ジェンダー   男女の違い   ホルモンによる脳決定   アクア説

 
 
 
遺伝率
 
 
 
 
 遺伝子を強調すると、宿命論や運命論みたいな事を言う人が出現します。遺伝子によりどう行動するか決められているのなら、今更何かしても、しなくても同じなのではないかと。
運命が決まっているのなら、じたばたしても仕方のないことだと。
 しかし、それは違います。まず遺伝子が基盤としてありますが、今ここで、あなたが何をするかはあなたの自由意志なのです。自由意志は確かに存在します。しかし、一般に嫌な思いをする事はしないものであり、その嫌な思いは、往々にして遺伝子が作り出していたりしますが。
ま、お釈迦様の手のひらの中といった感じでしょうか。
ともあれ、遺伝子は関係していても自由意志は存在します。
今ここで先を読むか止めるかも自由意志があればこそできることです。
 
 
 
 
 
 さて、遺伝子と学習のかねあいで、「遺伝率」という言葉を紹介します。今後これからの世の中、この「遺伝率」という概念は非常に重要になると思います。
「遺伝率」とは、我々の性格などに影響を与える「環境」と「遺伝子」の割合を見たものです。
 
 
ちなみにちなみに、「環境」と「遺伝子」との関係はかけ算に近い関係です。
たとえば、ヒトの言語の学習で言えば、言語の学習に関する遺伝子群がなければ学習できません。(チンパンジーやゴリラ、サル、イヌを見てください)。
しかし環境も、ととのっていないと学習できません。(13才まで屋根裏に閉じこめられていたジーニーの例を見てください)。
かけ算ではどちらかが「ゼロ」だと結果は「ゼロ」になります。遺伝率は「環境」と「遺伝子」の割合をみていますが、その働きあいはかけ算のような関係です。
 
「環境」×「遺伝子」 =  言語学習
 
 
 
 
 
 
「遺伝率」は一卵性双生児の研究から得られます。一卵性双生児は遺伝子が全く同じです。そこで、同じ環境の一卵性双生児や別々に育てられた一卵性双生児の比較研究や二卵性双生児や兄弟や全くの他人同士との比較研究から、同じ遺伝子を持つことから来る行動が似てくる率を出したものです。一般に質問紙に答える方法で調べます。
 
詳しくは表で見てもらうとして、簡単にいえば、
ABO式の血液型は全て遺伝ですから「遺伝率」は100%。             
身長や体重等の体格は遺伝性が高く90〜80%ぐらい残りの10〜20%が環境の影響。
性格的なものや男と女の違いは遺伝子が50%、友人や社会的な環境の影響が50%。  
知能は         遺伝子50%、家庭30%、友人社会10%         
言語能力に関しては、  家庭40%、 遺伝30%、友人社会30%         
また、遺伝性のものは幼少の頃よりも、年を取ってくると強く出てくるようです。    
あの人は年をとってきて本当にお父さんに似てきた、なんてささやかれたりしますよね  
注意)知能を絶対視しないで下さい。人生、生き方の方が大切です。
 
 
 
 ともあれ、この「遺伝率」というものを、まず心理学あたりから世に広めてゆく必要があります。考えても見てください、人の心を扱う心理学において心を設計する遺伝子の影響を無視して、何を研究するというのですか。葉だけを見て、枝や幹や木全体を見ないようなものです。遺伝子により心の大きな幹枝や根が作られ、環境により小枝や葉や根毛が作られるのです。心理学をこれから勉強する諸君は、まず「遺伝率」を勉強してください。
 
 
 
 
 
 
 
「遺伝率」は一卵性双生児の研究により求められます。
 
 一卵性双生児とは 本来一人として生まれてくるはずの一個の受精卵が、発生の途中で2個に分裂し、2人となって誕生する双子のことで、もともと一個の受精卵なので持っている遺伝子は全く同じです。
 二卵性双生児は受精卵が2個ありそれぞれが別々に発生して同時に誕生するもので、普通の兄弟と同じく持っている遺伝子は、ほぼ半分が同じだと予想されます。
 
 そこで、それぞれの双子にテストを受けてもらい二人がどれだけ似ているか相関係数を求めてもらいます。相関係数は1〜0の間の数字です。1でそっくり。0で全く似ていない。というものです。ちなみに、同一人物に2回同じテストを受けてもらったときの相関係数が0.8です。1ではないのですね。ここは重要な点で、これから見る相関係数は誤差が20%程度は存在することを示しています。まあ、相関係数はかなり大まかな数字であるということですね。大まかな数字とは言え、遺伝子の影響と環境の影響を測定している大変貴重な数字でもあります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
相関係数から「遺伝率」「共有環境」「非共有環境」の求め方
 
