3.「何をどれだけ食べたら良いか」の「どれだけ」が示すもの

 食事バランスガイドは、何をどれだけ食べたら良いのか、「どれだけ」の量を示すのに、1日に食べた量を換算する単位として「つ」を用いている。グラム数やccで表示していない。これが食事バランスガイドの特徴でもあり、私は欠陥の一つであると思っている。
 「健康日本21」3)には、1日の野菜摂取量を増加させようと、350グラム以上とグラム数を提示している。脂肪エネルギー比率を減少させるために、1日当たりに平均摂取比率を25%以下にしようと呼びかけている。カロリー摂取量が多めで、野菜不足になっている日本人の食生活上の問題点をつかみ、数値目標を上げて提示した「健康日本21」とは対照的である。

 では、「つ」とは、いったい何か。よく見ると「つ」のうしろに(SV)と書いてある。サービング(Servings)の略である4)。
 主食は「5〜7つ」が1日の摂取目安量である。食パン1枚が1つ分、ロールパン2個で1つ分になる。ごはん小盛り1杯が1つ分、もりそば1杯は2つ分である。

 副菜は「5〜6つ」が1日の摂取目安量で、1つ分の料理例として、野菜サラダ、きゅうりとわかめの酢の物、具たくさんの味噌汁、ほうれん草のお浸し、ひじきの煮物、煮豆、きのこソテーを挙げている。2つ分の料理例は、野菜の煮物、野菜炒め、芋の煮っころがしである。

 主菜は「3〜5つ」が1日の摂取目安量で、1つ分は冷奴、納豆、目玉焼き、2つ分は焼き魚、魚の天ぷら、まぐろとイカの刺身、3つ分はハンバーグステーキ、豚肉のしょうが焼き、鶏肉のから揚げである。

 料理例から、おおよその分量が想定できるが、それは個々人の判断によるもので、あいまいな分量である。

 牛乳・乳製品は「2つ」が1日の摂取目安量である。牛乳コップ半分、チーズ1かけ、スライスチーズ1枚、ヨーグルト1パックは、いずれも1つ分。2つ分は牛乳瓶1本分である。

 果物は「2つ」が1日の摂取目安量で、みかん1個、りんご半分、かき1個、梨半分、ぶどう半房、桃1個が1つ分と紹介されている。

 本来ならば、「本」、「枚」、「個」、「頭」、「尾」、「匹」などと数えるところを、すべて「つ」で押し通している。日本語軽視も甚だしいが、これはひとまず置くとしても、「つ」は科学的ではない。感覚的に分量を把握させようとしているところに問題がある。

 料理経験の豊かな主婦が、「適当に」あるいは「だいたいの目安」を判断できるのに対して、ふだん料理をしない人間には「適当」や「だいたい」を把握するのはむずかしい。感覚的に「どれだけ」食べたらよいのかをわからせるのは至難のわざなのである。

注)
3)「健康日本21」は、第三次国民健康づくり対策として、2000年に厚生省が策定した。早期発見、早期治療という二次予防でなく、疾病の発生を防ぐ一次予防に重点対策を置いている。栄養・食生活項目で14の数値目標を提示しているのが特徴である。
4)なぜここに英語が出てくるのだろうか。「食事バランスガイドは諸外国のマネではありませんよ」と述べたあとで、なぜ「つ」なのかを吉池信男氏は説明している。『栄養日本』社団法人日本栄養士会、2006年第49巻7号、13頁参照。
 要約すると、アメリカのフードガイドピラミッドにサービングが使われていたことを参考にし、わが国独自の整理をしたこと。生活者にも表示を行う側にとっても、簡便で「1つ」、「2つ」と指折り数えることができる整数を基本としたこと。「杯」、「皿」、「盛り」等も候補に挙がったが、親しみやすさを重視して「つ」にしたこと。”サービング”という概念も大事だから(SV)も表記したこと、が書いてある。


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 問題の多い食事バランスガイド(その3)