(19冊)
 
                                          イタリアの文化・芸術に関する本を紹介します
                                                         ( このページの最終更新は’01.12/25です)


『イタリア映画を読む リアリズムとロマネスクの饗宴

 柳澤 一博/著    2001   フィルムアート社   \2900      主な舞台    イタリア全域

2001年のカンヌ映画祭、パルムドール賞に選ばれたのは、イタリア映画『息子の部屋』。 監督・主演
は、ナンニ・モレッティ。この受賞に裏付けられるようにイタリア映画は今ふたたび黄金時代を迎えた。
「ライフ・イズ・ビューティフル」、「海の上のピアニスト」など、イタリア映画ファンならずも、そのヒットを
記憶している作品も増えてきている。
豊穣なるイタリアの映画を一冊の本で括るのは難しい。しかし本書は、巻頭で40年代から90年代に
至るイタリア映画史を的確に簡潔にまとめ、以下45年から99年までの代表的名画を45編解説する。
そして最後に作家論へと進み、9人の映画監督を語るのである。
ここに取りあげられる全ての作品はまさにイタリア映画史を形づくる名画であり、年代順にならぶそれ
らはそれぞれの時代の空気を醸し出しながら、ネオレアリズモとロマネスクを底流に息づかせている。
本書の素晴らしさは、映画を単なる作品論で終わらせず、監督の生き様をも含んで解説している点で
あろう。ヴィスコンティ、ベルトルッチ、フェリーニ・・・が、その時何を考え、何をもとめて映画に取り組ん
だか。本書を通じ、背景を知り、再び映像に戻るとき、観る者の喜びは倍加するはず。


『現代イタリア情報館

 日伊文化交流協会/監修  2001 星雲社/発売 ゑゐ文社/発行  \1500  主な舞台  イタリア全域

 イタリアの文化、社会、歴史、芸術、生活を知りたい時に1番手っ取り早いのは、イタリアの知りた
 いことが50音順で引けることだ、という点を本書を手にして初めて悟ることになる。
 現代イタリアを知るための書籍は多い。しかしそれは、たとえば現代の政党のことや今人気を博
 しているある特定のオペラ歌手のことだったりする。
 しかし私たちが現代のイタリアを理解したいというのは、ある現象についての今と、今何故そうなっ
 たのかの歴史的な積み上げ、背景なのである。
 その意味で本書は現代のイタリアを知ると同時に、文化的、歴史的背景を知ることができるという
 意味で(50音で引けるという体裁とともに)類書を凌駕する。
 そして挿入される図版、地図、コラム、漫画、メモなどが私たちの理解度を更に高めてくれる。
 この本を読む(引く)ことで、イタリアという国は現代的な現象であっても、それは長い長い歴史の産
 物であることが痛感されるだろう。
 とにかく、便利でありながら、イタリアへの知識が何よりも深まる本であることは間違いない。


『イタリアの覗きめがね スカラ座の涙、シチリアの声

 武谷 なおみ/著    2000 日本放送協会   \1020  主な舞台  ミラノ、シチリア、神戸
 著者自身のイタリアへの関心が、どのような変遷をたどっていったかを、旅に見たてたエッセイ集
 である。
 イタリア・オペラのプリマドンナ、ジュリエッタ・シミオナートの声に魅了され、それが彼女との文通、
 そしてイタリア文学への専攻へとつながっていく。
 シミオナートとの親交が語られる部分から、すでに読み手は本書に惹きつけられるだろう。
 そして、シチリア出身の作家の足跡から、シチリアに肉薄する。そこには、シチリアーノの生きた歴史
 がつづられ、冷徹な著者のまなざしが、いっそうシチリアの深い哀しみや喜びを浮き上がらせていく。
 神戸で遭遇した大震災。著者の「人生」への洞察はいよいよ深められていく。
 イタリア文学、映画、オペラ…と、イタリア芸術への視野を広げてくれる、非常に濃度の高い本でもある。

