タクティカルモード。
それはDPにおけるサバイバルゲームだった。
そして今、そのゲームをしている2つのチームがあった。
『くそぉ、戦力が違いすぎる! 退却だぁ〜!!』
両陣営のフォートレスからちょうど中間地点。それが今の戦線であった。
だが、それは戦力が均衡しているからではなかった。
ゲーム開始直後、来瀬 甲斐(くるせ かい)率いる“ワールド・クルセイダーズ”
は相手フォートレスの目前にある前線基地からの開始であった。だが、相手のチームは
虎狩りで有名な“スカル・レイダース”を助っ人に頼んだのだ。虎狩りとは、獰猛な虎
を数の利を生かして倒すという意味から、ある程度の実力を持ったプレイヤーがグルー
プを組んで、Aランク以上のプレイヤーを狩る集団の事である。たとえSAランクの者
でも容易には撃退出来ず、初心者狩りより性質が悪い。
甲斐を含め、メンバーのほぼ全員が攻撃重視のカスタムだったのが裏目にでてしまい、
ワールド・クルセイダーズはたった20分でここまで追い返されてしまったのだ。
6機いた味方もすでに半分。相手はダメージを受けてはいるものの、まだ6機全機が
残っていた。
『残り時間は後少しだ! このベースだけは守り抜くぞ』
甲斐が残りの二人に発破を掛ける。
甲斐のVPを中心に3機のVPが三角形を描くようにフォーメーションを組み、攻撃に備える。
それを待っていたかのようにスカル・レイダースが攻撃を開始した。
BREAK−AGE外伝 サイドストーリー
「不敗神話?! 攻守の要は双子の姉弟」
「お願いします。あなたの力が必要なんです」
タクティカルコンバットでの大敗退から3日後の私立巽学院高等部学舎の屋上。
春の暖かな午後の日差しが包む中、甲斐は一人の女性に頭を下げていた。
遠目から見れば告白しているように見えなくも無いが、当人達にはそんな気は毛頭無い。
「ふ〜ん、あたしらが卒業してから弱くなったってのは本当らしいねぇ」
女性は責めるような口調で呟いた。彼女の名前は伽那女 護(かなめ ゆずり)。
巽学院大学の3回生で、3年前までサバイバルゲーム愛好会の会長であった。現在の会長は
甲斐が務めている。
「ですが、今回はあいつらが助っ人を……」
「シャラーップ!! 相手が誰であろうと倒す! あたしらはそうしてきたよ!」
その一言で甲斐は黙らざるをえなかった。確かに護が会長をしていた時は、1敗もしていない。
不敗神話と言われ、他エリアからも一目置かれる存在であった。だが、3年生が抜けると神話はガラ
ガラと派手な音をたてて崩れ、勝率も五分五分となってしまっていた。甲斐が会長になってからは負
けが込んでいた。
「自分らでなんとかしようとか思わないわけ?!」
甲斐はハッとする。そう言われると、今まで自分達の弱さを否定して、逃げていたような気がする。
「そうですよね。僕たちの責任なのに先輩に頼ろうとしてたなんて、すみませんでした。これは僕たちだけで解決します!」
護に言われて、悟った甲斐が礼を言って帰ろうとした瞬間、
「あ〜ら? 誰も手助けしないなんて言った憶えはないわよ? それにそこまでコケにされたらあたしとしても黙っちゃいられないね」
護が不敵な笑みを浮かべながら言った。
「それで次のゲームはいつだい?」
「あ、はい。2週間後の第4土曜日、1時からです」
「わかった。場所は正馬店でいいんだね?」
「はい」
*
「で、なぜ俺までここにいな、アカンのや?」
伽那女 功(いさお)は隣にいる双子の姉・護に問い掛ける。
ゲーム前日、なぜか彼は急遽、大阪から呼び戻されたのだ。中途半端に大阪弁なのは、
大学で直に大阪弁を聞いて影響を受けたからである。
「あんたがいなきゃ、このVPを動かせないんだから!」
護はそう言うと、ディスクを1枚投げ渡した。
そのディスク内には護の作ったサバゲー愛好会史上最強と言われたVPが入っている。
