(18冊)
               行く前も行ってからも読みたい、ディープなイタリア案内
                       (このページの最終更新は’01.7/1です)


『ローマ散策』

 河島 英昭/著  2000   岩波書店 ¥700  主な舞台  ローマ 

各章の冒頭にはボッカッチョッの『デカメロン』の手法に倣い、短い導入語句が付されている。著者によれば、
これはどこから読み始めてもいいようにしたための工夫とのこと。なるほど、散策の出発点はどこから始め
てもいいものである。
3000年のローマの歴史と著者の約30年にわたるローマとの関わりの歴史が交錯している。ローマ案内であ
るが、観光案内ではない。カンピドッリオの丘、スペイン階段、テーヴェレ河・・・散策しながら、膨大な歴史と
しての時間が、あるいは著者の留学時の時間が、そして現在の時間が併存し、そこに美術、音楽、文学とい
った文化が横溢する。

書評めあてに曜日ごとにちがう新聞を買いもとめ、それらをもとにローマの古本屋をめぐり、その行程にはパ
ンテオンが、トレーヴィの泉が、そしていつの間にか日が沈み、ナヴォーナ広場の噴水で水音を耳にする・・・。
パンテオンの円天井にうがれた円の虚空から滴る雨水で、円形にぬれていく石の床、防御壁のなかった昔、
手を伸ばせば触れられたラファエッロの墓・・・・。まさにあらゆる時間が交錯する都市を散策する、不思議で
心躍る雰囲気が本書には満ち溢れている。
また、詳細な街路図がイマジネーションを膨らませるだろう。あいかわらずの格調高い文体は、繰り返し読む
ほどに心に沁みこんでいく。


  『地中海の不思議な島

 巖谷 國士/著  2000    筑摩書房 ¥2500       主な舞台   地中海の島々

地中海という括りの中で描かれている紀行記ゆえに、舞台はイタリアにとどまらない。キプロス島、ロードス
島、サントリーニ島、クレタ島、シチリア島、サルデーニャ島、コルシカ島、バレアレス諸島。
イタリアの都市として取り上げられているのは、シラクーザ、セジェスタ、セリヌンテ(いずれもシチリア)とカリア
リ、サッサリ、パルマヴェラ、サンタ・テレーザ(いずれもサルデーニャ)である。
歴史に関わる記述については、ページ下の余白に補足説明がある。
訪れた土地を描写しつつ、時にはその土地に関わる神話が語られる。
著者の手によるたくさんの写真のみならず、精緻な風景描写によっていまだ訪れたことない土地を体感するこ
とができる。
著者が「島々のよびおこす『不思議』の成分は」、「感覚的なもの」だと指摘するが、まさに島に共通する「五感
を通じて新しい現実をめざめさせる」不思議な力が本書にはみなぎっている。光と影の織り成すコントラスト、
青い海、色彩ゆたかな花・・・。

遺跡めぐりには不便なシチリアにあって、偶然出会った善意の人々によって目的地へいざなわれていくあたり
は、私自身も経験したことである。
ダイナーズカード発行の「シグネチャー」誌に連載されていたもの(25回分)を全面的に書き直したもの。

しゃべるが勝ちの 朝岡式イタリア旅行術』

 朝岡 なおめ/著  2000    小学館 ¥1300        主な舞台   イタリア全域

NHKのイタリア語講座に出ていた頃、初めて著者と出会った。 と言っても、その声とだけの邂逅。(ラジオ
講座) 
その時、「この人は何者?」といぶかった。
と言うのも、とにかく発音が「イタリア人」、早口加減が「イタリア人」。ふっと切り替えて、日本語を話して
れなかったら、きっと永遠にイタリア人だと思い込んでいたに違いない。
2歳から12歳まで、イタリアで暮らしていた。そんな経歴を知って、なるほどと思った。
「高熱を出した時は、味噌汁よりもミネストローネの方がありがたい」と「あとがき」で語る。日本的な顔立
ちなのに、生粋のイタリア人。そんな不思議な日本人女性である。
そんな著者が書くイタリア旅行のハウツウ本とくれば、もう、買い!
実際、これほど期待を裏切らなかった本はなかった。
タクシー編、ホテル編、街歩き編、エステ編…と10の章にわかれる。それぞれの終わりに、イタリア語の
「コロシ文句集」と「お役立ち単語」がついてくる。
そんな形式の本は多い。しかし、これは人格形成以前にイタリアをまるごと取り込んでしまった人の手
による本であることをお忘れなく。
旅行中のコツはもちろんのこと、イタリア人の生態や食生活、よくつかう言葉なんかが散りばめられてい
て、イタリア好きには、読みすすめるのが惜しいほどの楽しさ。
5つ星ホテルの値切り方、イタリア男性ウォッチング、エステ体験などなど、他では知り得ない、生きた情
報も満ち溢れている。
イタリア初心者にも、上級者にも、イタリアの楽しさを満喫できる、そんな1冊。
 

