岐阜大医学部教授 森秀樹
1970年代の初期、肝臓や膀胱のガンの発生とコーヒーの相関性を示唆する疫学研究報告が現れました。
コーヒーに肝臓や膀胱の発ガンを促進する作用があるのではないのかと実験を試みました。
それについてははっきりした結果が出ませんでした。
その後、コーヒーの成分の中でも特に多いクロロゲン酸と言う物質がガンの発生と関係あるかも知れないと考えました。
そして動物実験を試みることにしたのです。
この実験では、メチルアゾキシメタールと言う発ガン物質とクロロゲン酸を実験用のネズミに与え、影響を見ました。
その結果発ガン物質だけを与えた場合、40%の割合で大腸ガンが発生したのに対し、
クロロゲン酸が含まれる飼料と一緒に与えた場合ではガンの発生はゼロでした。
こうしてクロロゲン酸が有意に大腸ガンの出現を制御し同時に肝臓における
前ガン病変(将来ガンに進展するおそれのある身体の変化)も有意に押さえることが新たに判りました。
またニトロソミアンが誘発する肝臓ガンに対し、コーヒーを与えるとどのような影響があるかを検討しました。
ニトロソアミンは、アミノピリンと亜硝酸を一緒に摂取すると胃の中で作り出されます。
ネズミを二群に分けてどちらにも同じ物を食べさせ片方には薄めのコーヒーを与えました。
630日間続けた結果コーヒーを与えないラットが肝臓ガンにかかった割合は78%だったのに対し、
コーヒーを与えた群の割合は22%でした。つまりコーヒーが肝臓ガンに対する抑制作用を持つことが示されたのです。
その後の実験では、クロロゲン酸とカフェさんが舌などに発生する口腔ガンを抑制する働きがあることも判りました。
その他に大腸ガンの発生関係を調べたものはコーヒーを与えた物の方が与えないラットより発ガンの病変が少ない結果が出ました。
以上の実験は、コーヒーに含まれる成分が肝臓ガン、口腔ガン、大腸ガンを抑制する可能性があることを示しています。