だが、復座でしかもパイロット同士の息が合ってないと機能の全てを発揮できないという欠点がある。
双子である護と功だから扱える代物であった。
「それでは伽那女先輩。よろしくお願いします」
甲斐が声を掛けてきた。時間はまもなく1時。正馬店からエントリーするのは、彼ら3人だけだった。
他のメンバーと相手チームは筐体を独占できない関係上、他店からエントリーしている。
「さ、暴れるよ!」
「へ〜い」
双子の姉の方は嬉々として、弟の方は面倒くさそうに筐体へと向かっていった。
不敗神話が再びその幕を上げた。
*
フォートレス後方からの出撃だった伽那女姉弟のVP“グラン=スター”はフォートレスの前に
陣取って、敵が来るのを待ち構えていた。
こちらの戦力が当てにならないので、甲斐達には、敵をこちらにおびき寄せろという命令を出している。
5分もしないうちに味方のVPをレーダーが捉えた。
「なぁ、ゆずりぃ〜。うちのやつら弱すぎやでぇ」
「そっ。だからあたしらの力を存分に知らしめられるの! ほら、そろそろ行くよ!」
その言葉が終わるか終わらないうちに甲斐からの通信が入った。
『先輩! 全機おびき寄せてきました!!』
甲斐のVP以外姿が見えない。その姿もぼろぼろで、ここまでおびき寄せるだけで相当苦労したの
が目に見えて分かった。
『了解。んじゃ、ここで休んでて!』
護はそう答えるとグラン=スターを前進させた。キャタピラのついた4本足でゆっくりと進む。
「功、5つしか反応がないよ」
索敵担当の護からの通信。直後、
ちゅどーん
遥か右方で爆発。
「やっぱり別働隊がおったか……」
どうやらグラン=スターが待っている間に仕掛けておいた地雷を、右方から回り込んでいた敵機が
踏んだらしいということが甲斐にも分かった。そして自分達が全機を一個所におびき寄せることが出来
ないと、護達が読んでいたことも分かってしまった。
「さて、残りもやっちゃいましょうか! Bモード始動!!」
護のその言葉を合図に功がキーを操作すると、グラン=スターは両手に持っている対艦バスター
ライフルを構える。同時に足先から生えた爪で大地に固定される。関節はロックされ、前面モニター
は望遠カメラの映像に切り替わる。
「照準合わせ……良し。功、トリガーはそっちに任せるわ」
「オッケーや! 早速、お見舞いしたらぁ!!」
その言葉通り、早速バスターライフルが白い閃光を放つ。唸りを上げながら空を貫き、大地を穿つ。
「なんや? 当たらんかったぞ!?」
「横風が強いわ。17度左にずらして……今度はいいはず」
「おっしゃ!」
2発目の閃光が今度は狙い違わず、敵部隊へと突き進んだ。1機の頭部を貫く。更に3発目の
閃光がその胸部を貫いた。残りの4機は2発目で散開していたおかげで被害は無い。
「敵が近い。Bモード解除、Mモードに移行!」
護の言葉に反応して功がキー操作をする。
グラン=スターは足を固定していた爪を引っ込め、関節の固定も解除する。バスターライフル
を背中で固定すると、腰の横についていたマシンガンを手にする。キャタピラが高速回転し、一気に
相手との間合いを詰める。肩に乗ったミサイルを撃ちながら、マシンガンを乱射する。底部にある
チェーンガンも火を噴く。
突然、相手の1機が視界から消える。直後、
ちゅど〜ん
敵機が消えた場所から爆発が起こる。
「ゆ、ゆずりぃ〜。おめぇ、俺の知らんうちにまた落とし穴の下に地雷仕掛けよったな!」
「あはは、それはおちゃめな女心というやつで……」
『どんな女心じゃぁ!!』
二人の会話を聞いていたリーダーらしきドクロ顔のVPのパイロットが叫んだ。甲斐もついつ
い同調して肯いてしまう。
左右には地雷をばら撒き、前方には落とし穴。彼女が会長の時に負けが無かった理由がなんとなく
分かった。
いつのまにか敵機は2機にまで減っていた。
「さて、後はあたしに任せて、功はフォートレスを落としてきな」
