『痛快!ローマ学』
塩野 七生/著 集英社インターナショナル 2002 \1700 主な舞台 古代ローマ帝国
古代ローマ帝国の興亡を描く『ローマ人の物語』を1982年から一年に一作のペースで刊行している塩野
氏。労作にして、人気シリーズの『ローマ人−』は読むほどに歴史的堆積としてのローマが私たちの知識と
なり、人生の財産となっていくものですが、大作であることは間違いなく、読みこなすにも大変な時間を要し
ます。そこで本書。これならば、『ローマ人−』ファンにとっては知識の整理となり、また『ローマ人−』未体
験組あるいは挫折組にとっては『ローマ人−』への道標となります。
歴代皇帝の採点票というのも興味深いし、また何よりも低迷し、迷走する現代日本へのローマ学から見た
処方箋的記述に溢れていて、ビジネスマンのためのリーダー学としても有用です。
『ローマの街角から』
塩野 七生/著 新潮社 2000 \1200 主な舞台 ローマ
ローマに住み、大作『ローマ人の物語』を書きつづける歴史家が、94年から99年にかけて綴った、日本
に向けて発信した65のエッセイ。
塩野氏は前書きに、これらの小文を「コラム」、「手紙」、「歴史物語作家のインクのしたたり」、「日本に
向けての切ない提言」と様々に形容する。つまり、そうした様々な要素をすべて含んだものだと言えるだ
ろう。
ローマに腰をすえ、壮大なるローマ帝国の歴史に没頭する著者は、日本の細細とした現象をただ表層
的に捉えるのではなく、ローマ人の持つ原点追求をひとつ核としたうえで、日本を論じ、「あるべき姿」を
模索している。もちろん現在のイタリア、イタリア人をも比較の材料としながら。
ひとつ1つは短いが、無駄のない文章には、読み手に背筋を正させる「何か」がある。
その時々の時事的なトピックス(ナポリサミット、阪神大震災、ダイアナ妃、オリーブ政権、ユーロ誕生…)
も取り上げていて興味深い。塩野氏の思想と人となりが全面に押し出された、非常に考えさせられる1冊
である。
『イタリアの夢魔』
澁澤 龍彦/著 角川春樹事務所(ランティエ叢書)1998 \1000 主な舞台 南イタリア
主として1970年代から80年代に書かれたイタリア関連のエッセイ集。
もちろんこれらの文章は澁澤の全集にて読むことは可能である。が、それもちょっと骨が折れる。
ゆえに本書はイタリアファンにとってみれば、まさに「いいとこどり」。
それでいて、澁澤の博識と巧みな文章に舌を巻くこと必至で、澁澤ワールドをこれまで知らなかった読
者を、その世界といざなう、大いなる「きっかり」となるはず。
文庫サイズなのに、なんともずっしりと奥の深い本なのである。
内容的には、イタリア紀行記、滞欧日記など、紀行文の形式をとったものが多い。しかし、本書は紀行
案内記として単純に分類することはできない。
書物偏重、外国へ実際に行くなんてことはしない、と宣言していた澁澤が、1970年、とうとうヨーロッパ
へと旅立つのである。
密室で書物から得た膨大な知識、それをいわば再確認していく過程が本書で語られる。
ゆえに一目歴史的建造物や遺跡や絵画を見ては、そこに文化、芸術、歴史、哲学…とあらゆる角度か
らの視座を提示してくれる。教わることが、あまりに多い、そして知的好奇心をくすぐる、そんな魅力的
な本である。解説は、巌谷国士。
『ローマ人への20の質問』
塩野 七生/著 文藝春秋(文春新書) 2000 \690 主な舞台 ローマ
「古代のローマ人を理解する」こと、それは塩野氏のライフワークでの第一の目的である。
『ローマ人の物語』(〜8巻 新潮社)で、現在、その目的は遂行されつつある。しかし、目的のための手
段は様々にある。
と、いうわけで、『ローマ人の物語』とは異なった―ローマ人に質問を投げかけ、それに答えてもらう―と
いう切り口で、ローマ人の本質に迫ってみようというのが本書である。
こうしたアプローチの仕方は、先に刊行された『塩野七生「ローマ人の物語」コンプリート・ガイドブック』
にも見える。
塩野氏は、そこで行った新たな「さぐり」の方法に、一応の成果を得たにちがいない。
ポンペイの娼婦宿の様相から「ポンペイ人=快楽の民」と、一言で括りきれるか。ローマ帝国の衰退に、
「ローマ人の堕落」をすぐに結びつけるのはいかがなものか。
ローマ人はその後の世界形成に及ぼした影響があまりに絶大なためか、またプラス残っているものが
断片的であるためか、彼らの「思想」「行い」「嗜好」などなどに対するこれまでの定説が、ものの見事に
私たちの抱く「ローマ人像」となってしまっている。
塩野氏は、そうした見解を部分的には正しいとしながらも、短絡的に決めつけてはいけない、と言いたい
のである。
私たちの投げかける20の質問は、逆にローマ人から私たちに差し出された、「人間の本質」に対する反
問なのかもしれない。
『イタリア・パルチザン』
早乙女 勝元/編 草の根出版会 1999 草の根出版会 \2200 主な舞台 イタリア全域
イタリアのパルチザン。
それは、ナチス・ドイツ軍とムッソリーニのファシズム政権に対しての国民的な規模の民衆蜂起のこと。
イタリアといえば、ファッション、芸術の国とイメージしがちだが、実は第二次大戦中、そんなハー
ドな面が
あったのである。
あまり馴染みのなさそうな歴史的事象のようだが、今いちど伊映画の名画「無防備都市」、「ロベレ将軍」
(ロベルト・ロッセリーニ監督)を思い出されたい。日本人のメンタリティからはかけ
離れた熾烈さが、イタリ
ア人には備わっている、そんな感想を抱かせるものがパルチザンであろう。
本書は「母と子でみる」シリーズの一冊。子どもにも歴史を捉えてもらうことが第一前提なので、語り口は柔
らかく、漢字にはルビつき、写真の多用、パルチザンゆかりの土地(ボローニャ、マルザボット、コモ、サル
ディ ーニャ、 ローマなど)からの現地レポートもある。だから、分かりやすいこと、この上ない。
ムッソリーニのこと、グラムシのこと等、よくわからなかった歴史上の人物のこともよーく理解できるはず。
ファシズム台頭から’98に起こった米軍機のケーブル切断事故まで、イタリアの歴史と事件を振り返る。