古代より、密儀を伝える集団は、いわゆる公共の場とは隔離された場所を好むようです。公共の場を支配するのは、日常としての意識といえましょう。しかしながら、魔術の作業で求められるのはまずもって、この日常としての意識からの脱却…。
そんなわけで、魔術に対して批判的な人達から見れば、魔術は逃避行動にすぎないなどという否定的な意見が出るやもしれません。しかしながら、実際逃避であるのでしょうか?答えは否。なぜなら、我々は、能動的に自らの判断で日常的な意識から脱却し、そしてなによりそうすることが価値あることであることに気付いているからです。
それでは、我々の内面に目を向けてみましょう。椅子にでも腰掛けて、姿勢を正し、しばらく目をつぶって自分の心を意識してみてください。外的には静かな環境にいたとしても、なにか落ち着かない、そんな感じがしませんか?そうです、いくら環境的には静かであっても、心が静かであるとは限らないのです。
内面に注目しようとすると気付かれるかと思いますが、外的環境のみならず自分自身の身体も静けさを妨害します。というのも普段ただくつろいでいる時でさえ、私達は知らず知らずに身体のどこかに力を入れてしまっているからです。内面に注意を向ける場合、外界に注意をしていない分、余計に身体感覚に敏感になります。したがって無駄な力が入っているところ(普段は気付かないようなかすかなものでさえ)によって、私達の内面は余計に波風が立てられることになるのです。
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ひとまず身体をリラックスさせてみましょう。仰向けに横になって背筋をまっすぐに伸ばし、両脚を軽くそろえ、体側に沿って腕を伸ばし感覚を全身隅々にまで巡らせてみてください。そうすると、リラックスしていると思っていても力の入っている部分があることに気付かれるかと思います。肩や首、あるいは頭の天辺など…。そのような部分が見付かったなら力を抜いていただきたいのですが、恐らく力を抜こうとして意識すればするほど余計に力が入ってしまうのではないでしょうか。
力の入っている部分を見つけたら、無理に力を抜こうとせずに
(1)その部分が温かく感じるよう想像する
(2)その部分が重く感じるよう想像する
(1)(2)のいずれかやりやすい方(併用可)を行ってみて下さい。そうすると、その部分の力が自然と抜けていることに気付かれるでしょう。この方法を用いて全身をチェックしてみてください。
以上のやり方がうまくいかないという方はリラックスということを意識せず、身体を決して動かさないということに挑戦してみてください。楽な姿勢をとり、まばたき一つせず指一本動かさず呼吸のみ許すといった状態で姿勢を保ってください。最終的にはリラックスの状態に落ち着くことでしょう。
リラックスが完了しましたら、そのまま次は呼吸に注意してください。なるべく深く、以下のリズムにしたがって腹式呼吸をしてください。(その際、腹筋に無理な力を加えることのないよう気をつけてください)。
4(吸)−2(止)−4(吐)−2(止)
リズムは各人のやりやすいように変えても構いません(例えば4−4−4−4にするなど)。なによりも意識によって呼吸のリズムをコントロールするという点が重要です。ある程度無理なくリズムが取れるようになりましたら、リズムの間隔を長くし、呼吸をより深めるようにしてください。
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以上は、意識によって身体をコントロールする作業です。この作業により、静けさと高揚感が同居する、独特の意識状態を感じることが出来るかもしれません。そして、そうした意識の状態は、魔術の作業に不可欠のものといえます。地味な作業ではありますが、魔術のための下準備として徹底的にマスターしてください。