29th October 2004
(改訂 : 23rd November 2005)
前書き | |||
対中飛車・居飛穴基本図 | |||
A. ツノ銀中飛車 | 1. 木村美濃 | 2. 風車 | |
B. 矢倉流中飛車 | 1. ▲2六飛型 | 2. ▲4八飛型 | |
まとめ |
中飛車は、ここ5年ほどで主流がゴキゲン系の「角道を止めない中飛車」に移った。
この「角道を止めない中飛車」は動きが早いので、居飛穴に組む人は少ない。ツノ銀が主流だった時代の中飛車は居飛車穴熊によって駆逐されたが、現代の中飛車は『居飛車穴熊に組ませない』ことで復活したのだ。
だがアマチュア界では、プロでは駆逐されてしまったツノ銀中飛車を始めとする「角道を止める中飛車」が今でも指されている。しかもプロでも最近、「角道を止める中飛車」の新型「矢倉流」が現れた。
今回は従来のツノ銀と、新型の矢倉流に対する居飛車穴熊の指し方を解説する。
なお、ゴキゲン中飛車に対しても居飛車穴熊を組みにいく解説は、別ページで行う。
では、居飛穴始動のための構えをおさらいする。
中飛車に対しては(2)▲5七銀~▲7七角型が有力だ。
(2) ▲5七銀~▲7七角型 |
飛車が5筋にある時点で、△5五歩に備えて▲5七銀と上がるのは当然である。黙って飛車先を交換されてしまうと変に手を作られる恐れがある。 |
基本図 |
初手から 振り飛車側の駒組みは多々ある。例えば△4二銀のところで△3二銀だったら矢倉流はないなど、この数手でも感じ取れるものはいろいろある。
解説するのは以下の2つ。 |
居飛穴はツノ銀中飛車に対して何より有効な戦法である。プロでツノ銀中飛車が指されないのは、居飛穴があるからと言う理由以外の何物でもない、多分。
そういうわけで書くのをやめる・・・と楽なのだが、アマチュアではツノ銀中飛車の、組みあがったときのあの美しい陣形(木村美濃を使ったとき)が好みの人も多く、未だ指されている戦法なのである。なので、簡単ながら居飛車穴熊対ツノ銀中飛車も解説しようと思う。
A図 |
基本図から
A図は既に分岐点。振り飛車はここで△3二金としてもいい。 |
基本図までのポイントは、△4三銀か△3二金を見て▲5八金右と上がること。上がらない4枚穴熊の指し方は今回お勧めしない(十分ある指し方だが指し切りが怖い)。△4三銀か△3二金のどちらかを指した時点でツノ銀はほぼ確定と見ていいだろう。
A図で△8二玉と指せば左右対称形。△6二銀なら風車である。
1. 木村美濃(左右対称形) ・・・ 見た目はかっこいいが、対居飛穴には不向き
2. 風車 ・・・ こちらのほうが有力。愛好家も多い
1. 木村美濃 (左右対称形)
基本的に美濃囲いから組みなおす、左右対称の美しい陣形。囲いは「木村美濃」と言われ、これは木村十四世名人がかつて香落ち上手でこの陣形を得意とし、当時のトップクラスを次々と破ったことから名づけられた。
1図 |
A図から
振り飛車はまず美濃囲いに組む。△9二香の穴熊は大作戦負けコースと思っていい。 |
2図 |
1図から ▲3六歩では▲7九金と寄せておくのもあるだろう。▲7八金~▲6八銀の松尾穴熊は実戦例がない。松尾穴熊が現れる前にこの形が消えたからなのだが、中飛車相手に中央を薄くするのはどうかとも思う。 |
ここからはタイミングを伺うような指し方になる。基本的には、
1. △5一飛
2. △5五歩▲同歩△同飛
このどちらかを、端や△3二金と上がるかどうかなどの判断も加えていつ指すか。
