いやあ、こんなトコまでお運びいただきましてまことに痛み入りますです。
 ここからは各キャラ別のネタバレレビューです。今まで抑えてたこと、全部書いちゃいます。ここ読んでからゲームやっても、もしかしたら裏ばっかり想像しちゃってつまんなくなるかも。
 つー訳で、ある程度プレイした方のみ、この下にお進みくださいませ。


<水瀬 名雪>
 プレイ前は、これがメインだと思ってました。けどよくパケ絵見りゃ判るとおり(特に初回版なんかあからさまやね)、主役はあゆなんだよね。この名雪のシナリオはあゆシナリオ(つまりメインシナリオ)から派生する、完全なサブシナリオつーことになる。
 でもまあ、同居してる訳だし、いちばん台詞は多い。地の文除けばボリュームはいちばん。でもイベントは少ない。何よりこの名雪シナリオには、他のにあるような「奇跡」がない。いや、秋子さんが何事もなく復活してるのは、まあ奇跡っちゃ奇跡なんだけどね。さすがに死人復活とか狐女登場とか魔物退治よりはインパクト薄いや。
 で、俺バカなんで、これをクリアした後もまだあゆがメインだってことに思い至らないで、「ん? 今回のは薄味か?」なんてBBSで言ってましたよね。ここで謝っときます。ごめんなさい。あゆシナリオの伏線ってだけの位置づけのシナリオだから、軽くて当然、ですよね。
 しかし相変わらず、他のメーカーさんのゲームの幼なじみも大抵そうだけど、ケナゲだよねえ。ま、俺的にはあかりタイプとか瑞佳タイプの方がいいけど。


<月宮 あゆ>
 メインシナリオ。「Kanon」というゲームがその位置付けを決めるのに要する力の、大体60パーセントがこのシナリオに割かれてます。キャラ設定はまあ王道中の王道で、今ふと「あれ? これってマルチ?」という声が脳裏に響きました。ま、全部同じって訳じゃないけど、ちっとはカブりますねえ。風呂でも外さない赤いカチューシャ、天使の羽付きリュック、ダッフルコート、ともう萌え心をくすぐるくすぐる。狙い過ぎだよね。ま、いいけど。「うぐぅ」以外はOKだけど。
 探し物が実は魔法のランプ(しかも1回限定)ってのは、いかにもありそうだけど実はあんまり使われてなかったアイデア。こんな突拍子もないストーリイがこれほど綺麗にまとまったのは、こういう素敵なアイデアのかけらと込められた想いのおかげ、なんでしょう。ゲームとしては最後の「奇跡」がなきゃやりきれない気持ちが残るんだけど、例えば小説、それもちょっとした短篇だったら、あの奇跡はなしで、そうか幽霊が出てきたんだね、俺に思い出して欲しかったんだね、で終わるんだろうなあ、なんて思いました。でもそこはそれ、この「奇跡」こそがこのゲーム全体を通してのキイワードな訳だから、結局、ゲームという媒体を通してこのストーリイを語る場合には、最後の秋子さんの台詞は絶対的に必要な部品となるんですね。あの台詞で、俺、涙腺が結構ぎりぎりまで追い詰められて、それは俺的にはエロゲーじゃ生まれて初めてだったんで、正直ホントに驚いた。文章力と設定、さらにはそれを盛り立てた音楽の勝利。これがいわゆる大団円だよね。


<沢渡 真琴>
 俺はこの真琴シナリオが、「Kanon」のもうひとつのメインシナリオだと思ってます。キイワードの「奇跡」の行使権はあくまでもキャラクターに与えられ、プレイヤーはその(最初の)奇跡に気付いた後でも更なる奇跡を願ってはらはらし続け、でも結局突き放されて現実に戻ってくる、という、古今東西定番とされている、でもだからこそ完成された、筋書き。主役級(だと俺は思ってます)のストーリイをバッド・ハッピイ・エンドにするってのは、地雷ゲームじゃないこうしたメジャータイトルとしては、特にメーカーさんには勇気の要る決断だったんでしょうねえ。でも最後のCGは主人公(プレイヤー)が「こんなんだったらよかったのに……」と思い描いた想像で、やっぱり失われたものは永遠に失われたまま。俺はそう信じてます。それがいちばんイイと思うから。
 読んでないんだけど、「アルジャーノンに花束を」(ダニエル・キイスの長篇。早川書房がどうしても文庫化してくれないんで、金のなかった俺は結局読まずに済ませてしまった)の後半って、主人公がだんだん知性を失っていくという設定だそうです。「人間性」を喪っていく真琴と、何か重なりません? このシナリオの白眉は何と言ってもこの、真琴が徐々に人間でなくなっていく姿。痛々しくて、切なくて、哀しくて、いとおしくて……いいキャラだよねえ。
 実は俺、最後は消えるんじゃなくて狐に戻るだけだろう、なんて甘っちょろい想像をしてたもんで、あのエンディングはかなりショックでした。何か安っぽい表現だけど、ホント、「ショックだった」くらいしか書きようがないもんなあ。