その言葉の裏には、自分の楽しみを奪うなという言葉が隠されているということは双子である
功にしか分からないことだった。
「へいへい、しょうがあらへんなぁ。Uモード、シューティング・スター!」
グラン=スターの胸から上がはずれ、顔が胸部に埋まり、腕と背中のバスターライフルが下部
へまわる。背中に大型バーニアがあらわれ、左右から羽が出てくる。一瞬にして戦闘機・シューティング
=スターにその姿を変えた。
そして下半身は前足だけで立ち、後足だった部分が腕に変わり、2足歩行のVP・モーニング=スター
に変形する。右手にはマシンガン、左手の甲にはドリルがついていた。左肩にはチェーンガンが乗っていた。
「んじゃ、ちょっくら行ってくっぜ!」
シューティング=スターが加速を始める。
『いかせるなっ!』
モーニング=スターと対峙しながらドクロ顔のパイロットが命令し、その手下がシューティング=
スターを撃ち落とそうと片膝をつき、肩のキャノンを構える。
「ジャマや!!」
キャノンが放たれるより先に、バスターライフルの白光がそのVPを包んだ。
「コラー! あたしの楽しみを奪うんじゃなーい!!」
「そう思うんやったら、しっかり援護せんか〜い!」
そんな会話をしているうちにシューティング=スターの姿は空の彼方へ消え失せていた。
『くそが! 向こうがフォートレスを落とす前に、お前等を倒してこっちが先にフォートレスを落としてやる!!』
《ドクロ顔》が特攻にも似た突進をかける。
「功がフォートレスを落とすまでの時間、たっぷり楽しませて貰うからね!」
楽しむのはバトロイでやってくれ、と横から聞いていて、心の中で呟く甲斐であった。
《ドクロ顔》がハンドガンを撃つ。それを横にかわしながらモーニング=スターはチェーンガンで応射
する。回り込むように動き《ドクロ顔》の次の攻撃に対するためにマシンガンを構える。が、
『道を譲ってくれてありがとよ!!』
《ドクロ顔》は先程の言葉とは裏腹。フォートレス目指して疾走した。
「あったまきたー!! あたしを怒らせたこと、後悔させてあげる!!」
モーニング=スターは左腕を前にかざし、《ドクロ顔》に狙いをつける。
「いっけぇぇぇぇぇ!!!!」
ドリルの後部が火を噴き、そして撃ち出される。ドリルが左足を直撃し、穴を空ける。
「Dモード、発動!!」
護がキーを叩く。DESTROYと。
突然、モーニング=スターの肘から先の装甲が弾け飛び、剣が姿を現す。
這ってでも前へ進もうと足掻いている《ドクロ顔》に向かって飛ぶと、その胸に剣を突き刺そうと構えた。
*
その頃、シューティング=スターはフォートレスの真上に来ていた。
「こいつで終わりじゃぁ〜!!」
空中で滞空しながらバスターライフルを撃ち放つ。
フォートレスが振動する。だが、その攻撃力の割にはフォートレスの被害は小さい。
「ちっ、空中攻撃に対してはマスターシステム側からバリアが張られてるんやったな。Pモード!」
シューティング=スターの下部にある腕が下り、脚へと変形する。ガ○ォークを
連想させるその姿だが、今このゲームをしている中でその元ネタを知っているものはいないだろう。
脚で大地を踏み締めて、バスターライフルの反動で吹っ飛ばないように固定する。
「今度こそやったる!!」
トリガーを引き絞る。次の瞬間、画面はホワイトアウトした。
WINNERS are TEAM WORLD・CRUSADERS
地軍フォートレス前から、たった1ゲーム、それも20分で勝負の着いたタクティカルモード
最速記録がここに達成された。
力押しがメインで戦術がデタラメな相手だったからこそ可能だった記録である。しかし唯一人、
それを素直に喜べない人物がいた。
「きーっ、くやしいぃー!! あんたが後少し攻撃を遅くすれば倒せたのにぃ〜!!」
護が功の頬を両方から引っ張る。
