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▼Card-02「『のだめカンタービレ』にみた現代人の入浴観」▼
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毎日入浴しないと不潔?
先日患者さんから、
Copyright(C)2002.二ノ宮知子
「テレビドラマ『のだめカンタービレ』の中で、ヒロインがあこがれの千秋先輩に「おまえのあたま・・くさい」と言われ、「え〜そうですか?4日前にちゃんと洗ったのにー」と自分の髪の毛の臭いを嗅いで、「おフロは1日おき、シャンプーは5日おき。ふふ、こう見えても結構キレイ好きでショ」というと、ショックを受けた千秋先輩から「どういう教育を受けてきたんだ!」と罵倒されるシーンがあったけど、現代人のお風呂に対する感覚ってこういうものなんですね。」
と、いう話をされたので、早速原作コミックをまとめ買いして読んでみたんですが、確かに罵倒された上に、無理矢理浴室でシャンプーされているシーンがありました。
お話としては、このヒロイン(野田 恵、通称「のだめ」)がいわゆる「片付けられない女」で、部屋の中をゴミだらけにしているだらしない性格に設定されていることもあって、その延長線上として不潔にしているという表現で「毎日入浴していない」ということをネタにしたコメディータッチのシーンだったのですが、「1日おきの入浴、5日に一度のシャンプー(洗髪)」をしていれば、現実には決して不潔で臭うということはありません(もちろん、毎日きちんと汗の始末をしていればです)。
農作業や工事現場などでの肉体労働で土やほこりにまみれている仕事をしているなら別ですが、ここで先輩に怒られているヒロインのだめちゃんは音大生です。普通に考えて、5日くらい洗髪をしなくても臭って不潔に感じさせるほど汗をかくような生活ではありません。
この場合、「くさい」と言われた場面が、1台のピアノに寄り添うようにして座った時だったので、直接頭髪に鼻をつけて臭いをかぐほど接近していましたから、多少の体臭を感じさせたのだろう事がうかがえますが、千秋先輩が「どんな教育を受けてきたんだ!」とキレてしまった理由は、「おフロは1日おき、シャンプーは5日おき」というのだめちゃんの言葉を聞いてからでした。
つまり、現実に感じた体臭の程度よりも、むしろ「毎日洗髪をしていない」という情報を受け取ったことで相手を不潔と感じている事から、現代人の「毎日入浴しないのは不潔なことである」という固定観念を象徴するシーンではなかったかと思います。
入浴・洗髪は身体を冷やす
一般的には、お風呂は身体を温めてくれて身体によいと考えられていますが、実際にはお風呂というのは身体を冷やしてしまうものです。
温かい湯に浸かるのだから温まるのが当然と思われるかも知れませんが、身体が濡れる事で気化熱で体温が奪われますし、温かいお湯で体表の組織が緩むことで冷たい外気の侵入を許してしまうことで、身体を冷やしてしまいます。
身体が緩むというのは、現代医学的に考えるなら、皮膚表面の毛細血管が開くというような現象ととらえても良いと思います。体表の毛細血管が開き、身体の深部から熱(血液)を体表に運び出して気化熱で冷やしてしまうと考えると、少し納得ができないでしょうか。
また、入浴時には当然身体も洗いますから皮膚表面を覆って保護してくれている脂質を洗い落としてしまうことになります。しかも、昨今頻繁に使われている液状石鹸にはいわゆる「経皮毒」になる物も含まれている場合が多いので注意が必要です。経皮毒になるような化学物質は皮膚を素通りする程小さい分子構造の物が多いですから、肌に付着させればあっと言う間に体内に取り込まれることになります。
同様に、洗髪も身体を冷やす行為です。
髪は頭部からの熱の発散を調整する役割がありますから、身体に熱を持ちやすい男性は比較的薄く、冷えやすい女性は豊かになります。
髪を濡らせば保持している熱が奪われてしまいますから身体を冷やしてしまうことになります。男性はある程度洗髪によって熱を発散する必要もありますが、女性が毎日のように洗髪しては身体の冷えを強くしてしまい、軽いところでは生理痛や月経前症候群など、深刻なところでは不妊や子宮筋腫などを招く事にもなりかねません。
昔流行った「朝シャン」が如何に身体に悪いことかお分かり頂けるでしょうか。
このような考え方からみれば、のだめちゃんの入浴パターンは、実は女性として非常に理にかなった物であると言えます(まぁ、本人的には面倒だからというのが実際なんでしょうが・・)。