どっちにせよ▲5九角~▲3七角と据えるのが基本。角で敵玉をにらみつつ、▲7八飛から玉頭に殺到すれば一番わかりやすい。
1. △5一飛
以下、▲7九金△3二金▲5九角△4五歩▲3七角と言った感じか。振り飛車は5筋の歩を換えないと左翼の金銀が使いづらいので、消極的な指し方に思う。
2. △5五歩▲同歩△同飛
・ ▲5六歩(無難)。△5一飛と引き、居飛車は▲5九角~▲3七角を、振り飛車は△5四銀~△4三金と中央へ集める感じで指す。打たずにいるのも十分ある。
・ ▲6五歩(無理気味)。△5一飛なら▲6四歩△同銀と敵陣が乱れていい。だが△7三桂と跳ねているので△5七飛成▲同金△6五桂とされ、自陣だけ火がつく状態になってしまう。(△7三桂が跳ねていない局面では一考の余地あり)
・ ▲5六銀(積極的)。△5一飛に▲5八飛と回って中央での戦いにする。これを図にしてみる。
3図 |
2図から この後居飛車は▲5五歩と押さえ、▲5九角~▲3七角または▲6八角~▲3五歩or▲4六角と言ったところか。攻めるときは▲7五歩と桂頭も絡めていくのがよい。 |
5筋交換に▲5六銀とぶつけるこの指し方は、▲3六歩と突いていない場合は見られない。例えば3図で▲3六歩と突いていなかったとすると、△4五歩▲5五歩△4四銀で5五が守れないからである。突いてあれば△4五歩には▲3七桂で、△4五歩が目標にできるので十分。
ツノ銀の中でも左右対称形が好まれないのは、次の風車と比べると8~9筋から攻めることができないため攻撃力に欠ける点が挙げられる。△8五桂と使う順もなくはないが、玉を深く囲った分だけ8~9筋の戦いは反動が大きく、居飛穴に対しては余計に勝ちにくいように思われているようだ。
2. 風車 (かざぐるま)
通常の左右対称形では攻撃力に欠けることから、中飛車は風車と言われる△6三銀・△6二金・△7二玉型を使うことが多く見られる。この形は△5一飛~△8一飛(△9二香~△9一飛)のように飛車を転回することが出来るため、自分から動くことが出来る。
プロでは伊藤果七段の連採が有名。『風車の美学』と言う著書もある。
1図 |
A図から
風車は木村美濃と比べて、完成するのが一手早い。 |
2図 |
1図から 5筋交換に▲5六銀は、▲3六歩を突いていないために位の確保が難しい。なのでここでは▲5六歩としているが、もちろん打たないで進めるのも一局。 |
ここからは▲5九角~▲2六角が有力。他には▲3八飛~▲3五歩や▲6八角~▲4六銀と言うところか。
3図 |
2図から
▲5九角に対し△4二角は一例で、他に△4五歩や△5四銀左~△4三金もある。風車に対しては▲2六角と据え、6二の金に狙いをつけておく。 |
風車のほうが左右対称形よりは優れていると思うが、それでも金銀は分裂していることに変わりはなく、玉の薄さは否めない。バランス感覚が必要な戦法でもあり、経験がモノを言うと思う。
矢倉流中飛車はここ1、2年で現れた、角道を止める中飛車の有力な居飛穴対策である。
関西の矢倉規広(現五段)が多く採用したことで有名になったのだが、原型は以前からあったようだ。『羽生の頭脳4巻』にも似たような戦法が載っている。また、手持ちの棋譜にも基本図周辺と同型の将棋は何局かあった。
A級の振り飛車党では、久保利明(現八段)が好んで使っている。
また、第75期棋聖戦第2局の千日手局(▲佐藤△森内)や、第53期王将戦第2局の千日手局(▲羽生△森内)でも登場した。王位戦リーグでは羽生(対岡崎)も使っている本格的な戦法である。
