6月分


6月28日

「賢者の石」(コリン・ウィルソン 創元推理文庫)を読む。

若き科学の徒、レスター。

古来、天才的な思想家に長寿を全うした者が多いのは何故か。

死と永生の問題を探求するうち、彼は大脳生理学の研究に着手する。

そして遂に、前頭前部葉の秘密を解き明かした。

そこは人間の意識を無限に拡大し、物事を真に”見る”ことを可能にした。

それはその物の持つ歴史、過去をも見通すことを意味する。

やがてレスターの研究が人類の起源の謎にまで及んだとき、ある恐るべき”存在”が彼を狙い始めた。

というわけで、面白かったです。

なんかあらすじだけ見ると普通のSFっぽいが、なんていうか、ちょっと違う。

前半、思いっきりページを割いて、レスターの少年時代から、まるで自伝のように彼の人生が語られる。

彼の興味、嗜好、思想、思考の過程を追いながら、次々と新しい展開を見せていく。

そこには首尾一貫したテーマと志向性があり、説得力があり、読みやすい。

壮大な人間進化を扱った名作である。

著者のコリン・ウィルソンについて、彼ははじめラブクラフトを指してひどくお粗末な物書きと言っているが、

後に数本のラブクラフト的世界、つまり”クトゥルフ神話作品”を書いている。

彼はこの作品でラブクラフトを越えたと豪語しているが、はてさて。

 

6月24日

《クトゥルー神話セレクション》邪神たちの2・26」(田中文雄 学研)を読む。

帝国陸軍の青年将校海江田清一は、危篤の父、阿礼を見舞うため、九頭竜川上流の故郷へと帰った。

阿礼は清一に、自分が死んだら24時間以内に火葬しろと奇妙なことを言う。

結局阿礼はその日の夜息を引き取ったが、通夜などのため約束は守られなかった。

そして父は生き返った、無惨な屍のままで。

九頭竜川の流れの底に沈んだ社、そこに封じ込められていたモノが復活し、帝都東京に向けて動き始めた。

全てを知った清一は、幻視者北一輝とともに、これを滅ぼすべく立ち向かう。

てなわけで、和風異色クトゥルフ物なんだが、面白かったね、普通に。

はじめイロモノクトゥルフかと思ったけど、なかなかちゃんとした作品だった。

主人公清一のオヤジ阿礼は、若い頃にインスマスでひどい目にあってたり、

ラブクラフトと遭遇してたりと、いろいろやってくれる。

歴史的な事実に絡めて、全体的に2・26事件の歴史小説みたいだった。

昭和天皇とか出てくるしな。

最後はクーデターに参加した将校として、主人公もちゃんと銃殺されたりして。

うん、確かに面白かったよ。

余談だが、この本ネットオークションでゲットしたんだけど、落札価格が290円だった。

送料込みで相手先の郵便口座に代金振り込んだんだけど、送料が310円で手数料が210円だった。

本体値段よりそっちの方が倍くらい高いよな、まったく。

 

6月20日

暗黒神話大系シリーズクトゥルー2」(オーガスト・ダーレス 青心社)を読む。

謎の失踪後、姿を現した盲目のラバン・シュリュズベリイ博士と5人の若者が遭遇する

恐るべきクトゥルーとの闘争。

クトゥルー復活を阻止すべく、世界を飛び回る彼らの冒険を描いたダーレスの「永劫の探求」5部作を収録。

はい、面白かったです。

前知識として、同じパターン話を5回読まされると聞いていたので、どんな物かと思ってたんだけど。

確かにパターンは似ていた。

いきなりシュリュズベリイ博士に巻き込まれて、最後はビヤーキーに乗ってセラエノに逃げ出して終わるという。

それでもちょっとずつ話が進んで、ちゃんと最後に南太平洋上、ルルイエの遺跡でクトゥルフと対決したりして、

すごい良かったよ。

本気でクトゥルフ退治しようと思ったら、確かにああするよな。

ダーレスの旧神とか四大元素とかどうでもいいけど、

魔法や科学で邪神に対抗しようっていう冒険活劇なところは面白いよね。

いや、マジで良かったよ、この話。

 