『個人生活 イタリアが教えてくれた美意識

 光野 桃/著    2000   幻冬社文庫   \533      主な舞台    イタリア全域

 ジャンニ・ベルサーチやフェラガモ・グループ会長といったファッション界をリードする人々のみ
 ならず、ごく普通のイタリア人の部屋をも拝見しながら、同時にその人の「人生」を、イタリアの美
 意識を探る。
 インテリアとは、つきつめれば「自分がどう生きるか」ということを形にしたものだと著者は言う。
 だから、素敵なインテリアを覗き見て、「いいなあ、自分の部屋もあんな風にしたい」というのは
 間違いだ、と…。
 なるほど、ここでカラー写真で紹介される部屋は、決して似ていない。それぞれが住まう人の個
 性を表わしている。
 日本で失われがちのもの。まず自分とは何かを見つめ直すことから始める。そして、世界でたっ
 たひとつしかない、自分だけのインテリアを模索し続ける。今まで一度も考えてことのなかったこ
 と、しかし同時にインテリアの真理ともいうべきものを本書は教えてくれる。
 人生を本当の意味で謳歌するイタリアの一面を、またもや垣間見た思いである



『「時」に生きるイタリア・デザイン』

 佐藤 和子/著    1995   三田出版会    \3800      主な舞台    イタリア全域

 まず、巻末の人名索引。建築、デザイン界の逸材の名が連なる。それだけで本書の内容の
 濃さがうかがえる。
 30年代から90年代にかけてのイタリア・デザイン界の動き―元来イタリア人が持つ感性と
 美的センスを基盤として、優れたアーティストの輩出と時代のうねりの中で醸成されていく過
 程―がここにはある。
 文章はページの上半分のみ。あとは美しい図版が埋め尽くす。専門がちになりやすい主題
 を、なんとか親しみやすい形にしようとする有り難い配慮が感じられる。
 エットレ・ソットサス、トマス・マクドナドといった巨匠へのインタビューは、30年にわたってミ
 ラノを拠点に活躍する著者だからこそ実現し得たもの。
 イタリアのデザインはどこか違う、と感じたならこの本を紐解くべし。
 アレッシィもオリベッティも、まさに「一日では成らず」。イタリアデザインのすべてがわかる、
 充実の一冊である。
 

『ミラノ インテリア修行』 

 杉本あり/著  1998        晶文社    \1800        主な舞台    ミラノ

 「留学もの」であると同時に、イタリア・インテリアの紹介本でもある。
 3章から成り、1章は留学にまつわるエピソードが綴られる。これは、イタリアに魅了される→
 語学留学→家探し、大家さんや仲間との交流、とよくありがちな話。しかし2章の半ば、インテ
 リアの学校に入学したあたりからのエピソードは、なかなか興味深い。(時間的に連続したも
 のではなく、その時々の雑感といった感じではあるが…。)
 建築に関しては、何の予備知識も持たなかった著者だけに、イタリアのインテリア、イタリア人
 の感性に対する純粋な驚きや感激が語られる。
 天井は2.70メートルないといけない、部屋から便器のある空間までに、便器のない空間を一
 つは置かなくてはいけないなどの建築法規。おしゃべりする空間という概念がしっかりと定着し
 ていること、インテリアでのタイルの多用、壁紙と木の床がないこと…。
 面白いのは、著者がつねに日本との比較でイタリア建築をながめ、イタリア建築のあり方の背
 景を探っている点である。
 写真はモノクロだが、現在進行形のミラノの姿を垣間見ることができ、タウン・ウォッチングのコ
 ツも学べる。
 

『永沢まこと 海辺のイタリア』

  永沢 まこと/著  1999    講談社   ¥2500  主な舞台    イタリア全域

 精緻なタッチ。イタリアらしい鮮やかさ、そしてやわらかいイメージ。
 すべて海辺のイタリアを描いた画集である。
 海に囲まれ、かつ幅のないイタリア半島。むしろ海辺を持たない街の方が少ないと言える。
 ポルトヴェーネレ、リオマジョーレ、アマルフィ、カプリ、ナポリ、タオルミーナ…。
 湾から臨んだ美景はもとより、海辺での人々の暮らしを活写しているのも楽しい。
 眺めているだけで、イタリアの風と光を感じられる、そんな一冊。
 著者は94年から、数回、「イタリア展」を日本で開催しているが、それらの集大成というべ
 き画集である。
 
