)
等々があります。

A人称接辞
人称接辞はアイヌ語の表現になくてはならないものです。
ただし、3人称には人称接辞はありません(表記しません)。

また、動詞や名詞等と一体化して(この時、= でそれを表示します)、1つの単語のように使用します。
   (単純な例で)
     e=arpa. あなたは行く。(arpa 行く)
     arpa. 彼(彼女)は行く。
     eci=en=kik. あなたたちが私をたたいた。(kik …をたたく)
     ku=sucihi e=kik. 私の祖母が君をたたいた。(sucihi …の祖母)

以下の表は、主格人称接辞・目的格人称接辞・両者の組み合わせを一括表示したものです。

        目的格


主格 
1人称 2人称 3人称 不定人称
(4人称)
単数
en(=他動詞)
複数
un(=他動詞)
単数
e(=他動詞)
複数
eci(=他動詞)
- i(=他動詞)
1人称 単数
ku(=動詞)
×
-
×
-
×
eci=
×
eci=
k(u)= ku=i=
複数
ci(=他動詞)
(自動詞=)as
×
-
×
-
×
eci=
×
eci=
c(i)= ×
a=i=
2人称 単数
e(=動詞)
×
en=
×
un=
×
-
×
-
e= e=i=
複数
eci(=動詞)
eci=en= eci=un= ×
-
×
-
eci= eci=i=
3人称 - en= un= e= eci= - i=
不定人称
(4人称)
a(=他動詞)
(自動詞=)an
a=en= a=un= a=e= a=eci= a= a=i=

    (注) - :該当する表現がないことを示す
       (=動詞)(=他動詞)(自動詞=):人称接辞と動詞(他動詞と自動詞)・他動詞・自動詞の表記法を示す
       ×:予想される主格・目的格の人称接辞と異なることを示す(実際は直後の表示の通りとなる)
             ※共通の特色があるところは表の色分けで示してあります

B人称代名詞
人称代名詞は人称接辞のように必須のものではなく、実際にもあまり使われません。
(そのため、人称代名詞を使った場合でも、人称接辞を省略することはできません。)
使用するのは、他に比して特にそれを強調する場合です(主格・目的格いずれにも使用できます)。

   単複
人称
単数 複数
1人称 kani coka
2人称 eani ecioka
3人称 sinuma oka
不定人称
(4人称)
asinuma aoka

     (注)kaniのaなど:例外的なアクセントの位置
 
 
ただいま作成継続中
 
 
 
時制
 
     
 
品詞
 
     
 
単複
 
     
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