2.「何をどれだけ食べたら良いか」の「何を」が示すもの

 食事バランスガイドには、「何を」の部分は、主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物と5種類に分けている。この分け方が疑問なのである。

 まず一つは、「何を」が示す「主食、副菜、主菜」という言葉そのものが、広く国民に認知されていないのではないかという疑問である、

 主食は、「食事のうちで、主としてカロリーのもとになる食べ物。米・麦などの穀類とか食パンなどを指す」と国語辞典には書いてある(『新明解国語辞典 第六版』三省堂、2005年)。反対語として「副食」を掲載している。主菜は「副食物の中で中心となるもの」であり、副食は「主食に添えて食べる物。おかず」と掲載されているが、副菜は掲載されていない(同じく『新明解国語辞典』)。一般的には、主食は、ごはんや食パンを指し、主菜は、おかずのなかでもメインディッシュというイメージである。副菜と聞いて、おかずがイメージできる国民は何割いるだろうか。副食と副菜の違いを説明できる国民は何割程度いるだろうか。特に「副菜」は国語としての認知度は低いと思われる。

 何をどれだけ食べたら良いかを判断する場合、「主食、副菜、主菜」の用語をあらためて説明したり、用語の定義が必要であるならば、それを「わかりやすい」とはいえないだろう。

 二つ目は、「主食、副菜、主菜」の用語を使うことが、わかりやすいかどうかという疑問である。

 「主食、副菜、主菜」の用語を国の機関で初めて使ったのは、1985年、厚生省(当時)が発表した「健康づくりのための食生活指針」である。「多様な食品で栄養バランスを」の項目の2番目に「主食、主菜、副菜をそろえて」とある。主食は「米、パン、めん類などの穀類で、主として糖質性エネルギーの供給源となります」と説明している。主菜は「魚や肉、卵、大豆製品などを使った副食の中心になる料理で、主としてたんぱく質ならびに脂肪の供給源となります」と書き、副菜は「主菜につけあわせる野菜などを使った料理で、主食と主菜に不足するビタミン、ミネラルなどの栄養素を補う重要な役割を果たします」と説明している。

 その後、「対象特性別「健康づくりのための食生活指針」」(1990年、厚生省)では、「成人病予防の食生活指針」の「1.いろいろ食べて成人病予防」の項目に「主食、主菜、副菜をそろえ、目標は一日30食品」と書いている。

 さらにその10年後の「新しい食生活指針」(2000年3月、文部省・厚生省・農林水産省決定)においても「主食、主菜、副菜を基本に、食事バランスを」という項目がある。「主食、主菜、副菜」は、厚生労働省をはじめとする関係者にとって、身近な用語になっている。しかし、広く国民に定着している言葉かどうかとは別問題である。

 1980年代の「主食、主菜、副菜をそろえて」と勧められるのと、2000年代に入って「主食、副食、主菜」と分類された食事バランスガイドを示されるのでは、大きな違いがある。受けとめる国民側の意識の変化である。朝食を抜く人に、外食が多い人に、いきなり「主食、副食、主菜」といわれても、何が主食で何が副食か理解できるだろうか。「主食、主菜、副菜をそろえる」以前の「主食、主菜、副菜って何?」状態の人に理解してもらい、食生活を送るうえで参考になるかどうか疑問なのである。

 外食で普通のラーメンよりも野菜の入った五目ラーメンを注文しようとするとき、「主食、主菜、副菜」の概念は必要だろうか。朝食におにぎり1個だけでなく、ゆで卵も食べようと考えるとき、ゆで卵を「主菜」と認識する国民が何人いるだろうか。「副菜」を一品増やそうと、トマトをかじる国民がいるだろうか2)。

 つまり、何を食べるかと判断する場合、「主食、主菜、副菜」の概念がじゃまになるケースが実に多い。チョコレートやジュースを食事と思ったり、納豆ごはんだけの食事に対して、「これが主食、これは副菜、主菜はこれ」、だから○○を食べようという方向に向かわせるのは、非常に困難ではないだろうか。主食、副菜、主菜のジャンル分けが不可能な食事に対して、主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物と5種類の分類方法は有効とは思えないのである。

 三つは、「主食、副菜、主菜」の分類に牛乳・乳製品と果物をプラスするちぐはぐさである。牛乳・乳製品、果物を一つの食品群に分ける人もいる。牛乳を使って主菜を作る場合もある。牛乳・乳製品と果物の二つの食品群を取り上げてコマの下にくっつけた理由がわからないのである。

注)
2)「フードガイド(仮称)検討会報告書」(28頁)には、単身者を対象に「お手軽バランス朝食のすすめ」が載っている。おにぎりに加え、トマト3切れとゆで卵1個のイラストがプラスされている。トマト3切れの下には「副菜:1つ(SV)」、ゆで卵1個の下には「主菜:1つ(SV)」と書いてある。トマト3切れを副菜、ゆで卵1個を主菜と認識する国民は、何割程度いるのだろうか。副菜、主菜というよりも、私は野菜を何か一つ、たんぱく源になるものを何か、といった食品群で考える方が自然の思考に思える。


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 問題の多い食事バランスガイド(その2)