えばぁの見解 対振り飛車急戦編


27th November 2003
(改装 : 1st December 2005)



 この前まで中飛車、四間飛車、三間飛車、向かい飛車と、全部の振り飛車を紹介してみたわけですが、全て「振り飛車から見たもの」として扱ってきました。
 「そりゃ、振り飛車党なんだからそうじゃん」っていうのも一理ありますが、このような言葉を知っていますでしょうか。
 中国の兵法家(思想家かな?)・孫子の兵法書に載っている言葉です。

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」

 大雑把に言うと「自分のことも相手のこともわかっていれば、100回戦おうが負けんわー」と言う意味です。
 将棋で言うと相手の読みまでわかってないといけないので凡人にはとてもとても無理な話ですが(笑)、それでも「定跡」と言うものが存在するので、序盤に関しては相手の意図は指し手からある程度「知れる」わけです。
 それに対して「こうされたらこうする」というある程度の方針を持っていると、(もちろんそればっかりに頼っててはいけませんが)読みも入れやすくなると思います。

 と言うわけで、今回取り上げるのは居飛車の対振り急戦です。

 振り飛車の中で、居飛車から見て急戦をしやすいのは四間飛車だと思います。
 四間飛車の利点はバランスの良さですが、言い換えればどこにでもちょっとは付け入る隙があるということになります。
 居飛車の急戦を語る場合、絶好の相手は四間飛車なので、ここでは四間飛車に対する居飛車急戦のバリエーション・採用するポイントを考えていきます。
 (居飛車先手として)

言い訳
 えばぁは振り飛車党なので、細部の細部まで居飛車党の気持ちはわかっていません。
 参考文献はもちろんありますが、居飛車の応手には不安なところがあります。
 ある程度の指針として、ご覧ください。




VS △4三銀型四間飛車


 最近の四間飛車は、居飛車穴熊対策で(何かのときに△5四銀と出られるように)△4三銀と上がる傾向が強くなっています。

△4三銀型基本図

△4三銀型四間飛車

 藤井システムをしないのなら、鈴木システムの含みを残すために△3二銀待機のほうがいいとえばぁは思うのですが、そこにはえばぁの知らない事情があるのだと思います。

 さてその△4三銀型に対する居飛車の急戦はというと、メジャーなもので2つ存在します。「斜め棒銀」と「▲4五歩早仕掛け」です。
 △4三銀型に対しては2番目の「▲4五歩早仕掛け」が生まれるのがとても大きいと言われ、急戦最有力と言う向きもあります。
 以下、1つずつ概観していきます。



<斜め棒銀>

 基本図から左の銀を5七~4六(~3五)と進めていくのが、斜め棒銀と言われる仕掛け方です。誰が最初に「斜め棒銀」と呼んだのかは・・・わかりません。
 また、△3二銀型四間飛車のところで紹介する山田定跡△6四歩型は斜め棒銀じゃないのかなど、いろいろ不思議なところもありますが、このページでは「△4三銀型に仕掛けたら斜め棒銀、△3二銀型に仕掛けたら山田定跡」ということにしておきます。

斜め棒銀

斜め棒銀

 基本図から▲4六銀~▲3五歩と仕掛け(左図)、3五に銀が出られれば成功です。例えば上図で△3五同歩▲同銀となれば2・3・4筋全てに銀が効き、次に▲2四歩があって居飛車が指しやすくなります。
 そのため左図では△3二飛が一般的で、その後も「▲3五銀としたい居飛車VS▲3五銀とさせたくない振り飛車」という構図で戦いが進んでいきます。

 ちなみに斜め棒銀は四間飛車と三間飛車にはできますが、ツノ銀中飛車には通じません。そのためVSツノ銀中飛車には▲4六金戦法というのがあります。中飛車の項をご覧ください。
 また、VS三間飛車だと三間側が四間飛車と比べて一手早くなります。(△3二飛の分)

参考棋譜 : 斜め棒銀と2筋の突き捨て



<▲4五歩早仕掛け>

 VS△4三銀型四間飛車特有の急戦が、▲4五歩早仕掛けです。角交換になればとりあえず2筋が破れるので、わかりやすい急戦です。
 △3二銀型だと、▲4五歩と仕掛けても待ってましたとばかりに△同歩と取られ、▲3三角成には△同銀があるので仕掛けになりません。

▲4五歩早仕掛け

▲4五歩早仕掛け

 基本図から▲4六歩~▲4五歩と仕掛け(左図)、角交換を狙うのが基本です。左図で△4五同歩なら▲3三角成△同桂▲2四歩で居飛車が指しやすくなります。
 早々と△4三銀と上がる最近の四間飛車には非常に有効で、「急戦の中では最有力」と言われています。2003年10月の竜王戦第1局▲羽生△森内(森内勝ち)もこの戦型でした。
 ※ プロでの▲4五歩早仕掛けは、居飛車も振り飛車も双方自信がないようだ。『この局面にするくらいなら』と言う比較の結果、居飛穴が選ばれることが実戦的に多いようだ。 ('04.Oct追記)