 
『南イタリアヘ! 地中海都市と文化の旅

  陣内 秀信/著  1999    講談社現代新書   ¥840  主な舞台   南イタリア

 ナポリ、アルベロベッロ、マテーラ、パレルモはもとより、小さくとも魅力溢れる街―レッチェ、
 ノート、シャッカ、チステルニーノ、ポッツオーリなどをも紹介する。
 著者はイタリア建築の研究家。『ヴェネチア』(同じく講談社現代新書)で、北イタリアの水上
 都市を案内した著者が、今度は南に肉薄する。
 専門家ならではの切り口とはこのことで、アルベロベッロではトゥルッリ(円錐型ドームの家)
 の起源や内部の構造に触れ、チステルニーノでは袋小路の都市学的考察を行い、マテー
 ラでは洞窟都市の歴史的な変遷をつづる。
 建築から見た南イタリアがここにはある。
 興味深いのは、過去から現在にさかのぼる視点があることで、南イタリアの「今」を知ること
 ができる。
 大都市の歴史的街区は開発から取り残され、廃墟と化していた。それが、近年、修復、
 備され、活気を取り戻してきた。歴史的にも、文化的にも宝庫である南イタリア。
 南イタリアの知られざる魅力を語り、南イタリアへと読み手を誘う。
 写真と図版もわりと多く、一部カラーにもなっている。
 
 
『パスタ万歳!』                                               ページ先頭へ戻る
 
マルコ・モリナーリ/編  1999  リベルタ出版 ¥1600     主な舞台  イタリア全域

 シェフとして数多くの世界的なタイトルを持つ編者のマルコ・モンナーリは、東京・西麻布の「リス
 トランテ・ムゼオ」のオーナーであり、フジテレビ「料理の鉄人」でも優勝している御仁でもある。
 ご存じの方も多いと思う。
 その彼が、パスタへの愛をこめて世に問うたのが、本書である。
 本書を出そうと思い立った第一の理由として、日本には驚くほどの数のレシピ集はあっても、パ
 スタの文化まで言及したものはないという点を挙げる。
 それだけのことはある。本書には、パスタの歴史、文化、その味わいがぎっしりと詰まっている。
 一章の「パスタ讃歌」には、よくもここまで集められたと思うほどの有名人、文化人、歴史上の人
 物のパスタ語録のオンパレード。
 マリリン・モンローは、アルデンテのパスタを上手に茹で上げ、それを口にした作家を驚かせた
 という。その時、彼女はこう答えたとある。
   私の一番最初の旦那がイタリア人だったの知ってたかしら。ジョー・ディマジオよ。イタリア人の
     夫が世界一だとは、とても言いがたいけど、少なくともおいしいパスタの作り方ぐらいは教えて
     くれるわね
 そして、パスタの文化史、パスタのいろいろ、世界のパスタ事情…、そして最後に「おすすめパス
 タ」のレシピまである。
 笑えるのは、カバー裏の「日の目を見なかったパスタのいろいろ」の図。モディリアーニの彫刻発見
 に合わせて作った「モディリーアーニ顔」のパスタや、未来派運動期のシュールな形のパスタ、オリ
 ンピックの五輪を模したパスタ…。
 パスタ好きにはたまらないパスタ百科である。
 
 