『イタリア=鉄道旅物語』

 原口 隆行/文 三浦 幹夫/写真 1999 東京書籍 ¥1800   主な舞台  イタリア全域

イタリアで旅行するなら、どんな交通機関よりも鉄道をおすすめしたい。
車窓からの変化に富んだ風景を眺め、風や光を感じる。そして車内でのイタリア人とのふれあい…。旅
行の醍醐味が、鉄道をつかうことで倍増すること間違いなし。
で、本書である。イタリア鉄道fsだけではない。ローカル色ゆたかな様々なローカル線まで紹介する。
カラーの写真、モノクロの写真を大量に織り込みながら、イタリアの今と来し方を教えてくれる。切符の
写真がたびたび登場し、ページをめくりながら旅のイメージも湧く。鉄道旅行でのコツも満載。
さすがに食の国。駅構内の売店やバールの充実ぶり、食堂車のテーブルクロスのかかった小粋なテー
ブル、迷うほどのメニューの品々…。
イタリア旅行のプランづくりにはもってこい。また、日本にいながらにしてイタリアを列車で横断する、そ
んな芸当も本書をもってすれば可能である。巻末に「イタリアの私鉄リスト」付き。
 

『イタリア旅行の王様 悦楽の国を遊びつくす裏ワザ集

 河野 比呂/著  1999    光文社文庫 ¥552         主な舞台  イタリア全域

本書はこれまでの旅行ガイドとはまったく異なる概念のもと作られている。
楽しく読めて、かつ「こんな話が聞きたかった!」という本。
中途半端な情報、イメージ中心、自慢話、どこにでも書いてある情報…。ガイドというのはとかく、現地
で役に立たないことが多い。
その点本書は、おいしい店のマップやある地域の歴史などが載っているわけではないが、聞いててよ
かった、教わっておいてよかったとしみじみ感じさせることばかり。それを耳打ち話のように聞くことが
できるにくい文体。
現地のなま情報の取り方、事前予約すべき事柄、ほんとうに得な切符の買い方、これがわかなけれ
ばもうアウトのイタリア語などなど。ここぞという耳より情報は太字表記になっている。
イタリア旅行のプロを自認する人でも、本書を読めば目からウロコ。現地を5週間でまわり、得たノウ
ハウの数々。旅行前に必ず読んでほしい1冊。
 

 『イタリア庭園の旅 100の快楽と不思議

 巖谷 國士/著  2000    平凡社 ¥1524         主な舞台   イタリア全域

イタリアの庭園の歴史は長い。古代ローマ時代からの長いながい蓄積。
そして、イタリアの庭園はおもしろい。フランスやイギリスのそれと比べると、遊戯性に満ち溢れ、多様
さにも目を見張るものがある。
ヴェネツィア、ミラノ、フィレンツェ、ローマ、ナポリ、パレルモといった個性あふれる6大都市を出発点と
して100の庭園をめぐる旅。
著者は、年に数度はイタリアを訪れ、イタリア文化に造詣の深い巌谷氏。てんこもりの美しい庭園写真
も、氏によるものである。紹介文も、抑制のきいた文章で、イタリア文化の真髄をとらえている。庭園に
はナンバリングがなされ、写真への参照も容易。
庭園というと、まっさきに思い浮かぶのはイギリス。しかし、この本を開くと、イタリアにはいかにたくさん
の素晴らしい庭園があるかがわかる。そして、これらの庭園は、一般的なツアーでは訪れることのない
ものばかりである。
本書を紐解けば、あらためてイタリアの底深さを痛感することになるだろう。
装飾、彫像、形態…様々な部分にドキッとさせられる、あるいは思わず笑ってしまう、そんな仕掛けに
がほどこされた庭園の数々。
庭園ひとつにも、イタリアの独特な感覚が、おおいに生かされている。
 

