アイスコーヒーはコレステロール値が下がり心臓病を防げる。

元三重大学医学部教授 田口寛

ビタミンの有益な補給瀕
 コーヒーというと、体に悪いものという印象を抱く人がいます。
「コーヒーを飲むとガンになる」「刺激物が多いので肌荒れを起こす」などと思っているようです。
 しかしガンについては、一日何gものコーヒーを長年にわたって飲み続けたときにガンになることがある、というのが真相のようです。
 また、刺激物とされるカフェインですが、これはほかの嗜好飲料にも含まれており、
コーヒーだけが肌荒れの原因になるという詰も説得力がありません。
 むしろ眠け覚ましにコーヒーをがぶがぶ飲まなければならないような不朽生な生活、コーヒーに入れすぎる砂糖などに注意すべきでしょう。
 私は、コーヒーはとても有益なビタミン(ニコチン酸)の補給源であり、上手に飲めば健康増進に役立つものだと思います。
ニコチン酸は、タバコに含まれるニコチンとは全く別物です。ニコチン酸は、ビタミンB群に属していて、
成人の場合、一日に十数_c取ることが必要とされています。
これが欠乏すると、ぺラグラといわれる皮層炎、下痢、精神神経障害などを引き起こします。
ニコチン酸は、全く供給されなければ、ついには死を招く必須栄養素の一つです。
一般に、ビタミンは熱や光、酸素などに対して不安定で、これらを加えると分解されてしまいます。
ところがニコチン酸は、例外的に分解されにくいビタミンなのです。
例えば、熱を加えても破壊されず、200数10度になると、分解せずに昇華(蒸発)してしまいます。
 ところで、このニコチン酸は、そのままの形のみではなく、
加熱するとニコチン酸に変化する前駆物質という形でも、食品中に含まれています。
その最も代表的なものがトリゴネリンです。
トリゴネリンは、コーヒー豆、魚貝類、豆類に特に多く含まれています。
 ニコチン酸の前駆物質であるトリゴネリンは、どうすればニコチン酸に変化するのでしょうか。
その条件調べたところ、摂氏220度で20分間加熱すると、いちばんよく変化することがわかりました。
これは、ちょうどコーヒー豆を焙煎する条件に近いようです。
 つまり、コーヒー豆の焙煎というのは、トリゴネリンをニコチン酸に
変化させるのに、大変好都合な作業ということになります。
 実際に私たちが飲んでいるコーヒー100_g中のニコチン酸の量を調べると、
アメリカンコーヒー(焙煎度が浅い)は、0.16_c、普通の焙煎の場合は、0.2〜0.25_c、
アイスコーヒ!(焙煎度が深い)の場合は1.6_cとアイスコーヒーはアメリカンの10倍もあることがわかりました。
 コーヒー一杯を200_gとすると、アイスコーヒー一杯には約3.2_cのニコチン酸が入っています。
アイスコーヒーを四、五杯飲めば一日に必要なニコチン酸の量は補える計算になります。

 ところで、ニコチン酸には薬理作用もあります。すなわち、一日にグラム単位で取ることによって、
血液中のコレステロール値を下げる働きがあるのです。
 アメリカのある研究者グループは、8000人以上の冠状動脈(心臓の筋肉に栄養を送る動脈)に障害のある患者に、
ニコチン酸を連続投与したら、約3ヶ月でコレステロール値が250_c叫から220_cに下がったというデータを明らかにしています。
 また、別の研究者グループは、心筋梗塞(心願の血管が詰まって起こる病気)から助かった七十歳末満の患者555人を五年間研究した結果、
ニコチン酸でコレステロール値が12%も低下し、死亡率も30%前後低下したと報告しています。
 しかし、これらの数値は多量のニコチン酸を薬として用いたときにもたらされる効果です。
心臓病や動脈硬化の人にとって、コーヒーを飲むことが治療の代わりになるというわけではありません。
コーヒーを毎日取れば、動脈硬化の予防につながるというわけです。