コーヒーは動脈硬化予防に働く善玉コレステロールを増やす。

防衛医科大学助教授 石川俊次

血液循環をよくし低血圧を改善

 朝、起きがけに飲む一杯のコーヒーは、胃袋だけでなく、頭脳をはじめ、体の隅々まで目覚めさせてくれるような心地がします。
実際、コーヒーの持つさまざまな作用が、まだかかりきっていない体のエンジンをスムーズに回転させるのです。 
コーヒーに含まれているカフェインは、末梢の血管を広げたり、心臓の拍動を高めたりして、血液の循環をよくします。
ですから、コーヒーを飲むと、全身に新鮮な血痕が行き渡り、頭も体も活発に働き始めるのです。

 このカフェインの働きは、特に朝が苦手という低血圧の人の場合に、非常に有効に作用します。
それは、コーヒーにはほんの少し血圧を上げる効果があるからです。
少しでも血圧が上昇することは、ぼ−つとした朝の不快感や日常の疲労感、立ちくらみ、
手足の冷えといった低血圧独特の症状を半減し、体を動かしやすくするはずです。
低血圧の人が、午前中から気持ちよく活動するためには、起きがけに一杯という具合に
コーヒーを上手に利用するとよいでしょう。

 コーヒーに血圧を少し上げる作用があるとなると、高血圧の人は飲まないほうがいいのかと考えがちですが、
それは早合点です。コーヒーにはさまざまな研究や調査が行われていますが、
コーヒーをたくさん飲んでいる人に高血圧が多いという調査結果はありません。
 高血圧の人がなりやすい病気の一つに動脈硬化があります。
動脈硬化が進行すると、脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる脳卒中)などを起こす危険性が高くなります。
動脈硬化の原因の一つに、コレステロールという脂肪質が血管内に沈着することが挙げられます。
 10年ほど前までは、コーヒーはコレステロールを増加させ、動脈硬化を促進するという説が、
医学界の常識とされていました。
 しかし一般に、我が国で飲まれているフィルターコーヒー(紙や布で慮過したコーヒー)やインスタントコーヒーは、
悪玉コレステロールを増加させることは、まずありません。

老化予防効果も注目されてる

 私は、コーヒーを使って、一つの実験を行ってみました。
 ふだんはコーヒーを一日に数杯飲んていた14人の若い男女に、一ヶ月間全くコーヒーを飲まないようにさせ、
その後、フィルターコーヒーを毎日5杯すつ飲ませて、一週間ごとに採血して分析する、というものです。
 すると、コーヒーを飲み始めると、善玉コレステロールと呼はれる高密度リボたんばく(HDL)が、徐々にふえ始め、
コーヒー飲用4週間で約15%も増加したのです。
実験の対象を他の人に変えて行った2回目の実験でも、パーセントの数字は少し下がったものの、
やはりHDLはふえました。

 HDLは、過剰になったコレステロールを細胞内から引き出し、動脈の内側の壁に沈着するのを防ぎます。
ですから、HDLが多い、すなわちその数値が高い人は動脈硬化を起こしにくいのてす。
実験の結果からこのHDLをふやす働きがあるとわかったコーヒーには、
動脈硬化の予防に役立つ可能性があることが示唆されました。
 また、最近ではコーヒ1の抗酸化作用も注目されてきています。
体が酸化すると老化が促進されることが科学的に認められつつあります。酸化を防くことには、老化を防くことでもあるのてす。
 ご紹介したようにコーヒーは、体にプラスの作用が多くあります。
ただし、一日に5杯程度を飲んだ場合です。がぶ飲みすると、コーヒーに含まれている成分が胃に負担をかけることもあります。
人によっては不整脈(脈か乱れること)や不眠の原因にもなります。
血液中に含まれるコレステロールは、体質や生活習慣によって大きく左右されます。
 コレステロール値が高くなりやすい体質の人が、脂肪の多い食事を取っていると、動脈硬化が促進されます。
まず日常の食生活を正しましょう。