「もう笑わなくちゃ」(4) P.152〜P.153
U「ひと息にさゝぐーっと。」
五人はテーブルにのった三本のビールをコップに注ぐと、乾杯を交わして飲み始めた。もとよりケチなチューリップは、事前にそれぞれのポケット(とはいっても吉田彰をのぞく四人に)、ウイスキーの小びんをしのばせていた。安い店でまず酔って、そして次にホステスの居るような店に行くにゆくのである。そうすれば、その店では安く上がる――という訳である。もとより助兵衛なチューリップは飲み始めたら女の居るところに行かないと気が済まなくなるのであった。こういった酒癖をすばやく認知したチューリップが、自身で練り出した生活の知恵である。
四人はビール三本が空になるのを認めるや、早速コップをそれぞれのテーブルの下へもってゆき、こっそりとウイスキーを注いだ。薄暗いスナックのなかにマスターが一人という場所では、その行為はあまりにも目立たなかった。スナック「ゲロ」が第一の場所に選ばれたのも、その為だった。
午後九時 於 都心から離れた安クラブ「貴族院」
ホステスA子「ぎゃあ――! いらじゃいィ。」
Z「ハロー、ベイビー! グッド・イヴ……」
ホステスA子「あんただれ?」
Z「Zですよ。」
A子「ZってあのZざん?それどもあのZざん?」
Z「あのZもこのZもないよ。Zだってば。」
A子「あゝZざんがぁ、私まだあのZさんがど思っぢゃでざぁ、ごめんね。ZがZがわが
らなぐなっでざあ。」
Z「……?」
A子「ざあざあ、ばやぐごぢらべおいでよ、ばやぐ。」
五人はテーブルを囲んだ。小ぎれいとはお世辞にも言えないクラブだったが、ホステス
は六人居て他の客は居なかった。
ホステスB子「いらっしゃぁい」
鬼瓦が発酵してガスが充満しているようなA子とちがって、スラリと細身を見せてはい たが、顔だけは何故か雪ダルマの顔のように丸く、眉や目鼻や唇も無作為に並べられている女だった。