新東京病院顧問 医師 清瀬闊
頓服薬に匹敵するカフェインを含有
左党を自認する人は、二日酔いの解消の秘策を一つや二つ必ず持っているものです。
カキ(柿)を食べる、牛乳を飲む、ジョギングをする、ぬるいおふろにゆっくり入るなど、二日酔いの解消法を集めたら、
それだけでゆうに一冊の本ができてしまうことでしょう。
愛酒家として知られた作家の山口瞳さんも、あるエッセーの中でこのことに触れ、こんなにたくさんの解消法が伝えられていることが、
すなわち決定打は一つもないという、なによりの証拠だ、という意味のことを書いています.
確かにそうかもしれません.しかし、多くの稼策がすべて医学的に全く根拠のないものばかり、というわけではありません。
ただ、二日酔いの多彩な症状のうち、最も代表的で、かつ、つらい症状である頭痛についていうなら、極めて有効な解消法があります。
ご存じのかたもいるかもしれませんが、それは一杯のコーヒーを飲むことです。
二日酔いにつきものの頭痛を起こす犯人は、アルコールが肝臓で分解されて、
水と炭酸ガスになる途中でできるアセトアルデヒドと呼ばれる物質です(酒に混じっているほかの成分も二日酔いの一因となりますが)。
多少の酒なら、飲んだそばからどんどん肝臓が処理してくれますから、間窟ないのですが、
肝臓の処理能力を上回って大量に飲んだ場合は、肝臓がフル回転で働いても追いつかず、
処理途中のアセトアルデヒドの形で、血液中にたまってしまうのです。
アセトアルデヒドには、末梢の神経に作用し、頭痛を起こさせる働きがあります。
脳の周りを網の日のように取り巻いている細い神経に、このアセトアルデヒドの作用が及ぶと、
脳を周囲から締めつけることになるのです.二日酔いに特有の、ガンガン割れるように痛む頭痛は、こうして起こります。
この頭痛を鎮めるには、残っているアセトアルデヒドを体外に出してしまい、また、頭の血液の循環をよくすることが有効なのですが、
そのためにコーヒーに含まれるカフェインが役に立つのです。
もともと頭痛に対しては、鎮痛作用のあるアスピリン、鎮静作用のあるバルピタール、
血管拡張作用のあるカフェインを用いることが最も一般的な治療法であるとされています。
これを、三つの物質の頭文字を取って、「ABC療法」などと呼ぶ人もありますが、
市坂の頭痛薬のほとんどは、これを基本にしていると考えてよいでしょう.
しかも、一杯のコーヒーの中には頭痛の治療に、頓服的に用いられる量に匹敵する0.1から0.2cものカフェインが含まれています。
つまり、カフェインだけに関していえば頭痛薬を飲まなくても、コーヒー一杯で薬の代用ができるのです。
二日酔い以外の頭痛にも有効
このほかカフェインには、尿の出をよくする作用や肝臓などに蓄えられている指肪を、
血液中に溶かしだす作用があることなども知られています。
尿の出がよくなれば、二日酔いの原因物質である血液中のアセトアルデヒドを排せつするのに役立つでしょうし、
脂肪が燃えやすくなれば、二日酔いで落ち込んだ体力の回復にもつながることでしょう。
コーヒーは、頭痛を鎮めるばかりではなく、二日酔いそのものの解消を多方面から助けてくれるというわけです。
また、二日酔いだけでなく、勉強のしすぎや、根を詰めて仕事をしたときなどに起こる頭痛も脳血管性の頭痛と考えられます。
さらに、首や肩のこりも頭痛の原因となります.これは首や肩の筋肉が異常に収縮し、
血液の循環が妨げられたことによって起こる頭痛にほかなりません。
こうした場合の頭痛に対しても、コーヒー療法を試してみるとよいでしょう。
ただし、いくら頭痛の薬になるからといっても、空腹時にコーヒーをがぶ飲みすると、
胃潰瘍などを起こしかねないので、くれぐれも注意してください。