6月16日

「アクエリアンエイジ・ノベル@宝瓶宮の扉(中井まれかつ ソニーマガジンズ)を読む。

人類の歴史の裏で〜中略〜大いなる変革の時代、アクエリアンエイジを迎える。

というわけで大人気TCGアクエリアンエイジのデザイナー自らが書き下ろすニューエイジサーガ。

うーん、なんかイマイチだった。

内容的にはともかく、たとえば冒頭のラブコメ部分、読んでてなんかときめかなかった。

これは「幼なじみ」に対する僕の本能的な嫌悪感のせいだけじゃないと思うんだよな。

なぜだろうと考えてみると、文章、というか言葉、かな。

なんていうか、言葉の端々まで神経が行き届いてない感じがした。

これひょっとして、焦って書いた?

昔の中井君の文章って、もう少し読み易かった思うけど。

キャラクター的には、サイボーグ? の由美子がスゲー気になる。

っつうか、なんか面子が某ブレザーファイブっぽいのは気のせいか?

まぁ、まだ1巻なんで、続きに期待というところか。

 

6月14日

ブギーポップ・カウントダウンエンブリオ浸蝕」(上遠野浩平 電撃文庫)を読む。

ブギーポップシリーズ第7弾。

人の心の中には一つの卵があるという。

・・・えーと、あらすじ説明するのめんどくさいな。

あんまし面白くなかったし。

とにかく意志を持ったたまごっちが、才能のある人間からスタンド能力を引き出す話だな。

どうでもいいが、たまごっち=エンブリオが

「AIが止まらない」の主人公ひとしの妹、弥生の持ってるAI「まーくん」を彷彿とさせる。

ブギーポップの扱いは良かったね、今回も。

あとはこう、本編がもっと面白ければいいのに。

 

6月12日

「アクエリアンエイジ鬼姫転生(中井まれかつ 角川スニーカー文庫)を読む。

男たちが築き上げてきた戦いの歴史の陰で、人知れず繰り返される少女たちの戦い。

古の者の血を引くダークロア、西洋魔術結社WIZ−DOM、そして東方の霊力を操る阿羅耶識。

永きにわたる三つ巴の戦いののち、さらに超能力集団E.G.O.、謎の異星人イレイザーを加え、

大いなる変革の時代を迎えようとしていた。

人気TCG「アクエリアンエイジ」のゲームデザイナーの、小説デビュー作。

はい、面白かったです。

優柔不断の男の子と人間以外の女の子2人の三角関係とか。

マインドブレーカー=優柔不断、というのはお約束なのか?

そこはかとないラブコメっぽさは良かった。

あとはまぁ、忍者武芸帳ばりの団体戦とかね。

ただ雑誌連載時にあったであろう冒頭部分がばっさり無くなってるのは困った。

前回のあらすじが欲しいとこだね、せめて。

まぁ今後を待てというなら待ちますが。

あと気になったのはあとがきかな。

キャラクターと作者の対話なんて、彼が一番嫌うとこじゃないかなぁと思ってたから。

それとも勘違いか、僕の?

 

6月10日

「二重螺旋の悪魔 下」(梅原克文 角川ホラー文庫)を読む。

前巻から5年後の話。

この5年の間に、イントロンの中に封印されていた怪物は大量に復活、

バイオハザードで東京は壊滅し、

混乱に乗じて勃発した核ミサイルの撃ち合いにより、米、露、中国などは消滅した。

ゾクゾクと数を増やした怪物ども、通称GOO(Great Old Ones)は

山手線の内側を自分たちの領土とし、人類に戦争を仕掛けてきた。

人類は、マイクロマシンにより肉体を改造した超人部隊でこれに対抗、

両者とも半不死身の兵士による泥沼の戦争となった。

とにかくすげぇの一言。

どうしちゃったんだ、この展開?

