「無線と実験」第二十六巻第五号
昭和14年(1939年)5月1日
誠文堂新光社発行
本文から抜粋した記事ページ
3インチ管使用・新機構になるオッシロスコープに就いて   松下無線 久野古夫
はしがき 最近、ブラウン管オッシログラフの利用が非常に盛んになってきた。高周波現象の多くが、必然的に、直接に波形を観測しなければ解決されない問題を生じてきたのであるが、簡単なるオッシログラフ装置の出現が、この機運を促進したことは事実である。
従来のオッシログラフ装置では、到底観測し得ない高い周波数まで動作し、且つ、従来のものより遙かに小型で、軽く、また波形も大きく見られ、これにより増大された利便は非常に大きい。しかし、これまでになるには、各部、全部に、相当の苦心が払われていることを見逃してはならない。ここでは、これらの点に就いて説明してゆきたいと思う。(筆者)

試作せるものは第1図に示す如き構造のもので、大体、次の如き調節部分及び端子を備えている。

(1)輝度調整器、(2)焦点調整器、(3)周波数変換器、(4)周波数調整器、(5)垂直軸増幅器転換器、(6)水平軸増幅器転換器、(7)垂直振幅調整器、(8)水平振幅調整器、(9)同期切替器、(10)同期制御器、(11)上下位置調整器、(12)左右位置調整器、(13)垂直軸端子、(14)水平軸端子、(15)同期端子、(16)輝度変調端子、(17)直接偏向端子、(18)電源接続端子

以下は省略

ブラウン管及び電源

3インチ程度のブラウン管であると、陰極、制御電極、第1陽極、第2陽極より出来て居り、オッシロスコープとしては、静電偏向が専ら採用されている。制御電極は、普通の真空管のグリッドの如く、電子銃の量を加減する電極で、この電圧を変える事により輝点の明るさを変化し得る。一般に負電圧が加へられる。第2陽極には、概ね1000Vの電圧が加えられ、第1陽極に此の1/4程度の電圧を加へている。第1陽極の電圧を変化することにより、輝点の尖鋭度を調整する。

以下は省略

増幅器

殆どすべての携帯用オッシロスコープは、小さい電圧の観測に便利なやうに、増幅器を備へている。本器に於いても、第5図の結線図に示す如く、縦偏向用として、特に2段、横偏向用として1段の増幅器を備へている。その周波数特性は、可及的広範囲に、平坦な増幅器であることが、波形観測に必要で、抵抗増幅器を採用している。なお、波形を正確に増幅するためには、クリル・ファクターも極力小なることが望ましい、そのためには、増幅器の陽極電圧を高くして直線部を使用する等のことも必要である。

以下は省略

時間軸発振器

時間軸発振器として使用する鋸歯状波発振器としては、サイラトロンが最も簡単であって、大約10 c/sより20 kc/に亘って発振する。即ち、抵抗を通じて蓄電池を充電して、これが或る限度を超すと、サイラトロンを通じて急速な放電が行われ、また、次に充電が始まり、鋸歯状波を発生するものである。周波数転換器により蓄電池を切替へて、発振周波数の範囲を定め、周波数調整器によりその充電抵抗を変化して、周波数を微細に調整する。発振周波数は、抵抗値と蓄電池の容量値との積、即ち、時定数に大約反比例するものである。

1. 12.5 c/s〜38 c/s
2. 36 c/s〜92 c/s
3. 67c/s〜184 c/s
4. 155 c/s〜425 c/s
5. 280 c/s〜775 c/s
6. 700 c/s〜2000 c/s
7. 1200 c/s〜3550 c/s
8. 2300 c/s〜7050 c/s
9. 6750 c/s〜20,000 c/s

以下は省略

輝度調整器

ブラウン管は前にも述べた如く、制御電極に電圧を加へこの値を変化することにより、その輝度を変化することが出来る。即ち、これに交流を加へれば、輝度変調をすることが出来るものである。従来の一般ブラウン管オッシロスコープに於いては、偏向板のみを用いて、この特長を生かしていないという点がある。この特長を利用するならば、ブラウン管を100%に使用したものと謂へる。
本器にあっては、制御電極は漏洩抵抗を介して直接負電圧が加へられ、これから蓄電池を通じて輝度変調端子が設けてあるので、これから変調電圧を加へ得る如くなっている。

以下、省略

直接偏向端子

結線図から見られる如く、偏向板への接続回路は、蓄電池により端子に接続されているので、直流分をも同時に観測することは出来ない。また、偏向板にゆく途中が、スイッチ等を通り、大分長くなり、漂遊容量が多く、高周波現象の測定が、従来のオッシロスコープに於いては不可能であった。

中略

構造

構造として注意を要することは、出来得る限り携帯用として、小型軽量なることが望ましい。本試作器に於いては、前述の如く、増幅器の段数を増加したにも拘はらず、変圧器の遮蔽に注意し、場所の占有率を改善して、小型、且つ軽量となすことを得た。参考のために、寸法と重量を次に揚げる。

縦...28cm  奥行...33cm
横...18.5cm 重量...12.3kg

以下、省略

「参考」 使用法の説明

1)周波数の測定

周波数の測定は、ブラウン管を利用すると非常に都合良く行はれる。第9図に示すものは、最近発振器周波数の安定度が問題になりつつあるので、インダクタンスの湿度変化を恒温槽により測定しているところである。インダクタンスを発振回路に接続して、この発振器と水晶発振器のビートを、ビート周波数発振器の周波数とリサジュー図形により比較して、周波数変化を測定しているところである。


2)機械的振動測定
3)中間周波変圧器調整
4)変調度測定

以下、省略


松下無線株式会社の久野古夫氏によるNationalブランドのオッシロスコープ CT-75 の解説記事は如何でしたか? この解説記事と回路図や複数の製品内部の写真などにより製品化が現実のものとしてご理解頂けたものと思われます。
しかし、これが国産初のオシロスコープとは断定出来ません。この昭和14年(1939年)には、数社のオシロスコープの存在が確認されています。引き続きこの内容を補完する為、資料の収集と調査に努めコンテンツを充実する予定です。

昭和24年(1949年)9月発行の「ラジオ技術第三巻九号」に松下無線株式会社の
3吋オッシロスコープ CT-75 をモデルに基本的な操作の解説記事が次ページにあります