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←健康という側面ではある意味正しいのだめちゃんの入浴観。
もっとも、ちゃんと毎日着替えをしない彼女の習慣は改善の余地有りですが。
ちょっとズボラなのだめちゃんですが、除菌・殺菌・抗菌と目くじらを立てている潔癖性の現代人よりも、よっぽど人間らしい生活をしているような印象があります。
設定では九州の福岡(佐賀との境目付近)出身で、実家は海苔農家。のだめちゃんが部屋の掃除に無頓着なのは母親譲りということになっています。
身体に優しいお風呂の入り方
なんだか「お風呂に入ると冷える」と言われるとお風呂が身体に悪い物に感じてしまうと思いますが、入り方さえ間違えなければ入浴と言うのは良い習慣です。ここでは身体のためによりベターな入浴法のヒントを紹介します。
まず重要なことは、「お風呂は体力を使う仕事」だということを覚えて下さい。その上で、「体調と生活に合わせた入浴」を心がけることです。
入院している人が毎日入浴しないのは、病院の設備が足りないとか人手が足りないからばかりではありません。入院中は身体をほとんど使いませんから汗やほこりにまみれることがないので衛生面で毎日入浴する必要はありませんし、そもそも入院しなければならない人には毎日の入浴に耐えられるだけの充分な体力がありません。つまり、入浴しないことも養生の内なのです。
養生の観点から言えば、疲れている時、お酒をたくさん飲んだ時、食べ過ぎた時、睡眠不足の時、月経の時、寒い時などは入浴を避けるのが良いでしょう。こういう時には、入浴は身体に負担を掛ける余計な仕事になります。
生活の面を考えると、土木作業や農作業の肉体労働で充分に身体を使っている方は、疲れ切って入浴を避けたいと思うような状態に陥っていない限りは毎日入浴して汗を流しても問題有りません。
昼間の作業で充分に身体を使っていることで筋肉からの産熱も充分ありますし、代謝も良くなっているのでそれほど問題になりません。
中高生の部活動も練習の激しい運動部に限っては同様に考えて良いと思います(ただし、寝起きの朝シャンは禁止)。
それに対して、事務作業や屋内の軽作業のお仕事をされていて、普段あまり筋肉を使わない生活をされている方は、毎日入浴することは避けた方が身体を冷やさずに済みます(仕事帰りにスポーツジムで充分に運動されている方は身体を使っている方に近い考え方である程度大丈夫です)。
昼間の活動量が少ないと、身体が充分な熱を生み出せませんし、代謝もあまり進みませんので、その上夜に入浴してさらに身体を冷やすと病気の種を育てることになってしまいます。
こういう方の場合は、全身浴は3日に一度程度にして、毎晩足湯をされることをお薦めします。具体的な症状が出ている方の場合は、思い切って一週間に1度の入浴でも構いません。
足湯は、湯に浸す部分が少ないですから身体を冷やす作用は全身浴よりも少なく、全身浴よりも長時間浸かっていられますので全身浴よりも身体を温める作用が強いものです。
ほんの3分ほど熱いお湯に全身浸かっても、皮膚表面の血管が広げられてしまうだけで、熱はまったくと言って良いほど体内に入ってきませんが、足(足先からふくらはぎ付近)だけでも15分〜30分程度の時間少し熱めのお湯に浸けていると、血液を通して全身に熱が運ばれ結果的に身体の深いところまで温めることができます。
半身浴も筋肉量の多い太股、臀部などをしっかり温められてとても効果的ですが、不慣れだと上半身を換えって冷やしてしまう場合もありますし、刺激が強すぎて疲れてしまう事もあります。
また、半身浴は湯船で行うため、半身浴の直後に、肩まで湯に浸かることが出来ません(充分な深さに湯を張って、湯船にイスを沈めて半身浴をすれば可能ですが、湯船にイスを沈めることに抵抗がある方も多いようです)。
それに対して、足湯は洗い場でバケツやタライで行う事が出来るので、湯船には通常通り湯を溜めておいて、足湯を済ませて充分に身体を温めてから、今まで通りに入浴して、肩まで湯に浸かるというようなこともできます。
なお、浴室の準備ですが、入浴する際も足湯をする際も、浴室が寒い場合は必ず浴室を温める事を心がけましょう。
浴室暖房機があればそれを利用されれば結構ですが、無ければ電気ストーブやファンヒーターなどを浴室に入れて温めます。浴室は一般家庭なら2畳間程度の広さしかないでしょうから、6畳から8畳用に設計されている電気ストーブやファンヒーターを使えば、比較的短時間で温かくなります。