 上図は△4三銀型基本図から▲4六歩△5四歩▲4五歩と進めている図ですが、振り飛車は▲4六歩に△5四銀(!)と変化することも出来ます。それは玉頭銀戦法と言われます。

 VS三間飛車にも桂馬を使う早仕掛けがあります。
 ただし三間飛車自体の絶対数が少ないため、範囲を絞りたい人は斜め棒銀のみにしたほうが楽でしょう、たぶん。
 (注 研究が楽であって、将棋は楽ではない)

参考棋譜 : ▲4五歩早仕掛けを正面から食らう四間飛車



<えばぁの見方>

 居飛車の判断としては、基本図から四間飛車が△6四歩を早めに突けば斜め棒銀、△5四歩を早めに突いてきたとすれば早仕掛けと使い分けることが多いようです。ただしそれには基本図から▲6八金直で一手待つ必要があり、それが得になるかどうかは難しいところです。

 △6四歩と突くと角交換したあとの△6四角が消えるので、振り飛車の反撃手段が一つ減ります。そのため斜め棒銀がしやすいと言う判断です。

 △5四歩と突くと上記の△6四角が残るので斜め棒銀より▲4五歩早仕掛けが好まれるようです。この△5四歩と言う手は△5四銀を消しているので、早仕掛けがしやすいのです。

 その△5四銀(あとあと6五~7六と出てくる)が気にならなければ、早仕掛けオンリーでもかまわないと思います。それが気になるのなら、相手が△5四歩と突かない限りは斜め棒銀で落ち着いたほうがいいと思います。




VS △3二銀型四間飛車


 △3二銀型の四間飛車は△4五歩と突いたときの反発力が非常に強く、居飛車としても厄介な部類と思われます。振り飛車も手の組み合わせが複雑で、駒組みから駆け引きが行われます。

△3二銀型基本図

△3二銀型四間飛車

 左の局面で、四間飛車側の選択肢は以下の3つがあります。(ここで△4三銀と上がれば、前述の△4三銀型四間飛車になる)
1.△5四歩
2.△6四歩
3.△1二香

 この3つの手に対する居飛車側の急戦法として「山田定跡」と「鷺宮定跡」があります。
 以下、ひとつずつ概観していきます。



<山田定跡>

 対振り飛車研究の第一人者と言われる山田道美九段(故人)が大山十五世名人の四間飛車を倒すためにまとめた急戦定跡です。<その完成度の高さから、山田九段の名前を取って「山田定跡」と呼ばれるようになりました。
 仕掛け方が基本図からの四間飛車の手によって2通りに分かれます。
 対△3二銀型四間飛車特有の仕掛けですので、三間飛車・中飛車には出来ません。


1.基本図から△5四歩の場合
山田定跡・端角

 基本図から△5四歩とした場合、居飛車はすぐ仕掛けることができます。
 その一手が▲9七角(左図)。△5四歩と突いたためにこの角が4二の飛車当たりになります。そこで△4一飛と引く一手ですが、これに▲7九角と引き、次に▲6六銀~▲2四歩の2筋突破を狙います。▲7九角ではなく▲8六角と言う指し方もあります。
 ▲7九角に対し、振り飛車は△4五歩と受け流すか、△4三銀と相手にするか・・・と言うのが定跡です。


2.基本図から△6四歩・△1二香の場合
山田定跡・▲3五歩

 基本図から△6四歩または△1二香とされた場合、山田定跡では▲3五歩と仕掛けます。△同歩に▲4六銀と出て(左図)、△3六歩に▲3五銀とし次の▲2四歩が狙いです。歩から突いていく、ちょっと手順の違う斜め棒銀と思ってください。
 斜め棒銀のところで言った「▲3五銀と出れば成功」が成立していますが、この場合は四間飛車側も飛車先が通っているので、まだまだ互角です。

参考棋譜 : 山田定跡・端角の定跡



<鷺宮定跡>

 鷺宮定跡の「鷺宮」とは、東京にある地名です。
 この定跡を考案・採用していた青野照市九段、米長邦雄永世棋聖が当時住んでいたのがその「鷺宮」であったことから「鷺宮定跡」と呼ばれるようになりました。
 基本図から四間飛車が1手(△5四歩・△6四歩・△1二香)指した後、▲3八飛としたのが鷺宮定跡の基本図になります。
 四間飛車側はそこで主に△4五歩か△4三銀の対策があります。