『ナポリと南イタリアを歩く』

 小森谷 慶子、小森谷 憲二/著 1999 新潮社 ¥1500  主な舞台 ナポリ、ほか南伊

ご存じ小森谷夫婦による、イタリア紀行シリーズの第3弾。
イタリアで国際ジャーナルリズム賞を受賞した著者だけに、この地域の取り上げ方は広範囲に及び、ま
た奥が深い。芸術的な写真集という側面は、『シリチアへ行きたい』『ローマ古代散歩』といった同シリー
ズと変わらず、遺憾なく発揮されている。
南イタリアと言うと、最近ではイタリア政府も修復に本腰を入れ始め、また世界文化遺産に登録されつつ
あり、にわかに脚光を浴び始めているゾーンである。
それでも日本人観光客は、ツアーの日程のため、せいぜい行ってもナポリとポンペイくらいか。
そんな中で広範囲に南イタリアの魅力を、ビジュアルに語ってくれる本書は、南伊の強力な道先案内人。
地方の様々な都市の紹介はもとより、プレセピオやカメオ、大ギリシア、南イタリアの食など、興味深いト
ピックスも挿入される。
  イタリアにふりそそぐ陽光のほとんどを南イタリアが独占しているのではあるまいか―私はここを
  旅するとき、いつもそんな風に思ってしまう。
序での著者の言葉である。
実際に旅をしなくとも、この本からあふれ出る光から、読み手はきっと著者と同じ感慨を抱くはず。
 

『塩野七生「ローマ人の物語」コンプリート・ガイドブック』
 新潮45編集部/編  1999  新潮社   \2000           主な舞台  ローマ

古代ローマファンには、まさに待望の書がついに刊行!と言ったところか。
ローマほど古代と現代が渾然一体となった街は、他に類を見ない。どちらかというと広い街ではないが、
ここには、紀元前からの夥しい遺跡が現存し、何度足を運んでも、どうしても見落としてしまうモニュメン
トが山とある。
本書は、新潮45の編集部が総力をあげて、そしてまた古代ローマを知るためのバイブルとしても名高
い塩野氏の『ローマ人の物語』をベースにしているだけに、まさにコンプリートの名にふさわしい実に網羅
的な完璧なガイドに仕上がっている。
4つのおすすめコースは、古代ローマを知る上でうってつけ。パンテオンやカラカラ浴場など「地球の歩き
方」レベルのガイドに載っている著名なものはもとより、モンテマルティーニ美術館などイタリア通の好む
スポットも、すべて美しい写真をまじえて紹介。「もう、ひとつ先のローマへ」なる第2章では、ローマ近郊の
オスティア・アンティカはもちろんのこと、チェニジアのカルタゴまでガイドしてくれている。
塩野七生と語り、歴史を知り、また知られざる魅力的なお店も紹介。古代ローマ人名録、ことわざ、映画、
オペラ…もりだくさんの企画。
至れり尽くせりのこの本は、値段以上の価値があることを必ず請け合います。
 

『イタリアをめぐる旅想』

 河島 英昭/著 1994 平凡社   ¥1165  主な舞台  ローマ、トリノ、サルデーニャ 

タイトルに「旅想」とある。
まさに、旅にて想ったことが、ここには中心的に綴られていて、そこが普通の旅行ガイドとは、一線を画す
る点である。
著者は、名高いイタリア文学者であり、あのエーコの『薔薇の名前』の訳者としても知られる。
14年というインターバルを経て、’80-81年に再び、イタリアに暮らし、イタリアを巡り、文学者の足跡をたど
りつつ、作家(パヴェーゼ、ジョイス、ロレンス…)の人生の謎を探り、また自らの人生とイタリアの暗き現状
に対しての内省を試みる。
ローマの落書、国境としてのトリエステ、サルデーニャの物静かな人々…。
著者はひとりイタリアの各地を移動しながら、イタリア人の土地と心に触れる。
イタリア人は自分が凡庸であることを知り尽くしているがゆえに、人に対して誠実であり得ると綴る著者は、
人生の奥義を確かに知っている人である。何度も読み返すほどに、味わいぶかい闊達な文章からは、学
ぶべきものがあまりに多い。「詩的経験の源泉」を見つめた、伊文学者の<自分への手紙>。