   計算式                       
        遺伝率  =(一卵性双生児相関率 − 二卵性双生児相関率)×2
       共有環境 = 一卵性双生児相関率 − 遺伝率       
      非共有環境 =         1 − 一卵性双生児相関率    
 
 
 
 測定した結果、一卵性双生児の相関係数が0.86、二卵性双生児の相関係数が0.60となったとします。一卵性双生児は遺伝子(A)と家庭環境(C=共有環境)が同じです。一方二卵性双生児は遺伝子が半分同じ(A×1/2)ですし家庭環境(C=共有環境)も同じです。
 そこで、一卵性双生児の相関係数(A+C)から二卵性双生児(A×1/2+C))の相関係数をひきますと、(A+C)ー(A×1/2+C))= A×1/2 すなはち、 遺伝子の影響の部分の半分が求められます。 この値を2倍すれば遺伝子の影響の部分を求めることができます。
0.86ー0.60=0.26    「遺伝率」=0.26×2=0.52
 この0.52が相関係数の中で、遺伝子が占める部分です。家庭環境(C=共有環境)は、一卵性双生児の相関係数(A+C)から遺伝子(A)を引くとでてきます。 
0.86−0.52=0.34   0.34が「家庭環境」の影響部分です。
 なお、全体から一卵性双生児の相関係数0.86を引いた値、
1−0.86=0.14が「非共有環境」(社会や別の友人の影響)となります。
 
 
 
 
 
 
様々な遺伝率の求め方                      例(IQの遺伝率)
@一卵性双生児と二卵性双生児の相関係数の差の2倍
 (2nーn)×2    0.52
A親と養子として別れた子供との相関係数の2倍  
(2nーn)×2     0.44
B養子で別れた兄弟同士の相関係数の2倍     
   (n)×2     0.48
C同居の実親とその子供との相関係数と
  養い親とその養子との相関係数の差の2倍  
((n+環境)−環境)×2  0.46
D同居の実の兄弟間の相関係数と
  養子の兄弟間の相関の相関計数の差の2倍  
((n+環境)ー環境)×2  0.30
E別々に育てられた一卵性双生児の相関係数        2n       0.72
 
 
 
 
 
●遺伝率の誤差
 
 上の表の例を見てください。求められた遺伝率が最高0.76から最低0.30まで、その差0.46もあります。この差の原因は不明のようです。まだまだ研究の必要があるのでしょう。しかし、他の4つはほぼ0.5近くにありますのでこのIQの遺伝率はほぼ0.5と考えられるとしています。ですから、遺伝率の誤差はかなり大きく0.1〜0.2ぐらいはあります。%にしますと10%〜20%になります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
●遺伝率の高い順に並び替えて見ると
 
 
 
研究件数
 
一卵性の相関率 二卵性の
相関率
遺伝率
 
共有環境
 
非共有環境
 
ABO式血液型     1.0
身長 0.93 0.5 0.86 0.07 0.07
体重 0.83 0.43 0.8 0.03 0.17
神経症傾向 23 0.51 0.22 0.58 -0.07 0.49
外向性 30 0.52 0.25 0.54 -0.02 0.48
男性的ー女性的 7 0.43 0.17 0.52 -0.09 0.57
推理 16 0.74 0.5 0.48 0.26 0.26
空間視覚 31 0.64 0.41 0.46 0.18 0.36
知覚速度 15 0.7 0.47 0.46 0.24 0.3
順応性 5 0.41 0.2 0.42 -0.01 0.59
柔軟性 7 0.46 0.27 0.38 0.08 0.54
衝動性 6 0.48 0.29 0.38 0.1 0.52
言語理解 27 0.78 0.59 0.38 0.4 0.22
記憶 16 0.52 0.36 0.32 0.2 0.48
言語の流暢さ 12 0.67 0.52 0.3 0.37 0.33
さまざまな身体形質、認知能力などに関する双生児相関の表
「進化と人間行動」よりp63 (Trivers,1985邦訳p120;Promin,1990,邦訳,p63)
共有環境と非共有環境は追加記入し遺伝率の高い順に並び替えかつABO式血液型を追加している。
 