1.△4五歩の場合
鷺宮定跡・△4五歩

 ▲3八飛と角頭を狙った手に対し、△4五歩は「狙われている角を交換して捌いてしまおう」と言う考え方です。
 (左図・△5四歩型)

 △4五歩には角交換後、▲2八飛と戻します。
 そして▲3七桂~▲4五桂~▲3二角の筋を狙うのが一般的だと思います。
 ▲3八飛の前に▲6八金直を入れた場合、四間飛車は△5四歩か△6四歩ですが、△5四歩の場合は▲3一角と打つ手もあります。


2.△4三銀の場合
鷺宮定跡・△4三銀

 鷺宮定跡・・・と言われて一般によく知れ渡っているのはこちらの△4三銀と上がるほうでしょうか。△4五歩とは違い、飛車の捌きに重点を置いています。

 居飛車は、▲3五歩△同歩▲4六銀(左図)と出て角頭を狙います。居飛車の▲6八金直の有無と、振り飛車の△5四歩・△6四歩・△1二香の組み合わせ方によって形勢が変わる複雑な形です。

参考棋譜 : 鷺宮定跡・△4五歩対策だと



<えばぁの見方>

 基本図から△5四歩に対しては山田定跡・端角。「急所を突いている」感じがするのが好きです。
 △6四歩・△1二香には鷺宮定跡がいいと思いますが、山田定跡と鷺宮定跡両方覚えるのめんどくさい!と言う人はどっちかに絞ってもかまわないと思います。
 ただし△1二香型に山田定跡は厳密には少しつらいのかも・・・。

 ただ、「相手の形を見て手を変える」というのは居飛車のみならず将棋の基本中の基本だと思うので、端角くらいは山田定跡も勉強しておいたほうがいいと思います。


ちなみに・・・

 えばぁは「四間飛車」という戦法を意識したときには既に「△4三銀は絶対に上がるものだ」と思っていました。なので今思うと、Yahooで指し始めたころはずいぶん▲4五歩早仕掛けを食らっていたんじゃないかと思います。
 で、なんだかわからないうちに角交換になり、▲3一角と打たれてたりと。

 最近ではちゃんと意識した上で△4三銀と上がっています。藤井システム△4三銀型を採用していると言うのが一番大きい理由です。
 なので△3二銀で待機することはなく、山田定跡も鷺宮定跡も、さわりしかわからないと言うのが現状です。△3二銀のほうが急戦に強いとは思いますけども。

 ですが、最近の本家・藤井は左銀待機型、しかも3一で待機して序盤を進めます。
 △4三銀型は「早仕掛けと5七銀右急戦(後述)でつらい」と思っているようです。
 早仕掛けも5七銀右急戦も、「プロレベルで微妙につらい」という感じだと思うのでえばぁもまだ△4三銀型ですが、今後止めを刺すような変化が出ないことを祈るばかりです。

 もしそんなことになれば、三間飛車に完全転向か・・・。

 なにはともあれ、この「△3二銀か△4三銀か」と言う問題は全てその人の「居飛車穴熊対策」によって決まります。
 「自分は急戦しかしないよ」と言う人がいても、それを四間飛車側の人間が知っているはずもないので、居飛車穴熊の可能性を考えて指していることがほとんどでしょう。(序盤考える人は、ですよ)
 それを見越した上で、急戦にしたり持久戦にしたりと相手を翻弄(?)することができるのが、居飛車の醍醐味だと思います。




棒銀


 棒銀と言えば、加藤一二三九段です。(1239段ではない)
 最近では王座に挑戦した渡辺明六段も棒銀使いとして知られています。

棒銀

棒銀

 四間飛車が△3二銀型だろうが△4三銀型だろうが関係なく攻撃態勢を取れるのが、棒銀です。
 また、相手が中飛車(ツノ銀)だろうが三間飛車だろうが、果てには向かい飛車だったとしても棒銀は使えます。
 これ一本で全ての振り飛車に対応できるのが棒銀の魅力です。

 ただし、あまりに使いすぎると次から棒銀決め打ちされてしまう(棒銀しかやらないと思われ、対策をきっちりされてしまう)場合があるのでご注意ください。


 目標は斜め棒銀と同じように「▲3五銀から▲2四歩」です。
 もちろん簡単にそれが成立するわけがなく、斜め棒銀のところで書いたように「▲3五銀と出たい居飛車VS▲3五銀と出させたくない振り飛車」の戦いになります。

 斜め棒銀との違いは、「4筋の歩を絡めて攻めることができる」点です。
 (斜め棒銀は4六に銀がいるため4筋の歩は突けない)
 その代わり、2六に銀が残ってしまわないよう注意しなければなりません。
 2六に銀が残ったまま互角の捌きになれば、居飛車不利です。

