4.感性、感覚に訴える食事バランスガイド

 食事バランスガイドは、何を伝えようとしているのだろうか。食事バランスガイドの目的は、「分類学上の厳密な議論ではなく、できるだけ簡単に区分できることが重要となる。そこで、各料理に含まれる”主材料”に着目し、それらの量がある一定以上含まれるものを、各料理区分に分類5)」している。

 こうもいう。「栄養学に関心が薄い、子どもや中年男性が見てもすぐに理解できる、ビジュアルインパクトを大切にしながら少し女性的な優しさをもってデザインしました。あんまりセンスがとんがらないよう、和み感もポイントです。」6)感性とは何か、感性をみがくトレーニング、感性を食育に生かすことを語っている。

 厳密ではなくおおよその主材料からビジュアル的にバランスがとれてコマが傾かないかどうかを判断できるもの、といえる。外食や中食の多い人が、外食先や総菜売場で何をどれくらい買えば良いか、食品や料理を選ぶ能力を培うことが中心のようである。
食事バランスガイドを検討した委員7)を見ても、日本フードサービス協会、日本フランチャイズチェーン協会、全国飲食業生活衛生同業組合、日本スーパーマーケット協会の関係者らの顔ぶれが並んでいる。

 食事バランスガイドをよく見ると、コマの左側の中ほどから細いひもが出ている。カラーの場合は青いひもで、その中に字が書いてある。「菓子・嗜好飲料 楽しく適度に」という標語らしき文章である。コーラやポテトチップスを食事代わりにしてはいけませんよ、ほどほどにしなさいよという警告なのだろうか。それとも、食事だけでなく、ポッキーもチョコもケーキも食べようねと勧めているのだろうか。ここにも、食事バランスガイドを検討した委員の中に、業界関係者が入っている理由が見えてくる。

 なぜ、コマのデザインにしたのだろうか。食事バランスガイドは、「日本独自のデザインとコンセプト」で作ったフードガイドであることを作成に関わった人たちは強調する。これまで世界各国が作ったフードガイドとは違いますよ、マネをしているわけではありませんよと盛んに言うのである8)。先にみた「つ(SV)」のように、サービングを付け加えるのは、明らかに英語圏のフードガイドのマネとしか思えないのだが。

 余談ながら、コマは唐(中国)から日本にやってきたのが定説である。中国にも韓国にもイタリアにもパプアニューギニアにもマレーシアにも、世界各地にコマはある。日本国内にもさまざまな独楽があって、地域色豊かである。コマは日本独自のものではない。国が考案した1種類のコマだけを回すことにはならないだろう。

 感性を全面的に打ち出した食事バランスガイドが、何をどれだけ食べたらよいのかを知る上でわかりやすいといえるのだろうか。

注)
5)吉池信男「「食事バランスガイド」はなぜ誕生したのか」『栄養日本』社団法人日本栄養士会、2006年第49巻7号、13頁。

6)尾坂昇治「感性を食育に生かそう!」『栄養日本』社団法人日本栄養士会、2006年第49巻7号、8頁。検討会委員のメンバーの一人で株式会社シナジー代表取締役。略歴は、多摩美術大学、東京芸術大学大学院環境造形デザイン修了、栄養学や食教育とは無縁のデザイナーである。「実は、昨年まで「食育」という言葉をよく知りませんでした」と書き始め、「1年前に、女子栄養大学の武見先生から「日本版フードガイドをつくるのでコンセプトと感性で手伝ってくれない?」とお声掛けいただいたのが、この世界に入ったきっかけです」と打ち明けている。

7)「食事バランスガイド」を検討した委員は、以下の15名。( )内は当時の肩書き、所属である。
 伊藤俊一(社団法人日本フードサービス協会会員企業・株式会社ジョナサン広報担当)、伊藤廣幸(社団法人日本フランチャイズチェーン協会CVS担当部長・株式会社ローソンFCサポートステーションシニアリーダー)、尾坂昇治(株式会社シナジー代表取締役)、武見ゆかり(女子栄養大学栄養学部教授)、田中清三(全国飲食業生活衛生同業組合連合会会長)、津志田藤二郎(独立行政法人食品総合研究所食品機能部長)、中村丁次(社団法人日本栄養士会会長)、永田浩三(日本放送協会番組制作局情報番組センター部長(〜平成17年5月31日)、遠藤景子(日本放送協会番組制作局情報番組センター部長(平成17年6月1日〜)、服部幸應(学校法人服部学園理事長)、早渕仁美(福岡女子大学人間環境学部教授)、針谷順子(高知大学教育学部教授)、松谷満子(財団法人日本食生活協会会長)、宮川誠一(日本スーパーマーケット協会販売促進委員会委員・株式会社ライフコーポレーション首都圏販売促進部首都圏販売演出課長)、横田倫子(消費科学連合会企画委員)、吉池信男(独立行政法人国立健康・栄養研究所研究企画・評価主幹(座長)

8)検討会座長でもある吉池信男氏は以下のようにいう。「これまでに無い(諸外国の「マネ」ではなく)、斬新なイメージとして”逆三角形(円錐)”が採用され、量的に多く摂りたいものが上に位置するようにされた。また、軸をつけてコマの形とすることで、回転(運動)することにより初めてバランスが確保できるという意味が込められた。もちろん、コマという形は、日本の文化的背景を大事にするという意味もある。」『栄養日本』第49巻7号、2006年、13頁。

(その5)へ

 問題の多い食事バランスガイド(その4)