キリスト教人物小伝(12)
炭谷小梅(1848-1919)

 山田火砂子監督の映画「石井十次物語」の中で、竹下景子の演じる婦人伝道師が登場してきます。彼女、炭谷小梅は、岡山に生まれ、二歳の時に両親を失い、知人に引き取られて養育されました。幼いときから常磐津を習い、若くして師匠となり、やがて岡山一流の芸妓として、池田藩公や薩摩勤皇の士の寵愛を受けるようになります。

 維新後は岡山県課長中川横太郎の妾となり、彼との間に女児トヨが生まれ、彼女は中川の深い愛情に包まれ、可愛い娘と共に安穏な幸福な日々を送っていました。

 ところで、中川は自宅に牧師を呼んで説教会を開くなどキリスト教の岡山導入に有力な働きをした人でありました。小梅はその中川を通して宣教師や牧師と知り合うようになり、その教えを通して、自分の今の境遇が正しいものではないことを自覚し、深い悩みに陥ったのでした。彼女にとって中川への愛は何物にも代え難い宝です。これを立ちきり、また中川の恩愛を踏みにじって、キリストに従うことはとても耐えられないことのように思えました。

 しかし、ついに入信を決意し、中川に告白して赦しを乞いますが、中川は激怒して、娘トヨを強引に連れ去ってしまったのでした。唯一の生きがいであった娘を奪われ、小梅は身も魂も消え入るばかりに泣き崩れます。

 そんな様子を聞きつけ、彼女を慰め励まそうとして駆けつけてくれたのは、アメリカの宣教師ミス・タルカット(1836-1911 後の神戸女学院初代校長)でした。彼女が小梅を訪ねると、涙を流して祈っているところでありました。こうして、小梅は1881年、岡山教会創立記念の日に受洗しました。面白いことに、その時に中川の妻も共に受洗をしたそうです。

 小梅は30歳にして根本的にその生活が改められ、まもなく神戸女子伝道学校に入学し、生涯を伝道に捧げることになりました。後に、婦人伝道師として岡山教会を助け、また石井十次の孤児院に協力援助し、「孤児院の母」として敬慕されました。

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日本キリスト教団 荒川教会 牧師 国府田祐人 電話/FAX 03-3892-9401  Email:yuto@indigo.plala.or.jp