『サン・ピエトロが立つかぎり  私のローマ案内

 石鍋 真澄/著  1991  吉川弘文館    ¥2427         主な舞台  ローマ

 著者は、イタリア美術史の研究家。
 ローマの「主要なモニュメントを見ながら、ローマの歴史やトポグラフィー、美術を考えてみよう」とい
 うのが、本書の目的であるが、1年に及ぶ滞在の中から生まれた本書は、著者のイタリアへの深い
 知識とあいまって、実に読みごたえのある、本格的なローマ案内となっている。
 ポポロ広場、スペイン広場、フォロ・ロマーノ、コロッセオ、パンティオン、トレヴィの泉…と、観光客の
 誰もが訪れるポピュラーなスポットを取り上げながらも、そこにはガイドにはまず書かれていないよう
 な歴史的な裏話があって興味をそそる。
 たとえばコロッセオである。
 現在のコロッセオと言えば、現代的なフォリ・インペリアーリ通りのアスファルトに突如現れる、考古
  学的な標本といった感があるが、統一以前は、生い茂る植物と渾然一体となった廃墟であったと言
  う。
 著者の引用するスタンダールのスケッチからは、自然と溶け合うロマンチックなコロッセオがくっきり
  と浮かび上がってくるのである。
 また、トレヴィの泉の「コインを投げ入れると再びローマに戻れる」という、例の伝説も、もとはと言え
  ば出発前にここの水を飲むものであったのが、いつのまにかコイン投げの儀式へと変化したと指摘
  している。
 いずれにしても、膨大なる古い諸文献を読みこなしているがゆえに、私たちに披瀝しうるエピソード
  だと言えよう。
 「あとがき」で著者は、「外国の文化について学ぶには、ある種の『愛』が不可欠」と記すが、まさに
  ローマの街中に溢れる文化に対する「愛」があるからこそ、生まれた労作であると言って過言ではな
  い。
 ローマを手探りで歩き、そして本書を読み、またローマに戻る時、古代のモニュメントが生き生きと親
  近感をもって蘇るに違いない。
 また、本書は、バロック美術を知る上での強力な案内役にもなっている。

 
 
『イタリア・都市の歩き方』

 田中 千世子/著 1997  講談社現代新書 ¥700      主な舞台  イタリア全域

 都市のガイドであると同時に、その都市を舞台にした映画案内になっている。
 本書については、「紀行・案内記」のコーナーで登場させるべきかどうか、少々迷った。でも、映画
 評論家の著者による本書は、やっぱりイタリア映画の入門書というのがふさわしい。
 で、「文化・芸術」のコーナーでの紹介となる。
 たとえば、第一章の「フィレンツェとトスカーナ」では、町の案内役として機能するのが、「眺めのい
 い部屋」、「サン・ロレンツォの夜」、「王女メディア」、「黒い瞳」、「ノスタルジア」などの秀作映画。
 主人公の散策を通じて、みごとにトスカーナ地方の都市を視覚的に浮かび上がらせてくれる。
 そして、随所に見えるイタリアの歴史と現状への言及。
 ヴェネチアからミラノ、フィレンツェ、ローマ、シチリアへと都市を巡りながら、私たちはいつしかイ
 タリアの今と昔、そして映画への興味を膨らませていくという、非常に立体的な作りとなっているの
 である。
 巻末の、都市とリンクさせた映画案内は、網羅的で、とっても役に立つ。
 また、同著者による、映画を用いたイタリア案内が、雑誌「楽園計画」(第2号’99.4.29 双葉社
 880円)にも掲載されている。(107-114p)こちらも必見!

      

『マエストロニになりたい    イタリアで修行する日本の若者たち

水沢 透/著 1998 東京書籍 ¥1800                                 主な舞台   北イタリア

 イタリアに職人をめざして留学している日本人って意外に多いもの。本書には、主として北イタリア
 の小都市に、アルティジャーノ(職人)をめざし、留学している若者へのインタビューをもとに、彼らの
 履 歴や動機、現在の生活 が描かれている。
  バイオリン制作、モザイク画家など、日本には存在しない知られざる職業の紹介もさることながら、
 それに従事する若者のすべてが、芸術系の大学出身といった、生来の専門家でないのが興味深
 かった。
 日本人は、もともとが手先の器用な民族であることを再確認した。
 また、日本のような徒弟制度はなく、掃除当番はマエストロ(親方)も含めて、みんなですると言う。
 そんな教育は、すでに家庭教育の段階で終わっているとのマエストロのひと言には、うーんとうな
 らされるものがある。
 さすが、成熟した大人の国!