 
 
 『IN TRENO TUTT'ITALIA』        7500L              主な舞台  イタリア全域

 ヨーロッパの列車時刻表といえば、『トーマス・クック』の赤表紙『ヨーロピアン・タイムテーブル』が有
  名で、個人旅行花ざかりの今、大きな書店なら、大抵積み上げられて売られている。(ダイヤモンド
 社から年4回3、6、10、12月に日本語版発行)
 これは便利で使える。
  しかし、あくまでもヨーロッパ全体の時刻表だということを忘れてはならない。広範囲なだけに、当然
  紙幅の関係上、記載されているのは主要の便のみである。
 もっと細かい、ローカル線まで網羅したものがないだろうか。
 そんな要望に十分に応えてくれるのが、この『イン・トレーノ・トゥッティ・イタリア』である。
 イタリアの空港や、大きな駅に着いたら、ぜひ売店で買い求めてほしい一冊値段も500円程度で、
  年に2回発行されている。
 ナポリから近郊のパエストゥムという街へギリシア神殿を見に行こうとした際、某旅行ガイドには、サ
  レルノという駅を経由しなければ行けないように書かれていたが、これを見たら、なんだ直通の列車
  があるではないか、ということになった。時間もだいぶ節約できた。
 当地のことは当地できくのが一番。そんな定説をそのまま形にしたのが、本書だと言える。
 時刻表部分は、2色刷りで見やすい。ホテルのフロントでこの本片手に、道程を尋ねると、なお安心。
 
 

 『イタリア色のレモンリキュール』

 神谷 ちづ子/著 1997  三田出版会   ¥1100        主な舞台  イタリア全域 

 「人と生活」のコーナーで取り挙げている『ママはローマに残りたい』の続編。
 家族をよそに一人、イタリアでの残留を決めた著者のその後の生活をつづったものだが、イタリアの
  あちらこちらを旅した記録が本書のメインである。
 まず、著者の住むローマの遺跡めぐりから始まり、ウンブリア州のグッビオへ巨大クリスマス・ツリー
  見学、アドリア海沿いの町ヴァストで車の故障騒ぎ、ナポリでの盗難、トスカーナで見る本当の赤をま
  とった夕焼け、マルサーラで食べるシチリアのクスクス、アレッツォ(トスカーナ)の骨董市…。と全部で
 11章。
 随所にみどころや、おすすめのリストランテの名が見え、イタリアに住むが故に得られた、貴重な情
  報の宝庫でもある。
 しかし、単なる旅行記に終わっていないのが、本書のいちばんの魅力だろう。
 イタリアの町をめぐりながら出会うイタリア人たちの生活、そこに南と北の経済格差や、就職難など、
  こ国のかかえる今日的な問題にも、著者の視線が注がれていく。
 そして、離れて暮らす家族に対する後ろめたい想い…。
 『ママは…』では、あまり触れられなかった著者の人生観が、時折垣間見えて、ほろっとさせられる。
 人生の節目節目で、人が感じる心の迷い、焦燥感…、そこから抜け出るためのヒントが、イタリアや
  イタリア人たちの生活の中には確かに存在しているようだ…。
 ジェットコースター。イタリアでの体験を著者はそんなふうに述懐する。
 目次と一体になったイタリア地図は、所在をつかむのにとても見やすい。
 
 

