「もう笑わなくちゃ」(3) P.150〜P.151


 H「なんばみんなでいゝようとや!」
 A「正しかと!」
 Z「ちがっとう!。」
 U「それはネェ!」
 あゝでもなおこうでもないと論議は熱く重ねられていき、とうとう結論が出たあとで論議はまさつ熱で火事になったのである。興奮してくると博多弁が出てしまう彼らのために、同席していたマネージャーの無頼庵恵比寿多陰はチンプンカンプンでついにたった一言発言しただけに終わったが、ここでは割愛させていただくとしよう。
 その結論とは、吉田彰結婚一周年記念日のその日にのみ適応されるものであった。吉田彰の唯一の弱点は彼の妻にあった。彼は世界中の誰よりも妻幸子を愛していた。目を入れたら痛いといっていたが、鼻に入れても痛くないほど幸子に惚れぬいていた。幸子の愛情が希薄になること――それが彼にとってのウイーク・ポイントであった。結婚記念日の一周目という、夫婦にとっては門出における重要なセレモニーを欠くことは、幸子の憤りを発することうけあいであると考えたメンバーは、早速行動を移しにかかった。

 午後二時  吉田彰のもとへHがTELする。
 H「吉田くん、今晩あたり飲みにゆかないかい?」
 吉「えっ、あのネェ今日はちょっと……。」
 H「いいじゃあないか、遊びじゃないんだよ。我々チューリップのことについての大事
 な話があるんだよ。」
 吉「でも、今日は……。」
 H「吉田くんが来なかったらZが怒るよ。『首だ!』って怒るよ。それでもいゝの?」
 吉「……解った。いくよ。でも二時間くらいで終わるだろう?ミーティングは。」
 H「もちろん。」

午後七時  全員集合 於 スナック「ゲロ」
 Z「さあ、今晩は皆揃ったことだし、去年の暮れの忘年会も今年の新年会もやらなかっ
 たから、思い切り盛り上がって飲もう。」
 A「ようし、飲もう飲もう。」
 H「まあ、一パイどうぞ吉田君。」

次へ(P.152〜P.153)