 

『フェデリコ・カルパッチョの極上の憂鬱』                              ページ先頭へ戻る

木暮 修/訳・註 1997 幻冬社(文庫) ¥600                           主な舞台   トウキョウ

 これは読んでて笑える。それも極上の笑いを約束してくれる。
 トウキョウに住む、フィレンツェ出身のイタリアーノが、日本が輸入し独自に変形させたイタリア文化
 を驚愕の念をまじえつつ、紹介していくクダリがなんともいえない。
 彼自身、日本を誤解して観察している節があり、それが下段の註にて逐一注釈されているのも面白
 おかしい。
 彼の語る真正イタリアについての発言(ワイン、イタリア料理、ファッション…)も見逃せない。『エル・
 ジャポン』 に1989年から94年まで連載されたものをまとめたもの。
 当時日本はバブルに沸き、イタ飯ブームの頃で、この本から当時の日本がいかに華やかで、かつ
 イタリアに 対し初心者であったかがうかがい知れる。
 フェデリコ=木暮修というウワサもあるが、それが本当なら、日伊の比較文化論にこれほど長けた
 人もいないと思われる。
 

 
『イタリア料理入門』

永作 達宗/編 1986 新潮社(文庫 ん−20−28)  ¥699

 イタリア料理の本はブームだけに、ものすごくたくさん刊行されるようになった。
 その中でも本書は、値段も手頃、内容的にもプロセスが写真で詳述されている、また好き嫌いがあ
 る人でも 42ものレシピがあるから食べたいものが必ず見つかる、といいことずくめ。
 前菜から始まり、パスタ、魚料理、肉料理、デザートとイタリア料理のフルコースが章だてされている
 のも心にくい。
 巻末には各々の材料の説明がされているので、作れない人でもクッチーナ・イタリアーナ(イタリア料
 理)の知識がぐっと増えるに違いない。その成果はリストランテのチョイスで発揮されよう。
 料理の内容としては、多分にソース系で洗練されていると思いきや、ピサ近郊のホテル・レストラン
 のシェフの手によるものとあとがきにある。どちらかというと、北イタリアよりの味付けか。

 

『イタリアの味わい方』

田之倉 稔/編 1996 総合法令 ¥1845

 イタリアを広く網羅的に知るには格好の書。
 歴史、モード、料理、建築、音楽、美術、演劇、映画、政治と、イタリアをあらゆる角度から検証す
  る。
 編者の田之倉氏は、日伊協会の理事。その人脈だろうか、執筆人は、西村暢夫、高田和文、岩
  本憲児…いずれもそうそうたる顔ぶれ。
 ひとつひとつの事象を全体としてふかんできる。
 特に映画の項は、イタリア映画を極めるために何を観るべきかがわかる格好のガイドになってい
 る。
 

 
『イタリア美術鑑賞紀行』全7巻

 宮下 孝晴/著 1995 美術出版社 ¥2233〜2718          主な舞台  イタリア全土  

 本書は、イタリアの様々な街ごとに章だてされ、その街からの便りで章が始められるという、構成
  上の独自性がある。旅先の「私」から「あなた」へ向けて発信される手紙には、今日、訪ねる場所
  の予定や、暑さ寒さの報告、そして旅先で出会った人々との交流が、温かみのある、優しい言葉
 綴られている。
 まだ見ぬ、小さな街からの便りは、私たちの想像力をかきたて、続いて写真や図版、地図とともに
 その土地の芸術作品や建造物、風物への説明がなされる。そこには、単なる旅行ガイ ドでは知
 り得ない事柄が、エピソード風にまとめられている。
 たとえば、ローマのスペイン広場にあるバルカッチャの噴水のモデルは、テヴェレ川の氾濫で広場
 に流れ着いたボロ船であるとの記述が見えたりして興味深い。
 本シリーズは、いまだに光を当てられていないイタリアの街まちへと私たちを誘う。
 また、くまなくイタリアを周遊する著者に羨望の念をも禁じ得ない。
 巻頭の写真も、美しく貴重なものばかり。

 [1]ヴェネツィア・ミラノ編   [2]フィレンツェ・ピサ編  [3]シエナ・アッシージ編 [4]ローマ・ヴァティ
 カン編  [5]ナポリ・ポンペイ編  [6]シチリア編  [7]珠玉の町編・データ編
 
 

