ヘルメス主義の世界観


某所における講義の際のレジュメに
少々手を加えたものが本ページです。
レジュメベースゆえ、読み辛いかもしれません(汗)


1.ヘルメス主義とは?

 ☆HermetismとHermeticism

Hermetism→『ヘルメス文書』に関わる、あるいはまた『ヘルメス文書』に直接の影響を受けて書かれた後の時代のテクストに関わる潮流を表す。

   <『ヘルメス文書』について>

      ・成立は、ほぼA.D.2〜3世紀
      ・大部分の文書はギリシア語
      ・『ポイマンドレース』
       『アスクレピオス』
       『エメラルド・タブレット』
       等が有名
      ・『ヘルメス文書』全体で思想の統一はみられない
          →グノーシス主義の思想もみられる

*ヘルメスという名について

ヘルメス(Hermes)

ギリシャ神話の神格。神々の使者を務め、神々と人々との仲立ちとなる。学問・言葉の神。ローマ神話ではメルクリウス(Mercurius)。図像では、翼のついたサンダルやカドゥケウスを身に付けた若い男性で表される。


ヘルメス=トリスメギストス(Hermes Trismegistos)
三倍も偉大なるヘルメスの意。ヘルメス=トートともいわれる。トートはエジプト神話における学問の神。『ヘルメス文書』は、この半神半人の存在によって記されたとされる。



カドゥケウス
















Hermeticism→錬金術やそれと類似した思考法など、西洋隠秘思想における多くの相を表す。
★ヘルメス学の三大部門─魔術錬金術占星術
→フィチーノの『アスクレピオス』『ヘルメス選集』ラテン語訳により興隆


2.ヘルメス主義の原理
 ☆エメラルド・タブレット(ラテン語本文はこちら
 これは、うそいつわりなく真実、確実にしてこのうえなく真正である。一つのものの奇跡をなしとげるにあたっては、@下にあるものは上にあるものに似ており、上にあるものは下にあるものに似ている。そして万物は、一つのものの和解によって、一つのものから成ったように、A万物は順応によって、この一つのものから生まれた。このものの父は太陽で母は月である。風はこのものを胎内にもち、その乳母は大地である。このものは、全世界の一切の仕上げの父である。その力は、もし大地にむけられれば、完全無欠である。
Bなんじは、土を火から精妙なものを粗雑なものから、円滑にきわめて敏捷に分離するがよい。それは、大地から天へ上昇し、ふたたび大地へ下降して、すぐれたものと劣れるものの力をうけとる。かくしてなんじは、全世界の栄光を手に入れ、一切の不明瞭はなんじから消えさるであろう。このものは、すべての剛毅のうちでも、いやがうえにも剛毅である。なぜなら、それはあらゆる精妙なものに打ち勝ち、あらゆる固体に浸透するから。かくて、大地は創造された。したがって、このものを手段として、驚異すべき順応がなされるであろう。このため私は、全世界の哲学の三部をもつヘルメス・トリスメギストスと呼ばれる。私が太陽の働きについて述べるべきことは、以上で終わる。(平田寛訳)

─エメラルド・タブレットに見られるヘルメス主義の中心的概念─

@上なるものは下なるものの如し─万物照応
A全存在の秩序連関、および万物照応

Bの操作が必要


(参考)20世紀におけるヘルメス主義の原理を表した一例
       ヘルメス主義における七つの原理(『キバリオン』第二章)

・唯心論 ・万物照応 ・振動 ・極性
 ・リズム  ・因果関係  ・ジェンダー

3.「上」と「下」との接点─想像力

 ☆ミクロコスモスとマクロコスモス

  ・上─マクロコスモス(大宇宙)→世界全体⇒客観
  ・下─ミクロコスモス(小宇宙)→ 個  ⇒主観
            ↓
   「上」と「下」はあくまで「似ている」のであって「同じ」なのではない。

 ☆「似ている」という感覚

  ・「似ている」という感覚は個々人で違いが出る。
  ・しかし、ほぼ共通であるといえる側面もある。

  *「象徴」は、この似ているという感覚の一種の表現方法

   (象徴を用いるということについては魔術入門1参照)

 ☆ミクロコスモスとマクロコスモスを媒介するもの

  @象徴→象徴に触れる際にわれわれの何が働くのか?
  A想像力→「似ている」という感覚もその一つ。
                 ↓
  ヘルメス主義は、想像力を積極的に用いて思考する!

<媒介物の例(あるいは想像力の活動する場)>
フィチーノにおける「スピリトゥス」
E.レヴィにおける「エーテル」
西洋魔術その他における「アストラル界」etc.

4.まとめ

 ☆ヘルメス主義の意義

  <ヘルメス主義的考え方>
@想像力をはばたかせること←万物照応の実践
A世界と自分が一体であると考えること←全存在の秩序連関(⇔グノーシス主義)
Bしたがって、個としての特徴を維持しつつ(@)、他の存在とのバランスもとる(A)ということに…
                 ↓
  世界をそして自分を肯定し、しかもバランスを重んじる考え方
                            →現代にも通ずる

ヘルメス主義は、考えただけでは実現困難なことを述べているように見えますが、案外私たちが日常的にもしくは無意識的におこなっている、ささいな事柄について述べているのかもしれません。

ミクロコスモスとマクロコスモスという、一見対立する存在に照応を見出すということは、社会と個人との不調和を回復する比喩として捉えることもできますし、バランスを欠いたわれわれの心身にバランスを回復させることへの比喩とも捉えられます。自らに固有の想像力を押さえつけたならば、ヘルメスの象徴である羽をもぐことになります。しかるに想像の世界だけで生きる人間は世界と切り離され、バランスを欠くことになります。

きっと古代の賢人たちは、そうした不調和を嫌悪する人間的な感覚から、種々の思想を展開していったのでしょう。ヘルメス主義では想像力を積極的に用いて思考しますが、これは知性と感性の共同作業にほかなりません。


<参考文献>

・『ヘルメス文書』荒井献+柴田有訳 朝日新聞社
・ブロッサム・ファインスタイン「ヘルメス思想」(『西洋思想大事典』平凡社 1990)
・ジョージ・ボアズ「マクロコスモスとミクロコスモス」(『西洋思想大事典』平凡社 1990)
・アントワーヌ・フェーブル『エゾテリスム思想』田中義廣訳 白水社 1995    
・Roelof van den Rroek ”Gnosticism and Hermetism in Antiquity:Two Roads to Salvation”in ed.Roelf van den Rroek and Woulter J. Hanegraaff Gnosis and Hermeticism 1998
・Antoine Faivre “Renaissannce Hermeticism and the Concept of Western Esotericism” in ed.Roelf van den Rroek and Woulter J. Hanegraaff Gnosis and Hermeticism 1998
・Alexander Roob Alchemy&Mystisism 1996
・Three Initiates The Kybalion 1908

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