参考棋譜 : 棒銀・△6五歩の対策



<えばぁの見方>

 前述したように、棒銀ひとつで全ての振り飛車に対応できます。
 戦法を絞るだけなら最も楽だと思います。

 が、2六の銀を捌かないと互角に戦えないため、指しなれないとうまく行かないと思います。
 「銀を捨てて捌く」という手もあるようですが、それこそ慣れない限り駒損が響いてやりづらいでしょう。




▲6八金直の是非

 上の基本図ではすべて「▲6八金直」を入れる前の図を見てもらっています。

 ▲6八金直のメリットは、「6七(と7七)の地点を補強する」と言うのがひとつです。
 6七は玉のこびん=舟囲いの急所でもあります。
 元々薄い舟囲いの、しかも急所を突かれて攻め合い負け・・・という状況を避けるため、序盤にわざわざ一手かけて補強しているというのがひとつの意味。
 他、この左金に玉以外のひもをつけているという意味もあります。ただし、▲5八金・▲6九金型で4八の銀を▲5九銀と引くとかなり堅くなる面もあり、一長一短です。

 ただし、一手かけているということは相手に一手指されてしまうということも考えないといけません。「6七を補強したメリット」と「相手が一手指したことで得たメリット」を比較する必要があるわけです。
 その一手で仕掛けが消されたりする場合もあれば、相手が疑問手を指して仕掛けが生まれる場合もあるわけです。

 ▲6八金直もいいことばかりではなく、悪い面もあります。
 相手に桂馬を持たれた場合、△8四桂と打たれてしまう筋があります。これは次に△7六桂と跳ねられると角金両取りです。この△8四桂~△7六桂は▲6八金直が入っていない場合でも嫌味な手なのに、それが両取りになってしまう。
 このことも考えないといけません。

 はっきり言ってこの▲6八金直は「ほとんど好み」としか言いようがありません。
 ですが、プロの最前線では「斜め棒銀をしたければ上がらない」ようです。(△1二香とされるとその後が甘くなる)

 えばぁとしては、「違いがわからないなら上がっておくのがいい」と思います。プロの対局では上がることが多く、定跡本でもだいたい上がっているというのもありますが(笑)

 このページでは居飛車先手番ですが、後手番だった場合は上がるべき(この場合は△4二金直)だと思います。
 先手番では素早い仕掛けを望むために上がらないことも考慮しますが、後手番の場合はいくら素早くしようとも一手遅いのだから、じゃあ上がってしまおうということです。
 上がることで一手「指させる」という見方です。多く指したほうが必ずしもよいとは限らないのが将棋の面白いところなのです。




急戦の現在


 △4三銀型に仕掛ける斜め棒銀・早仕掛け、△3二銀型に仕掛ける山田定跡・鷺宮定跡、相手の形など構わない棒銀と5つ見てきました。
 この5つは居飛車急戦としては基本的なものです。

 ですが、居飛車急戦の舟囲いVS美濃囲いでは美濃囲いのほうが断然に堅く、振り飛車に暴れられて受け損ない負けてしまうかもしれないという怖さは最後まで存在します。
 居飛車は細心の注意を払って逆転されないよう気を遣って指しますが、振り飛車は美濃囲いを作って捌きに徹するだけ(「だけ」はいいすぎですが)ですから。
 振り飛車が美濃囲いではなく穴熊になったりすると、これがより顕著になります。

 というわけで現在の対振り飛車の主流は居飛車穴熊なんです。
 居飛車穴熊であれば、組みさえすれば美濃囲いより堅く、堅さを生かした強気の戦いができるからです。

 なのですが、根強い急戦派も残っています。
 「自分で仕掛けることができる」と言う点において支持を集めているようです。
 (居飛車穴熊はだいたい振り飛車が先攻する)
 急戦党の気持ちを代弁したのは、振り飛車ワールド3巻における加藤一二三九段のインタビューでしょう。
 (これは「棒銀」だけを指してるのかもしれませんが(笑))

 「居飛車穴熊にすると藤井流(藤井システムのこと)をはじめとする急戦を相手にすることになる。そのまま攻められて負かされて何が楽しいんだ。」

 だそうです。
 急戦にはこういう意気込みが必要なんです。

 居飛車急戦第1弾はこの辺で打ち止めにして、次ページでは補足として「5七銀右戦法」と「右四間飛車」を取り上げていきたいと思います。
 5七銀右戦法・右四間飛車ともども、急戦だけではなく、場合によっては左美濃や居飛車穴熊に組んでいく持久戦も視野に入れた戦法です。

 いつUPできるかわかりませんが、出来たら見てみてください(笑)。


Home
Back