  『イタリア讃歌 手作り熟年の旅

 高田 信也/著 1999 文藝春秋(文春文庫) ¥495      主な舞台  ミラノ〜カプリ 

 32日間のイタリア周遊の旅。
 その記録を、毎日欠かすことなくワープロに打ちこんでいく夫。 同伴の妻は、スケッチでイタリアの
  町々の風物を形に残していく。その労作が、本書である。
 当初、この本を手にしたとき、自費出版的な、独り善がりと感傷に満ちた素人っぽいものかなと、正
  直思った。 しかし、予想に反し、この本ほど旅行記の醍醐味を味あわせてくれるものはなかった。
 語学修行、情報収集、地理や歴史に対する予習、体作りと…、ヨワイ古希を目前にした著者は、精
  力的、意欲的に旅の準備に取り組む。
 読み手も、旅を目の前にして、ワクワクしてくるから不思議なもの。
 そしていざ、出発。北はミラノから始まり、ヴェローナ、ヴェネチツィア、ボルーニャ、フィレンツェ、ロ
  ーマ、ナポリそしてカプリへと旅を続ける。
 列車や船、レンタカー、飛行機、あらゆる交通機関を駆使し、宿さがしに奔走し、メルカート(市場)で
 買った食材やリストランテでの郷土料理を食し、イタリア人のみならず、様々な国の観光客と交流を
 重ねていく。
 その間、普通の旅行記ではなかなかお目にかかれない小都市(コモ、マントヴァ、ボルツァーノ等)を
 訪れたりもする。 文字通りの「手作り熟年の旅」。
 また本書は、意図的に個人旅行の手引き書という作りにもなっている。
 長旅の間胃腸を休めるには、価格も安い中華料理を時折摂るのがいいとか、イチゴのおいしい春
  のイタリア、スペイン旅行にはチューブ入りのコンデンス・ミルクが必需品だとか、ホテルにスーツ
  ケースを預けて周辺への小旅行を楽しむ旅行術…と、役に立つノウハウも多い。
 その上、文学、歴史、美術への造詣の深さが時折顔をのぞかせ、訪れる都市への関心を高めさせ
 てくれる。
 決して浮き足立ったところのない、格調の高い文体も、好感が持てる。
 短期間にイタリア半島を移動していくので、地理的に混乱しかけるが、挿入される夫人の巧みな地
  図が、読み手の強力な道しるべになる。
  人間年をとっても気の持ちようで、元気に人生を謳歌できる、そんな力強いメッセージにあふれた好
  書。 
 
 
 
『フィガロ・ジャポン』1994年12月特大号 TBSブリタニカ     主な舞台    ローマ以南

 特集「南イタリア夢紀行」。知る人ぞ知る南イタリアの紀行案内の決定版。
  ローマ、ナポリはしかり、シチリアの小都市のシラクーサやエリチェまで補完する、 ビジュアルかつ
  実質的な案内記になっている。 
 残念ながら雑誌形態なので、バックナンバーは古本屋か、あるいは図書館から拝借しなければなら
 ない(東京の人であれば世田谷の中央図書館に所蔵あり。電話 03−3429−1811 直接出向く
  か、最寄りの図書館を通じ取り寄せてもらうかする。世田谷区は特に利用制限はないのでどこの人
  でも利用可能)。 
 南イタリアへ興味のある人はぜひ紐といてもらいたい一冊。
 これを見れば、どこへ行きたいか自ずと方向づけられること請けあい。

 

 『ナポリの街の物語  イタリアのすべてがそこにある街

 寺尾 佐樹子/著 1997 主婦の友社   ¥1400         主な舞台      ナポリ

 ナポリを単独に取りあげた本は、恐らくこれが唯一のもの。留学先のドイツから脱出、熱き憧憬の念
  からイタリアに居を求めた著者もまた、極めつけのイタリア・フリークのひとり。
 イタリアにある素晴らしい街もまだまだ日本には紹介されていないのが現状。怖いトコロといってポ
 ンペイに行くだけ、ナポリは国立博物館どまりで素通り、なんて人も実際に多いはず。 
 そこで著者は、多くの写真でぺージを割き、また歴史的な記述もまじえながら、我々にナポリの隠れ
  た魅力の数々を紹介する。この通りは危ない、ここのゾーンはおすすめと、実用的な情報も随所に
  散りばめられていて、ナポリ行きには必読の書と言える。
                     
 

 

『シチリアへ!  南イタリアの楽園をめぐる旅

 寺尾 佐樹子/著  2000 角川文庫   ¥800         主な舞台     シチリア

         (『シチリア島の物語  ゲーテが愛したイタリアの太陽』1996 主婦の友社 の文庫化)