矢倉流が中飛車にもたらしたものは、確信はないが『最初から相穴熊を想定していく』思想だと思う。
相穴熊には『ただ穴熊に組み合うだけなら、▲2五歩(飛車先)を突き越しているぶんだけ居飛車がよい』と言う基本理念がある。そのため、振り穴側はあれやこれやと手段を講じて、『▲2五歩と突き越している』と言う居飛車の主張点に対抗するだけの主張点を作らなくてはいけない。
居飛車対四間飛車の相穴熊では、△5四銀と出て『▲6六歩と角道を止めさせる』手がある。この『角道を止めさせた』と言うのが振り飛車の主張になる。そして、中飛車においてその△5四銀に当たる手順が、今『矢倉流』と呼んでいるものなのだ。
見たほうが早いと思うので、まず矢倉流の基本図から見ていく。
B図 |
基本図から
手順中、△5三銀を見たら▲2五歩△3三角の交換を入れる。交換を入れていないとあとで▲2六飛と浮く筋が消えてしまう。このB図が、居飛穴対矢倉流の基本図。 |
仮想図 |
B図から この△6四銀~△4五歩~△4二飛と言うのが矢倉流の基幹となる手順。▲6六銀と上がって4筋が薄くなったところを狙っている。
次の△4六歩は許せないので、 |
このとき断固穴熊を目指すならば、▲4八飛がお勧めだ。▲2六飛では飛車が相手の目標になってしまい、穴熊に組む暇がない。▲4八飛なら、矢倉流はここで△9二香から相穴熊にしてくるのが予定の作戦である。
▲2六飛と軽く浮く手を選択すると、矢倉流は△7二銀と美濃囲いにし、2六に浮いた飛車を攻めの目標にして動いてくる。そのため、居飛車はほとんどが穴熊を放棄する展開になる。
と、言うことは。
仮想図で▲2六飛と浮くつもりならば、▲9八香は上がっていないほうがいい。
つまり、B図で▲9八香としないべきなのである。
何が言いたいかというと、『B図の時点で仮想図を想定し、▲2六飛か▲4八飛か決めておくべきだ』と言うことである。
仮想図で▲2六飛を選びたいなら、B図では▲9八香とせず、▲5八金右か▲5九金右と指す。ただし、穴熊にはほぼ組めないと思っておく。
仮想図で▲4八飛のつもりなら、▲9八香で構わない。これは相穴熊になる。
現状ではこの考え方が最善と思う。
以下、▲2六飛と浮く順を前提にする指し方と、▲4八飛から相穴熊を前提に指す指し方を見ていく。
1. ▲2六飛 (穴熊をほぼ放棄する指し方)
1図 |
B図から
1図はH15年12月王将戦リーグ▲森内△久保と同形。 |
2図 |
1図から
森内は▲5七銀と角交換を挑んだ。久保は交換して△4四角から飛車交換を果たすが、2図では2六の角の働きが悪い。 |
2図から森内は▲2八飛! 以下△6二角▲4八銀△4九飛成▲2四歩△3八歩に▲6一角成△同銀▲5九金と龍を殺しにかかった。結果は森内勝ち。
H17年9月の棋聖戦2次予選▲谷川△福崎戦で、谷川は1図までの手順中▲7八金上を▲7八銀の左美濃に換え(▲9六歩△5一金左の交換もあり)、▲5七銀と角をぶつけた。福崎は△5五歩▲同歩△3五歩▲1六飛としてから△5五角と角交換するが、やはり▲同角△同銀▲4三角から馬を作られた。
結果は谷川勝ち。しかし福崎が「勝っているつもりだった」と言うほどだったようだ。(産経将棋Web、将棋世界2005年12月号)
2. ▲4八飛 (穴熊を目指す指し方)
1図 |
B図から
矢倉流の△6四銀~△4五歩~△4二飛と言う手順のは同じ。 |
△4二飛に▲4八飛とした手は、居飛車からすれば「利かされた」状態である。これで『▲4八飛と利かしている』と言う主張が矢倉流にはある。だから、△9二香から相穴を目指すのだ。