 
遺伝率が1.0ということは100%遺伝で決定するということ。
 
 まずここで出てくる数字は、非常に沢山の研究の平均値ですので、個人的に見るとこの値より大きい場合もありますし、小さい場合もあります。 単なる目安として見る必要があります。各個人毎に遺伝率は違っているものと思われます。
 
 
 
 身長、体重は遺伝率0.86と0.8(86%と80%)であり、両方とも遺伝的要素が非常に大きいことを示しています。
 
 また、神経質か、外向的か、男性的か女性的か、変化に強いか(順応性)、頑固かどうか(柔軟性)など性格に関する事項は遺伝率が0.6から0.4(60%から40%)の値であり遺伝子の影響はかなり大きい様です。
 よく、人生相談で自分の性格についての悩み相談などがありますが、性格はあまり大きく変化しないことを示しています。
 
ただし性格については、変化はします60%〜40%です。遺伝とほぼ同じ率のようですが、
 
遺伝率が0.5(50%)の男と女の違いで見ると、本質的に男が好きか女が好きかは成人では変更できないようです。男と女の脳は妊娠2ヶ月ごろのホルモンシャワーにより決定し成人後の変更は難しく、性同一性障害者の例が示しているように本人はそれで苦しんでいたりします。結局性転換をしたり、異性の格好をすることで解決しています。
 
この男と女の違いの例を他の性格の遺伝に当てはめますと、まずこういった気質や性格がいつ決まりいつごろ固定するかが不明ですが、一度決まった本質的な気質の部分は成人では変更ができにくいと考える方が良いのではないでしょうか。自分の性格を振り返ったときも、幼児の時自覚した自分の気質は今も変化がありません。
もしそうだとすると、人生相談などで自分の性格について悩む人がいますが、本質的に気質的なものは変化しない、そう考えた上でその気質とどうつき合いながら生きてゆくかということを考える方がアドバイスとしては有効なのではないでしょうか。
 
なお、同じ気質でも環境や成功の体験等により随分変化する様です。モジュール的な発想からすると、嫌な気質のモジュールをできるだけ経験しないように行動することであったり、モジュールを抑制する機構が存在するのかもしれません。
 
 なお、ヒトの成長過程から見ますと、気質の発現と固定は幼児期に行われている可能性があります。「三つ子の魂百まで」ということわざもありますし。一方、性格の遺伝でない部分を見ますと、家庭の影響はほとんどなく、友人や社会の環境による影響(非共有環境)が残りの0.4〜0.6(40%〜60%)です。学童期から青年期にかけて徐々に固定されてくるものでしょうか。
 
 
 言語理解、記憶、言葉の流暢さ、は遺伝率が40%〜30%です。学校の学習とも関係しているところですが、高くはありませんが資質に遺伝子も関係しています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
●非共有環境の高い順に並び替えて見ると
非共有環境とは
社会や友だちや、学校や、兄弟間で共有しない環境が与える影響の率です。
本人の自覚もここに入るのかな?
 
 
研究件数
 
一卵性の相関率 二卵性の相関率 遺伝率
 
共有環境
 
非共有環境
 
順応性 5 0.41 0.2 0.42 -0.01 0.59
男性的ー女性的 7 0.43 0.17 0.52 -0.09 0.57
柔軟性 7 0.46 0.27 0.38 0.08 0.54
衝動性 6 0.48 0.29 0.38 0.1 0.52
神経症傾向 23 0.51 0.22 0.58 -0.07 0.49
記憶 16 0.52 0.36 0.32 0.2 0.48
外向性 30 0.52 0.25 0.54 -0.02 0.48
空間視覚 31 0.64 0.41 0.46 0.18 0.36
言語の流暢さ 12 0.67 0.52 0.3 0.37 0.33
知覚速度 15 0.7 0.47 0.46 0.24 0.3
推理 16 0.74 0.5 0.48 0.26 0.26
言語理解 27 0.78 0.59 0.38 0.4 0.22
体重   0.83 0.43 0.8 0.03 0.17
身長   0.93 0.5 0.86 0.07 0.07
 
 
 
性格に関しましては、非共有環境(友人や社会の影響)もまた大きなものがあります。
 順応性、男的女的、柔軟性、衝動性、外向性、いずれも0.6〜0.5(60%〜50%)の高い割合です。ロックの有名な説である何でも描ける「白い板説」は実は正しくはありません。先の表で見ましたように、遺伝子の影響が0.6〜0.4(60%〜40%)もあるわけですから。しかい、しかし、しかし、環境の影響が「0」でないのも確かです。しかも結構大きな影響があることを示しています。ほぼ、遺伝子の影響と同じくらいの影響があることを示しています。具体的にはどのような影響なのでしょうか、
 