浴室内にコンセントはないでしょうが、脱衣所のコンセントから電源をとって、ヒーターを浴室内にいれ、浴室と脱衣所の間の扉を電源コード一本分だけ開けておけば良いだけです。その程度の隙間は問題になりません。ただし、電化製品を使う場合は、浴室に湿気があまりない状態で行って下さい。
それから洗髪については、もしも洗髪が出来る洗面台があれば、着衣のままで洗髪を済ませてしまってから入浴されることをお薦めします。
身体を洗ってから洗髪される方が多いのですが、身体を濡らしたままで髪を洗えば、髪を洗っている最中に身体がどんどん冷えてしまいます。これを防ぐために、髪→身体の順で洗うようにされることを薦めます。
洗面台で洗髪できない場合は、脱衣してからバスタオルなどを身体にまいて、なるべく身体を濡らさないよう、冷やさないように注意して、まず髪から洗い、次に身体という順番で進めるようにすると良いでしょう。
最後に、お風呂から上がるときに注意ですが、お湯で温められて緩んでしまった体表の組織をそのままにしておくと、熱が冷めるのが早く、また外気の冷気が体内に侵入しやすくなるので、さっと冷水をかぶって組織を引き締めてから上がられることをお薦めします。
身体の表面を引き締めてやるだけなので、さっとかぶるだけで充分です。シャワーなどで、全身にかるく冷水をあててやるだけで良いでしょう。
色々細かく書きましたが、まず最初に「足湯」を試してみて下さい。
その上で、毎日お風呂に入らないと気が済まない方は、入浴前に足湯をして「入浴で冷やす分だけ先に足湯で温める」というところから始めてみましょう。
また、入浴が面倒だと感じていらっしゃる方は、いつもの入浴を足湯に代えて、全身浴を3日おきにしてみましょう。
何か身体に症状が出ている方は、足湯を初めて入浴を減らすだけで少し症状が軽くなる可能性もあります。
騙されたと思って、3ヶ月ほど続けてみて下さい。
作品紹介
Copyright(C)2002.二ノ宮知子
『のだめカンタービレ』(講談社 KCキス)
1巻〜16巻(以下続刊)各390円
講談社刊『Kiss』(毎月10日25日発行)にて好評連載中
指揮者を目指すオレ様・千秋真一と落ちこぼれ変態ピアニストのだめ(野田恵)が奏でる笑いと愛の青春ラプソディ。ダメダメ・ヴァイオリニスト(自称千秋の親友)、ドイツのエロジジイ(世界的指揮者)、乙女なティンパニー奏者(男子)など・・・音大に大集合した奇人変人たちが、世界でいちばん笑える、そして美しい音楽を紡ぎだす。大爆笑の学園クラシック・コメディー!!
フジテレビ系にてテレビドラマ放送中(2006年10月16日毎週月曜9時〜)
出演:上野樹里 玉木宏 瑛太 水川あさみ 竹中直人
[ 感想 ]
春からはアニメ化も決定している人気コミック。噂はかねがね聞いていましたので、いつか読もうと思っていたんですが、患者さんから質問されたのを良い契機にして全巻一気に読んじゃいました。
多少ギャグに品性が欠ける面があるものの、『動物のお医者さん』『おたんこナース』の佐々木倫子先生の作品を思わせるコミックでした。
初読の際は、途中強引な転回がみられたので首を傾げた部分もありましたが、再読の際に、セリフとストーリーだけでなく、書き込まれているキャラクターの表情などにも気を配って読んでみると、なるほどと納得できる場面が多くなり、より楽しめました。
登場するキャラクターは音楽家という独特な世界の住人であるせいもあってかクセもアクもある人達ばかりですが、登場人物のほとんどが大学生にも関わらず、昨今問題にされているニート的なキャラクターは一人もいません。自分のペースで自分の道を懸命に進んでいる若者達のドラマであるところが、ある種人気を支えている部分と言えるのかも知れません。
テレビドラマの方は、第2話しか見ていませんが、原作の雰囲気をキャラクターとしては上手く持ち込んでいるものの、コミックで表されていた音楽性の表現がどうしても大味になっている印象を受けました。
音のないコミックで感動的な演奏を行っているシーンなどを、実際の演奏で表現しなければならないドラマでは、今後どのような味付けで表現してゆくのが楽しみです。
ただ、正直なところキャラクター作りに走りすぎているように感じるので、コミックでの表面上のドタバタだけを追いかけた軽いコメディドラマで終わってしまうような気もします。
アニメ化も決定してはいますが、この作品はコミックというメディアが一番おもしろさを引き出せるメディアなのではないかと感じました。
気になっているけど読むのをためらっているという方は、是非思い切って手に取ってみることをお薦めします。