1図は、H16年3月A級順位戦▲谷川△久保と同形(手順は違う)。▲3六歩が▲1六歩だと、H15年12月王将戦リーグ▲佐藤康△久保になる。
居飛車の狙いは角頭。次は▲3五歩である。堅さは▲7八金が入っていて、居飛車がほんのちょっと上か。ただし振り飛車にも△7二飛と回る筋が残っている。
2図 |
1図から △7五歩に▲同歩なら△7二飛。そう進め、▲7四歩△同飛に▲7七歩とした対局(H17年3月竜王戦5組▲北浜△佐々木。先手が大敗)もある。本譜は▲3五歩△同歩を入れてから▲7五歩と手を戻した。次は▲3四歩が狙い。 |
久保は△4六歩。▲同歩ならその瞬間角が働いていないので△7二飛という読みと思う。▲4六同角に△5五歩▲同歩から△3六歩と突き出し、谷川は▲3八飛として2図。
ここから△5七歩(▲3六飛には△5八歩成)▲3四歩に、久保は△4六飛と切って▲同歩に△1五角。以下、▲5七銀△6五角▲1六歩△3八角成▲1五歩と飛車角交換になった。
その後は△5九飛から後手が先に桂得するが、歩切れで小技が利かないのと、6一金型のため▲4三角~▲4一飛が厳しい。結果は谷川勝ち。
※ ▲4八飛に△2二飛の変化
相穴熊の他、△2二飛という変化も見られるようになった。
3図 |
B図から ▲4八飛に△2二飛とし、▲2八飛なら千日手なので居飛車は▲4六歩△同歩▲同飛と動く。そこで振り飛車は△4二飛▲4三歩△2二飛とし、4三の歩を負担にさせるのが狙い。 |
『将棋世界』2005年5月号の「将棋論考」で、△2二飛がH17年3月王将戦予選▲森下△真部で出現したと書かれている。森下は最初の△2二飛に81分考えて▲3六歩とし、△2四歩▲4六歩△2五歩▲4五歩。真部が△4三歩と受けたので森下も▲4七飛~▲2八歩と収めたそうだが、81分の間に斬りあい(△4三歩と打たずに△2六歩)を読んでいたそうだ。結果は森下勝ち。
4図 |
H17年6月新人王戦▲渡辺△佐々木で、3図から佐々木は△5二金左~△4四歩~△4三金と一歩得してから穴熊を目指した。 |
何しろ棋譜が少なく、しかも棋力も・・・なのでちゃんとした解説が出来ないのは無念である。『矢倉流にはこのような狙いがあり、対策はこんな感じだ』と言うくらいで見ていっていただきたい。
改訂で風車もとりあげてみた。
風車のほうが採用が多いのは、あまり玉形にこだわらず柔軟に指せるからだろう。木村美濃は「整いすぎている」点が対居飛穴にとっては不利に働いている気がする。
もっとも、木村美濃に組むのが一概に悪いわけではない。対急戦であれば美濃囲い~木村美濃のほうが明らかに堅いわけで、これは対急戦と対居飛穴どちらを重視するかと言う考え方に尽きる。
居飛穴側は攻めを切らさないことが肝心。居飛車は4枚穴熊にも組めないことはないが、飛角桂では防御力の強いツノ銀相手に2~3筋で手を作るのは大変である。駒組み段階から工夫が必要だろう。
対矢倉流は、▲2六飛か▲4八飛かでその後の将棋が極端に変わる。
相穴熊が苦にならないのなら▲4八飛、早い戦いにしたいという場合は▲2六飛というところ。ここは好みだ。ちなみに△6四銀~△4五歩~△4二飛の構想は、三間飛車からもたまに見られるようになった。
プロでもアマチュアでもゴキゲンの明快さが好まれている傾向はあるが、急戦に強い利点を好んでツノ銀を指す人は少なくない。矢倉流も中飛車の有力策として認知されたようである。
どちらに対してもこの知識をベースにして、自分に合う指し方を見つけていただきたい。