『秩序系と無秩序系  理屈をこえた国イタリアの愉快なエッセイ            ページ先頭へ戻る

 ルチアーノ・D・クレシェンツォ/著   1998 文芸春秋       ¥1,429    主な舞台  ナポリ

  映画監督、脚本家、俳優をもこなすイタリア人作家のヒット作。(’96のイタリアのベストセラー・エッ
  セイ)
  これは文句なしに面白い。イタリア人と日本人とをユニークさの点で比べたら、もちろんイタリア人
 に軍配があがるはず。
 そんなイタリアーニが大喜びして読みあさったことを踏まえるなら本書はとんでもなく面白い、とい
 うことの証左になるだろう。
  著者はマルチになんでもこなす人だけあって、読んでいても抜群の聡明さがビシビシと伝わってくる。
 行きあたりばったり書きつけていくのが好きだと序で述べているが、タイトルの秩序系・無秩序系と
 いうテーマは、話題が多岐にわたりながらも、決してはずさないあたりが只者ではない。
  また、登場するイタリア人たちも、一筋縄ではいかない人たちばかりだ。
 宝くじに当たったというフォフォ、数学者カッチョッポリ、携帯電話貸し屋のコラスティなど。
 でも、いちばん手強いのは、著者のデ・クレツェンツォその人である。
 哲学、物理学、数学などの問題を、たとえ話で巧みに説明してくれる。
  作家になる以前はIBMのローマ支社長だった著者の、当時のよもやま話も面白い。
  イタリアになんの興味がない人が手にしても面白いものだから、日本でもベストセラーになってもち
  っとも不思議ではない。
 イタリアの文化を、イタリア的発想でダイレクトに知るための格好の書ともいえる。
 

 
『イタリア的考え方 ―日本人のためのイタリア入門

ファッビア・ランベッリ/著 1997筑摩書房(ちくま新書)¥660    主な舞台 イタリア全般

 この本は、イタリアーノによるイタリア入門である。それも、勝手気ままに書き散らすのではなく、山
 口昌男氏の愛弟子というだけのことあって、深かーいふかい心理的、社会学的かつ歴史的分析に
 縁取 られている。
 日本と比べると閉まっている店が多い。ストライキも多い。営業時間が不便。といった不平不満か
 ら、 私たち イタリア人に怠惰な国民性をイメージしがちである。
 要するに、陽気だけど愚かだと思うのである。
 しかし、同時に彼らの作り出す文化や芸術や製品はとても気に入り、これらは楽しい生活の現れ
 とだと思っている。
 日本人が描きがちなイタリア人の心性の誤りを看破するとともに、逆に日本人の思考回路をあぶ
 り出すという、芸当をやってのけるのが本書である。まさに日伊比較文化論。
 
 

『ウソも芸術、イタリアン』

 高岸 弘/著 1998 講談社 ¥1600                   主な舞台  ミラノ、サルデニア

 今から30年ほど前のこと。建築家の卵である著者は、ニューヨークを目指す。その途中下車のつ
 もりで立ち寄ったローマ。そこでのすぐさまに味わったトラブルと、イタリア人との交流。そして歴史
 の息づく町並み、すべてにハマってしまった著者は、一週間も経つと、この国で住みつづけるため
 に職探しに奔走する。そして2ヶ月目に運よくありついた建築事務所での仕事。そして10年もの歳
 月をイタリアで過ごすことになる。
 この本の面白いところは、イタリアの個性や芸術が、人を喜ばしたいという、強烈な欲求によって
 生じ、そして発展したという視点である。イタリア料理がうまいのも、ファッションが優れているのも、
 手品のように人々を驚かせ、喜ばせたいため。
 その代表格は、イタリアに横溢する嘘である。ドロボーにしてもしかり。やられたときは無性に腹が
 立つけど、他人に語れば手を叩いて喜ばれるようなエッセンスが、そこにはある。
 女を口説く作法も、イタリア人ならではの機知とユーモアで溢れている。
 繰り広げられるイタリアでの生活は、読み進めていくことが、しだいに惜しくなるほど、面白い。
 朝起きるとベッドの位置まで移動してしまうような傾いたホテルの部屋にも順応してしまう著者も
 多分にイタリア的な人である。
 日本ではほとんど紹介されていないサルデニアでの旅行記も、興味深い。
 日本に欠けているものが見えてくる一冊。
 挿画はすべて著者。画家でもある著者。文章だけではわからないものが、巧みにスケッチされて
 いる。 
 
 
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