音戸山通信第14話 (改訂版) 2001.01.20(2000.03.18)

音戸山の家(3) 「住めない家」

 講座第14話も音戸山のわが家の3回目。画像の数から、全体を4回に分けて予定しています。今回がその3回目で、いよいよ一番したかった住宅はこれだったんだ、という、この音戸山というプロジェクトの究極?の案まで紹介いたします。前回、コンパクトな案が出て来ました。ほぼ、これで行けるというところなのですが、なにか、まだ仕残しているという念が抜けません。もっと可能性があるだろうと。

 建築の設計は面白いもので、最初から条件を与えて、その中で解を捜していくけれども、途中で条件を超えてどんどん進めて行くこともある。果たしてこの設計で自分は何をしたいのか、それを突き止めるまで、ある程度枠をはずして追い掛けてみる。それでどこか、形が出るまで来て、やっとテーマが見つかる。そこであらためて、実現に向けて、このテーマをどこまで保持できるか、あるいは逆に余分なものを取り除くことで、よりテーマを明確にして行く、そういう作業をして行く。

 回りくどい方法だが、最初から畏縮していると、なかなか解決が得られないことが多い。何を眼目とするか、それを発見するまでは、比較的自由に追い掛けることが、かえって早道になる。おおよそ、最初に直感したことはそうはずれていない。が、形を伴った建築的な解決として、基本となるものを見つけ出すところまで行かないと、どうも設計をした気になれない。なにか、腑に落ちない。惰性で設計して御礼をいただくというのは、どうもできるものに自信がもてない。ある意味、プロとしては失格だね。

 その頃の学校の学生たちといえば、津田君、片山君など、例の94年の梅小路イベントをやった連中です。これもまたいつか紹介し、その意味を纏めておきたいと考えています。山に入って木を伐り出すところから建築が始まる、というもう一つの建築の始まりを身をもって経験することが出来た最初の例でした。

 その年は、冬休みに京北町の周山の茅葺き民家の解体をやっています。これも紹介します。寒くて大変でしたが、民家の骨組みが美しく、楽しかった。真っ黒になって、満点の星の下で、たき火を囲んで雑炊をすするクリスマスは印象に残りました。

 その同じメンバーでこの音戸山の敷地にもとあった古家を解体し、解体ゴミをやはり京北町の山荘用の土地に運んでいます。これは民家とは違って、何の感動も無い、ただ忍耐が強いられた辛い労働でした。あのころの津田君や小松君といった学生諸君は本当によくやってくれたと感謝しています。95年の春休みのことです。

 続いて、その山荘用の敷地に、梅小路のときに作ったプレカットハウス(休憩所)の材料を用いて、山荘(小屋)をつくりました。事務所を引き払うときに出てくる本や書類を収納するためのトランクルーム。家の前にこれを作らなければならなかった。家は狭くて、収納スペースがあまり取れそうにないからです。これがまた大変でした。週末の度ごとに京北に行っては作業です。建具が出来て、何とか事務所の荷物を運べたのは、96年の春でした。

 黒田山荘 1996

 その間に、家の設計をやっていたわけです。一気にやったのではないので、かえって、行ったり来たりを繰り返しながら、色々な案が出て来て、とても面白い。もうこの時には土地も購入して、ローンを返済しなくてはならないし、姪はもう家に来て狭い中に一緒に住んでもらっているし、一刻も早く設計をと、プレッシャーもちょっとはあったのですが...。

山荘内部 本が引越した

 この頃の関心は、全体として、RC(鉄筋コンクリート)の部分と木造の部分とが、どのように噛み合わさるべきかという形態的なものにあった。ふつうの場合、コンクリートの大きな土台の上に木造が載るということになるけれども、どうしても、木とコンクリートとが噛み合ってこなければ、気が済まない。コンクリートの箱に木軸が包み込むような感じ。それをああでもない、こうでもないとやっていた。画像は、外から直接外部階段を通ってピアノ室にアプローチできる案。平面は省略。開放的なリビングが最上階にあり、内部からも外部からもアプローチできるというもの。アメリカ人には受けた。

外階段案

もっと単純化したもの(下図)もある。ちょっとモダンデザインっぽい。今にして思えば、これも悪くない。安く出来たかな。

単純化案 屋根勾配が実施案に同じ

次は前にもどった形のもの。この方が素直ではないかと。立方体のRCの箱と、その見附対角線の正方形を斜めに合わせた形で木造をかぶせる。地上部分は2階建て。下から伸び上がってくる感じにしたかった。

コンクリートキューブに斜め正方形を重ねた家

 平面。木造部分の吹抜けた大きな空間がリビング関係で、階下のRC部分に各寝室や浴室などが来ている。前に上げた原則にかなっているのだが、一番上は面白く、下は詰め込まれて、つまらんものになってしまう。どうも上手く行かないで、うーん、と考えあぐねていた。リビングにいわゆる四天柱が出て来る。

同上平面

 そして、「樹の家」案。ここがターンニングポイント。おそらくこの家の究極の案。一番、原理的にすなおで過激な案ともいえる。ここでは、RCの箱の上の木軸は、自然の樹のように、RCからあるいは地面から生えて、枝を伸ばして屋根を支えている。そのスケルトンの空間は、枝が張り渡されていて、森の中にいるようなとてもいい空間になるはずだ。もっとも、いたるところで頭を打ち、たいへん住みにくい。この案は、しかし、結局、敷地の中に屋根が納まらないという理由で出来なかった。大いに残念。いつかどこかで実現させたい案だ。

樹の家

樹の家

 一番最初の使い勝手のよさそうな案(音戸山の家-1)とくらべれば、随分離れたところまで来た。その案を見せた時に、そのころの学生たちに批判された。「これでは住める。住めない家をつくるべきではないか」と。ぼくが平生、言っている通りにね。この「住めない家」が、建築家が自邸をつくる意味だと。やっと、この「樹の家」で、「住めない家」あたりに来たなあと、一人で感じ入っていた。

                            音戸山の家−4 につづく