 上記の『ナポリの街の物語』と同様に、紀行案内記でありつつ、都市を主人公と見なした「物語」が本
 書には確かに存在している。
 それは、著者にシチリアに対する深い愛情があるがゆえのこと。なんとかこの土地のすばらしさを読
 み手に伝えたいという思いが、紙面からはみ出すほどにレイアウトされた写真によって、まず表れ
  る。
 それらの写真は、次に紹介する『シチリアへ行きたい』掲載の、プロの撮った洗練されたものとは違
  い、どことなく素人っぽいが、それだけに、見たままの無骨で豊穣なシチリアがページから肉薄してく
  る。
 パレルモにあふれるゴミ山や悪趣味なプレトーリア広場の彫刻たちのアップ、ノルマン宮殿のモザイ
 クの精緻さ…。私たちが当地に行って出会うシチリアが、そのままの姿で生け捕られている。
 また、マフィアの温床としてのシチリアという一般的に流布しているイメージを払拭させるために、歴
  史、生活、食べ物、と様々な角度から、かの地の魅力を紹介しようとする真摯な姿勢が感じられる。
 歴史的な用語については、上部の欄外に注釈を設ける配慮。
 ゲーテの『イタリア紀行』のシチリア紀行をもとにシチリアをおとないつつ、ゲーテの見なかった街シ
  ラークーサを訪ねるあたりも心にくい。
 紹介するスポットも、パレルモ、セジェスタ、エンナ、カターニア、シラクーサ、ラグーザ、タオルミー
  ナ、メッシーナ…と、広範囲にわたる。そして、奥が深い。シチリア行きの必携の書。
 
 
 『シチリアへ行きたい』

 小森谷 慶子、小森谷 憲二/著 1997 新潮社 ¥1500     主な舞台     シチリア

 建築家の夫と歴史家の妻によるシチリア案内。まさに夫婦の努力の賜物というべきこの本は、ビジ
 ュアルな作りを得意とする「とんぼの本」シリーズの一冊に加えられるという僥倖を与えられ、最高
 の仕上がりになっている。
 巻頭に取りあげられた街が、州都のパレルモでも、映画「グラン・ブルー」で有名なタオルミーナでも
 なく、シラクーサであることが夫妻のシチリアへの造詣の深さを物語る。
 セリヌンテ、セジェスタ、ノート、トラーパニ…と、普通のガイドでは知り得ぬ小さな、しかし重要な街
 まで、くまなく 収める。
 また、各街の市街地図に見所が記されているので、旅行のガイド役ともなろう。
 収録の写真はどれも息をのむほどの美しさ。文字をたとえ一字すら読まなくとも、この写真を見れ
 ば、シチリアを見ずしては死ねない、ときっと思うはず。
 
 

 『ワールド・ミステリーツアー13 イタリア篇』

 水木 しげる/ほか著 1998  同朋舎 ¥1400         主な舞台   イタリア全域

 私事で恐縮だが、私は5年ほど前にフィレンツェを訪れた。
 かの有名なウフィツィ美術館やラファエッロの「小椅子の聖母」で知られるピッティ宮殿へも行った。
 つまり見るべきものは、一応見たという気だった。
 しかし帰国後、「芸術新潮」で、ラ・スペコラ博物館の存在を知らされ、なんともくやしく、残念な思い
 をさせられた。そう、見るべきものはぜんぜん見ていなかったのだ…。
 場所も、ピッティ宮殿のすぐそばとある。
 本書の第6章「美醜の蝋人形たちに出会う」で紹介されている通り、そこはきわめて精緻な蝋人形
 にあふれる、解剖学博物館。
 「消化器の間」「神経と血管の間」など、その名が示す通り、非常にリアルな人体が、脳や内臓を
 剥き出しにされたまま横たわる。パーツを合わせて、500点あまりの作品が展示されているらし
 い。
 そんなグロテスクなモノ、なんでイタリアで見なきゃならん、とおっしゃる方もいるかもしれない。
 だが、こうしたものとは、イタリアという、芸術に賭ける国でこそ、遭遇できるのではないだろうか。
 他に、ローマの北100キロにあるボマルツォの「怪物庭園」、腐敗していない遺骸のあるシチリア
 のカタコンベ、サン・ジミニャーニの見るも凄惨な拷問器具をコレクションした「イタリア中世犯罪
 博物館」など、盛りだくさんの写真で紹介する。(行き方や開館時間などの情報もあり)
 竹山博英、巖谷国士、水木しげるなど、この方面で造詣の深い執筆陣が歴史的な視点とともに、
 私たちをイタリアの異界へとガイドしてくれる。
 巻頭の水木しげるのイラスト付コラムや、巻末の、奇怪スポットとホラー映画案内も興味ぶかい。
 イタリアの真髄に迫るためにも、この本をお供に、ちょっと別のルートでイタリアを巡るのも、面白
 いかもしれない。

                                                                              
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