面白かったけど。

途中、GOOを人間のDNAの中に封じ込めた謎の存在

EGOD(Elder GOD)の正体が明らかになる辺りから、うーんという感じだが。

EGODのやることがマヌケすぎ。

スケールはでかいんだけど、超越神のくせに思考パターンが人間的すぎる。

わかりやすいけどそのせいでスケールのでかさを相殺している。

まぁ、全体的に読みやすく、面白かったです。

もはやホラーではなく、SFアクション巨編と化しているが。

ちなみにクトゥルフ神話とは、ネーミング以外全く関係がない。

 

6月8日

「十三番目の人格−ISOLA−(貴志祐介 角川ホラー文庫)を読む。

第3回日本ホラー小説大賞長編賞佳作受賞作。

先だって映画化された、よね?

エンパス、賀茂由香里はその能力を活かして阪神大震災後、被災者の心のケアをしていた。

そんな中出会った少女、森谷千尋は心の中に複数の人格を持つ、多重人格障害者だった。

そして彼女の13番目の人格、ISOLA。

心を通わせていくうちに、由香里はその恐るべき存在と正体に気づき始めた・・・。

前半の、相手の感情を読みとるエンパシー能力を活かしてサイコセラピーしてるとことか面白かったな。

後半は一転して、オカルト。

まぁ、主人公が超能力者の時点で初めからオカルトありだからね。

映像化、難しそうだけどなぁ。

 

6月5日

「天使墜落 下」(ラリー・ニーブン&ジェリー・パーネル&マイクル・フリン 創元SF文庫)を読む。

1992年度、プロメテウス賞受賞作、の下巻。

ちなみにプロメテウス賞とは

「理想的な自由社会の発展および、自主独立・自己実現・人格的成長に向かう人間の営為をテーマとした作品」

に贈られるそうな。

それはいいんだけど、内容的には上巻より面白くなかったなぁ。

墜ちた天使を宇宙に帰すため、全国のSFファンがネットワークを駆使して頑張る話なんだが、

どうも伝わってこない。

まぁアメリカの地理に疎い、というのも理由の一つなんだろうけど、それだけじゃないよなぁ。

まず最大の障害であるところの元SFファンの空軍特別調査局大尉、リー・アーテリア。

てっきりこの人と知恵比べしながらの逃避行になると思ってたら、彼女、最後の最後まで全然絡まないんだよね。

なんか肩すかし喰った感じ。

それから宇宙船打ち上げの鍵を握るロケット技術者のロン・コール。

この人は政府の”再教育”を受けて、イっちゃってるはずなのに、話してるうちにいろいろ思い出して、

結局打ち上げに必要な燃料やらなんやらの在処を全部喋っちゃってさぁ、ヒント出しすぎだよな。

ヒロインのシェリンも、危機感足りないし。

ご都合主義は大事だけど、ご都合主義的すぎて困るね。

たぶんこれ、アメリカのSFファン向けなんだろうな、と思った。

 

6月4日

《クトゥルー神話セレクション》クトゥルー怪異録極東邪神ホラー傑作集(菊地秀行・佐野史郎ほか 学研)を読む。

史上初の日本人作家によるクトゥルフ神話作品集。

まず「冬彦さん」役で怪演を見せた役者、佐野史郎が初創作に挑戦した「曇天の穴」。

この人、実はラブクラフト好きだそうだ。

TBSのギミアブレイク内でドラマ化した日本版、「インスマスを覆う影」の深き者の血を引く主人公演じている。

「曇天の穴」に関しては、読み終わった後、ナンジャこりゃ? という程度の内容だった。

次は前出のドラマの脚本を書いた小中千昭が同作品を小説に書き下ろした「蔭洲升を覆う影」。

蔭洲升でインスマスと読む。

妖気漂うインスマスを日本の寂れた漁村におきかえたもので、元が元だけに普通に面白かった。

高木彬光の「邪教の神」。

このひと戦後のミステリー界で活躍したらしい。

探偵・神津恭介シリーズの一編として書かれていて、おそらく日本のクトゥルフ物の作品第1号だと思われる。

ほか、山田正紀の「銀の弾丸」。

菊地秀行の異次元侵略物「出づるもの」。

朝松健の「闇に輝くもの」。

そして1番面白かった友成純一の「地の底の哄笑」を収録。

巻末には菊地秀行と佐野史郎の対談まで入ってる。

お得な1冊だね。

 

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