ドラフト問題   〜ドラフトとは?〜


 −  まず最初のテーマなんですが、ドラフトを取り上げたいと思います。多村さん、よろしくお願いします。

多村−はい、よろしくお願いします。当方、なにせ司法浪人ですので(笑)お手柔らかに。

 −  ドラフトは選手やファンの立場から見ても、職業選択の自由基本的人権の尊重に相反するのでは
    ないか、と思われる面があります。その辺りは、国会でも審議されたことがあり、球界関係者も証人尋問を
    受けています。
     問題となったのは、クジ引きによる入団や本人の意思にそぐわない球団としか契約できないのは、職業
    選択の自由や基本的人権を侵害しているのではないか、というものです。
     この件について、様々な解釈が法曹関係者からもなされていますが、多村さんはどう思われますか?

多村−ドラフト制度ですか・・・。少なくとも司法試験受験生や、学部レベルの人間にとって「分かり
   やすく」はないですね。普通、憲法で「職業選択の自由」を扱う場合には、「営業の自由は含
   まれるか
」であるとか、「法律によって薬局や銭湯の出店距離制限を設けることは可能か」と
   いった議論で終わってしまいますから。
    実際、憲法に関する有名どころの本を一通り調べても、それくらいしか出ていないんです。


 −  ははぁ、選ぶテーマが悪すぎる、と。

多村−いやいや(笑)、これは別に一平さんに文句があるわけではないんですが(笑)、一般に法学部
   以外の人っていうのは、法学部生が法律については一通り理解してると思っていらっしゃる
   ところがある
ようです。実際には、そんなことはありません。一般に法学部生が勉強するの
   は、憲法、民法(特に「財産法」と呼ばれる民法第1編、第2編、第3編。「家族法」と呼ばれる
   民法第4編、第5編は学ばない場合も多い)、刑法、商法(「会社法」と呼ばれる商法第2編と、
   小切手法が主)、民事訴訟法、刑事訴訟法くらいです。ところが、実務では、多数の特別法(民事
   関係についていえば、商法が優先適用される場合がほとんどですし、刑事法の分野でも多数の
   特別法があります)が出てくるのです。こうなるとなかなか普通に法学部にいても対応しにくいの
   が実情なのです。
    もっとも、そんな言い訳ばかりをしても始まりません。自分なりにちょっと考えてみたいとは
   思います。


 −  はぁ、ひとつよろしく。

多村−さて、その前に、ドラフト制度について一平さんに詳しく説明した頂きたいのです。私はドラフト
   制度といえば、くじ引くところがイメージできる程度ですので、まずは考察対象を明らかにしたい
   のです。
    プロ野球選手になる場合、契約(請負契約か雇用契約かは争いがあるようですが、実務・税務上
   は請負契約になってるようですね)を結ぶことになりますよね。その際、契約の相手方は球団(株
   式会社=営利社団法人)になりますよね。ところが、プロ野球選手になろうとしている人は、その
   球団を自由に選ぶことができないということですよね。ドラフト制度以外でプロ野球選手になる
   ことは完全に不可能
なのでしょうか。それとも他の方法があるんですか? 海外に出て行ったり
   して時間稼いだりしたらOKなんですか?


 −  むむむ、逆質問ですな(^^;)。確かに、考えてみりゃ、考察を下す対象のことを詳細に知らなくては法的判断
    の下しようがないですね。わかりました、わかる限りのことを話しましょう。
     まあドラフトもけっこうコロコロ制度が変わりましたんでね、よほど興味を持ってる人じゃないと細かい改正まで
    ついていけないですよねぇ(^^;)。で、現在は各球団の新人選手指名枠は8名です(それ以下なら可)。
    そして、現行制度ではドラフト指名に引っかからない限り、プロ野球選手にはなれません。もっとも例外は
    あります。他国のプロ野球選手を入団させる場合は、新人選手として扱われませんから、これはフリーです。
    問題になるのは国籍だけで、球団が1軍登録できる日本国籍以外の選手は4名以内です。2軍には何人おい
    ても構いません(ちなみに、今後この外国人選手問題も取り上げる予定です)。

     純粋にプロ経験のない新人選手はドラフト以外ダメです。過去は球団によってテストを行ない、合格者
    には入団させていたんですが、現行では例えテストに合格しても、その選手をドラフトで引っ掛けない限り入団
    できないよう改正されてしまいました。これは、無制限にプロが有望選手を入団させてしまうと、アマ球界の
    人材が枯渇してしまいかねない、というアマ側の懸念を考慮したものです。

     現行ドラフトは、1位と2位指名の選手のみ、新人選手の逆指名権が与えられています。これは新人
    選手の人権を考慮したものです。例を出します。
    「将来有望な多村選手はプロ入りにあたり、希望球団を発表しました。巨人と西武とダイエーです」
     この場合、巨人、西武もしくはダイエーが多村選手を獲得したいのであれば、1位か2位で指名すればいい
    わけです。逆指名されなかった球団は、多村選手を指名することは出来ません。ただし、逆指名した
    3球団が
2位指名までに多村選手を指名しなかった場合、各球団にも指名権が生まれます

     この逆指名は1球団でもいいし、複数球団指名しても構いません。そして、希望球団が2位以内に指名して
    くれなかった場合で、3位指名以下で他球団が指名した場合、その球団が多村選手に対する交渉権を得ます
    (無論、交渉するかどうか、入団するかどうかは多村選手次第ですが)。また、逆指名球団が複数あった
    場合で指名が
重なった場合は、抽選(くじ引き)になります。

     ただし、この逆指名制度が使えるのは社会人選手か大学生選手のみで、高校生選手にはこれが使
    えません。目下のところ、この点を問題視する意見が多く出ていますね。さらに、逆指名権を使えるのは2位
    指名までの選手で、それ以下の指名選手には社会人だろうと大学生だろうとこの権利はありません。上記に
    ちらっと説明したウェイバー方式になってしまいます。この点も疑問視を向ける人がいます。

     また、ドラフトへの批判回避ということでもないんでしょうが、フリー・エージェント(以下FA)という制度も
    あります。これは、一軍である程度の試合数をこなせば、他球団との自由交渉権を得る、というものです。
    ドラフトで希望球団へ入れなかったことに対する補償に近い考え方として捉えているようです。これも問題
    が多数ありますので、後程取り上げたいと思っている議題です。

     で、ご質問の「海外へ逃げればいいのか」って話ですが、過去に荒川江川、元木もやってますね。
    これは完全ウェイバー方式時代の話で、自分の入りたい球団に指名されなかった選手が、指名した球団と
    交渉したくないが故、翌年のドラフトまで(というか、指名球団の交渉権が切れるまで)海外へ逃げて、身体が
    なまらないように同地で練習もするってやつです。近年は逆指名ドラフトになってますので、こういうケースは
    ほとんどなくなりました。上位指名される大物選手は逆指名できますし、そうでない選手はプロに入れれば
    どこでも可という選手ばかり、というよりも、好みの球団に入ることを半分諦めているのかも知れません。


多村−なるほど、ありがとうございました。ドラフト以外で入れないということを初めて知りました
   (テスト合格で入団の際にもドラフトが必要であるということなど)。


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