5、子ども復活のカギとしての心意伝承

家庭教師として関わった子ども達の中には学校の勉強には興味を持てず自分はどうせ出来ないと諦めている子ども、時には生きる事への希望さえも失いかけている子どもも少なくなかった。

 そうした子ども達への働きかけとして現在最も手応えを感じているのが上原先生の専門であった「心意伝承」についての話題をなげかける事である。

☆スナップ15  平成十二年 中3
 休憩の時にチャンプロードなる雑誌を見せてくれた。暴走族などに愛好されている雑誌らしい。そこに載せられている数々の衣装や入れ墨などに強い興味を持っているようなのでざっくばらんに語ってもらう。

そこに心意伝承との接点が現れてきたので翌週、上原先生の「日本人の心をほどく かぶき十話」(オリジン社)や「心意伝承の研究」などを見せながら関連した文章を紹介する。


A「エー!これ、今俺らが言ったことと同じなの?」と目を輝かせる。

たぬき「そうだよ。しかもそれが日本人の心のナゾを説くカギでもあるんだよ。教わらなくてもちゃんとお前達から出てきたろ」

B「なあ、なんか俺らすごくねえ!」

これは暴走族やそれについて自分達が語ったことに通じる心象について「こんな難しそうな本にも書いてあった!」という驚きである。しかもそれが古来からの日本人の心の解明につながると言うのだから二重の驚きなのである。

こうした事を通して遠い祖先から流れ込んでいるものが「自分の中にも確かにあった」と自覚することは、自分を大きな生命の流れに位置づける働きをする。

* 「心意伝承」という言葉を掲げているわけではないが、先に紹介した山形大学の小川先生は古典の心が子ども達の中に流れ込んでいる事を自覚させることによって内在価値に目覚めさせる実践を行っている。(参考「生きる力を発揮させる国語教育-内言を主体とした理論と実践-」牧野出版)

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