<美坂 栞>
 「起きないから奇跡」と言いつつ、あっけなく奇跡起こして復活。名雪シナリオと並んで、あくまで現実レベルの奇跡で収めてくれた、このゲームの良心。ただ、キャラクターの内面という視点で行くと、いちばんヒサンな過去と現実を持ってる、ホントにかわいそうなキャラ。オーソドックスだけどイタいんだよねえ、あと何日しか生きられないってネタは。黒澤明の「静かなる決闘」で、ずっと冷静沈着を貫いてきた主人公の医師が、ラスト前にほんの数分だけ、本当の感情を婚約者に吐き出してすがりついて泣きじゃくる、っつーシーンがあって、この映画では俺ぼろぼろに泣きまくって映画館出るのが恥ずかしかったくらいなんだけど、この栞のシナリオも、まあそういうテイストだよねえ。この「奇跡」は、ストーリイとしては、いちばん嬉しかった。ハリウッドテイストでも、絶対的に必要なハッピイ・エンドってのは存在するんだよ。
 もうひとつ、この栞と佐祐理さんに共通するイタさ、それが「自殺」。あ、舞も自殺っちゃ自殺か。でも、手首切って死にきれなくて、っての、流行らないけど効果的だねえ。中学〜高校くらいの女の子なら、ああいう状況じゃ手首切ってもしゃあないんかなあ。俺には判らん。吐き気のするイタさってのは、こうやって演出されてるんだねえ。


<川澄 舞>
 多分、このシナリオを最初にクリアするべきだった。俺は最後にクリアしちゃったんだけど。いちばん「ONE」にテイストが近い。主人公との過去のつながりも、それを原因とした今の哀しい(しかも非現実的な)境遇ってのも、いかにも「ONE」。特に中盤のシナリオは何しろ現実離れしてて、さあどうやってこんなとんでもない話にケリつけんのよ、なんて斜に構えて見てたら、びっくりするほど綺麗にケリつけられて驚きました。あんまり(読み物としても)おもしろいんで、次の日仕事でしかも会議が入ってて眠気は厳禁だってのに、午前4時過ぎまでずっとやって、一気にクリアしてしまった。エンディングを見ないで停めとくなんてこと、意志の弱い俺にはできなかったんです。
 このシナリオには「奇跡」が飛び交ってる。佐祐理が何事もなく復帰していて、舞も結局切腹から立ち直ってる。これはアリ? 俺は前述のとおりナチュラル・ハイ状態で読んでたから、「へえ〜」で済ましたけど、いまだにあれがアリか判断できない。ま、シナリオにひとつってことで与えられた「奇跡」は佐祐理の回復に回されたとして、舞自身の体の回復には、生かしといた例の「舞の能力」を使った、つー解釈でいいのかな、とも思う。


<倉田佐祐理>
 シナリオ、というか、エンディングをちょっと付け足したくらいのボリューム。ここに入っちゃうと必然的に、いきなり舞シナリオがぶった切れて終わるんで、ちょっとそれだけはいただけなかった。ま、おまけだし。しゃあないか。
 このシナリオがいちばんイタかった。読んでて顔が歪んだ。これぞ真骨頂、なんて言うとライターさんが怒るかな。でもこれだけイタいの作って、キャラの性格とかちょっとした伏線とかを綺麗に消化した“整合性”は、ひとこと、素晴らしい。エロじゃなくてもいい、シナリオだけで売っても許されるこの完成度、これこそがKEY、ということに、今後はなっていくんでしょうねえ。
 そうそう、このシナリオには「奇跡」はありません。だから余計にイタいの。


 それにしても、「ONE 〜輝く季節へ〜」からこれだけ進化(および進歩)してるのは、ほんとに嬉しかった。訳の判らない伏線とか、意味のない裏設定なんてモノは、こうしてみるとやっぱり、不要なんですね。
 秋子さんの仕事の内容、とか、栞の病名、ってのは、伏線でも何でもないから、詮索しちゃだめだよ。

 でも次はしんどいよお。これ以上でないと「Kanon」よりは云々言われるし。何か変えるとまた、あんなことして云々言われるだろうし。
 でもこれだけのを見せられたら、次も期待していいよね? ね?


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カウントダウンエロゲシナリオの「Kanon」の項に戻りたいんだけど……