2,「世界定め」をする軸の設定

児言態で前回特集した「子どもにとっての時間と空間」について上原先生は「世界定め」としてこう話していた。

「(歌舞伎の世界定めの話題から)脚本でも芝居でも時と場所と人を設定することで世界を作る。場面を変えるのはこの三つの設定を変えていくこと。」(平成六年十二月)

「自分の意識が世の中を作っている。イメージの時間・空間・人間(ジンカン)によってどんな世の中が思い描けるようになっているか・・・」(平成七年一月)

「時間・空間のイメージの設定が変化してしまったために教育の歪みが起きている。意識は作られていくものだから時間・空間のイメージをどう設定するかで人生も変わる。それで子どもによって差がでる。

人生は時間・空間の絡み合わせで出来ているのだから、子どもがどう設定しようとしているのかをみていなければならないのに、つい大人は子どもの錯覚とみてしまう。」(平成六年十二月)


一頃「プラス思考」という言葉が盛んに使われたが、私は何か小手先で思考の方向を操作するようなレベルで済ませてしまうような気がするのであまり用いていない。

受験や友人関係で本当に悩んでいる子ども達に「プラス思考で」と言ったところで「わかってるよ!でもわかっていてもどうにもならないんだよ!」と余計に追いつめてしまうのが関の山である。実際そうした親子の対立は何度も目にしている。

 世界定めは意識の軸のとりかたそのものが変わりその子本来の形に近づくために、同じ環境の受け止め方が深い部分で変容する。

「ハッとする」「目から鱗」というあの気分が伴うのである。それを上原先生は「構えの変革」とか「トランスフォーメーション(意識の転換)」等と呼んでいた。



そうした「世界定め」の意識について子ども達がどのように捉えているのかを知るために、歌手の浜崎あゆみさんのWhat Everという曲のプロモーションビデオを用いて「どうしてこういう設定でビデオを作りたくなったのだろう?」と問いかけた。

破壊しつくされた町の廃墟を天使が歩き回っているがやがて天使は有刺鉄線にからまって動かなくなってしまう。浜崎は有刺鉄線がはられた鳥かごような檻の中に閉じこめられた状態で涙を流している・・・そんな内容のビデオである。(スナップ6まで平成十三年度)


☆スナップ3 中2女子
ゆでたまご「その針金みたいのにからまって死んでいるのが現代っていうか今の・・・私の説ね・・・今自分の方向を見失っている若者がいっぱいいるじゃない。で、死んじゃってるわけよ。それで浜崎は助けたいんだけど自分からは行けないみたいな・・・。」



☆スナップ4 中2男子
アントラーズ「(絶望感の文章を読んで)自分がこういう想いだから寂しい。・・・閉じ込められてるような。・・だから檻に閉じこもった・・・自分でね。(檻は)心が・・自分の心で作って・・」

ホーリーホック「こういうのを夢で見ちゃって、こういうふうになるのがヤダーっと思って、こういうビデオを作った」



☆スナップ5 中3男子

タカピー「これはね、あれだね、鉄条網と檻っていうのは周りにいる人達が自分に期待することのプレッシャーで自分がそれに壁を作っているような感じで・・・」

ノブ「これはもう心の中に閉じた悲しい思い出・・・もう二度と出したくないようにぐるぐるまきにしている。・・・いや違う、わかった!檻の中にいるのは本当の自分で、この檻の外にいるのはただ人の言う通りに動いている」

ムラ仙人「この中にいるのは閉ざされた自分で・・・有刺鉄線とかは傷。」

たぬき「有刺鉄線とかは誰が用意したの?」

ノブ「自分の心!」



☆スナップ6 ねこ娘 高1女子
ねこ娘「私はこの檻っていうところから、すぐ近くにいるけど何もしてあげられない、っていう・・・あゆが、その天使に・・・。

多分自分のまわりの仲間、自分に共感してくれている人と思っているんだけど、その人達とか身近な人達・・。

あとね、もう一つはしてあげられないんじゃなくて、檻の中にぜんぶ自分の気持ちをしまいこんじゃって自分で出す勇気がない。

(この檻を作ったのは誰?)あゆの無意識?」

 予想以上に自分が自分を取り巻く状況の意味づけを設定している主体であることを無意識ながらもキャッチしている意見が目立った。意識世界を設定している三つの座標軸への意識も子どもによってはかなり明確だった。

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