「おへにやちゅあたひすな〜!」
結局、Dモードとなったモーニング=スターが飛び上がり、最高点に達したところでゲームは終了。
怒りの行き場を失い、弟に八つ当たりするしかなかったのである。功としてはいい迷惑であった。
*
というわけで護先輩と功先輩に助けられ、今回は勝利を得た。しかも最速記録というおまけつきで。
不敗神話は未だ健在でその強さは半端ではない。
しかし今回の戦闘で我々は今後の指針となるであろう戦略を知った。これで我々第12期サバイバルゲ
ーム愛好会は安泰であろう。
――サバイバルゲーム愛好会戦闘ログより――
――ミッションコンプリート
あとがき
どうも、龍神雷です
今回は呉羽店出張版ということで完全オリジナルです。舞台設定はおいらの今までのものと一緒、
時間設定も「セカンド エイジス」の第2話(いや3話かな?)と一緒なので“完全”じゃ無いですね(^^;
今回の話はもともと「セカンド エイジス」用に考えていたネタだったため、執筆は早かったです。
大筋は1時間ほどで書けたけど、その後の修正や調整に時間が掛かってます。(それでも実質4時間ほど)
しかも強引にまとめてるし……(^^;
最新バージョンのヴァルガーの話にしようか迷ったのですが、向こうはかなりの長さになるので、
こちらにさせてもらいました。あっちの方は近々本編の方に出没するでしょう。
それでは最後にキャラクター&VP設定を掲載しておきます
伽那女 護(かなめ ゆずり)
10/23生まれ 20歳
男勝りの性格で意外と自己中心的。自らの目的のためには手段を選ばない。
伽那女 功(かなめ いさお)
10/23生まれ 20歳
護の双子の弟。何事も徹底的にやらないと済まない性格。
大阪弁に感動して大阪弁を喋るようになったエセ大阪人。よく周りから「やめろ」と言われる(笑)
来瀬 甲斐(くるせ かい)
12/03生まれ 17歳
礼儀正しい好青年。しかしストレスが溜まってくるとだんだん口が悪くなっていく。
GRAND=STAR(グラン=スター)
伽那女姉弟の操る最強最悪(?)の復座VP。様々なモードでどのような戦局にも対応できるのが特徴。
功が武器統制担当、護が移動・索敵担当。
・Bモード: | BUSTER。バスターライフル狙撃モード。出力リミッターを解放し最大出力でバスターライフルを撃てる。砲台としては最強であるが、対ショックのために各関節をロックしているのでその場を動けないのが欠点 |
・Mモード: | MAIN。通常攻撃モード。主要武装は肩のミサイル、マシンガン、チェーンガン、腰の後ろに地雷を収めたボックスがある。中距離で最大威力を発揮する。が、パイロットが無闇に乱射するためすぐ弾切れになる。 |
・Uモード: | UNIT。VU形態モード。上半身からなるシューティング=スターと下半身からなるモーニング=スターに変形。SSはバスターライフルを装備した戦闘機形態、MSはチェーンガンを主砲とした戦車形態。 |
・Pモード: | PUPPET。VP形態モード。SS、MSがそれぞれ2足歩行形態へと変形する。SSは戦闘機の下部から手足が出たガ○ォーク形態でバスターライフルしか武装無し、MSは完全人型バト○イド形態で右手にマシンガン、左肩にチェーンガンを装備し、左腕にはどこから出てきたのか射出式ドリルがついている。ちなみにこのドリルで落とし穴を作っている。 |
・Dモード: | DESTROY。完全破壊モード。ブースターをオーバーロードさせて一時的に出力を上昇させる。その際、刃物系統の隠し武器が姿を現す。だが、3分しか使用できず、限界時間が過ぎると自爆する。 |
御意見、御感想、批判など、何でも承ります。
valgar@athena.dricas.comまで
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