さてこの場合の環境は、友人でしょうか、周りの大人でしょうか、現代ではマスコミの影響も無視できないものと思われます。改めて、影響の大きさや、その時期、内容など、調査する必要がありそうです。調査した例はあるのでしょうか。
 
 記憶が以外と高く50%は社会の影響です。記憶が環境によると言うことは、覚えさせられたと言うことでしょうか、覚える能力が高まったと言うことでしょうか。
 
言語の流暢さや言語理解、推理力は0.3(30%)が環境の影響です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
●共有環境の高い順に並び替えて見ると
共有環境とは、おもに家庭の影響など兄弟間で共有する環境が与える影響の率
 
 
 
 
研究件数
 
一卵性の相関率 二卵性の相関率 遺伝率
 
共有環境
 
非共有環境
 
言語理解 27 0.78 0.59 0.38 0.4 0.22
言語の流暢さ 12 0.67 0.52 0.3 0.37 0.33
推理 16 0.74 0.5 0.48 0.26 0.26
知覚速度 15 0.7 0.47 0.46 0.24 0.3
記憶 16 0.52 0.36 0.32 0.2 0.48
空間視覚 31 0.64 0.41 0.46 0.18 0.36
衝動性 6 0.48 0.29 0.38 0.1 0.52
柔軟性 7 0.46 0.27 0.38 0.08 0.54
身長   0.93 0.5 0.86 0.07 0.07
体重   0.83 0.43 0.8 0.03 0.17
順応性 5 0.41 0.2 0.42 -0.01 0.59
外向性 30 0.52 0.25 0.54 -0.02 0.48
神経症傾向 23 0.51 0.22 0.58 -0.07 0.49
男性的ー女性的 7 0.43 0.17 0.52 -0.09 0.57
 
 
 
 言語理解や言語の流暢さは学習と関係し、家庭の影響は40%です。家庭での学習習慣や学習に対する姿勢が子供の学校での成績に大きな影響を与えていると思われます。
 
 さて、以外な結果が性格に対する家庭の影響です。ほとんど影響はありません。衝動性、柔軟性、順応性、外向性内向性、神経質さ、男性的女性的いずれも10%〜−10%です。逆にマイナスになっているのまであります。子供の性格に関しては、家庭や親の育て方についてほとんど影響していません。
 
これを見ると、アメリカでよく言われている家庭がどうだから性格が歪んだとか言った事は、ほとんど濡れ衣であったと思われます。
 
家庭が何もしなくていいと言っているわけではありませんが。
 
 性格に影響を与えてるのは、家庭でなく、遺伝子と社会が大きな影響を与えているということです。その割合は、ほぼ半分半分、ともに50%。
さて、遺伝子の影響の時期は置いておいて、社会が大きく影響を与える時期はいつ頃なのでしょうか。幼児期でしょうか、児童期から成人期の間でしょうか。世間的な常識では性格が固定されてくるのは成人になってからと言いますし。児童期から青年期にかけてでしょうか? これらを調査しなければならないと思います。
また、本人の考え方も大きな影響があると思われます。
 
 幼児期に遺伝的な気質は形成され、幼児期から大人になるまでの友達や学校、社会の影響、本人の考え等により修正されてくると考えて良いのかもしれません。
いずれにしても、遺伝率を土台にした性格形成の調査の必要性を痛感します。
 
 
 
 
 
 
 
 
●教科毎の遺伝率








 


 
 
 
相関係数
遺伝率
 
 
 

共有環境
 
 
 

非共有環境
 
 
 
一卵性双生児
1300組

 
二卵性双生児
864組

 
国語 0.72 0.52 0.4 0.32 0.28
数学 0.71 0.51 0.4 0.31 0.29
社会 0.69 0.52 0.34 0.35 0.31
理科 0.64 0.45 0.38 0.24 0.36
 
 
 
 
 
 
 
 
●参考図書
 
  「進化と人間行動」 長谷川真理子 長谷川寿一 東京大学出版会 2000年
            動物行動学から見た人間について全般的な教科書です
 
  「心はどのように遺伝するか」    安藤寿康 ブルーバックス 講談社 2000年
            遺伝率について一卵性双生児の視点から研究されている方です。
 
  「遺伝と環境」   R.プロミン  安藤寿康・大木秀一共訳 培風館 1990
            人間行動遺伝学入門 一卵性双生児の研究結果です