ブレイクエイジ外伝の外伝
 - 幸せってなんだろう? -



 「つきあってください。オレがこのバトロイに勝ったら」

 この台詞は私の台詞じゃない。すぐ近くにいる中高学生くらいの少年が言ったものだ。  もちろん、私に言ったわけではない。
 まぁ、言うならば、DPが普及して以来、よく使われるようになった告白のシチュエーション ってヤツだ。告白されたほうも、びっくりしているようだが、経験からいくとまんざらではな いといったところか。まったく、職業柄ってやつかな・・・

 私は杉山梅林。ここ、コニーパレス・アメ村店の近くで鍼灸院を営んでいる。
 夕方の診察が始まるまでの時間をここで過ごすのは、もはや私の日課となっている、が、 妻には極力ばれてはいけない。理由はまぁ、人それぞれといったとこだろうか。
 カウンターでコーヒーを注文し、メインスクリーンのよく見えるテーブルへと着く。
 しばらくするとバイトオペレーターのハルちゃんがコーヒーを運んできてくれた。
 これは言うならばロシアンルーレットだ。私は祈りを込めて1口飲む。
 ほのかに広がる心地よい苦味に私は安堵した。そして一言。
 「美味い」
 今日はいい日だ。ブラウン店長の煎れたコーヒーだ。
 「これ、店長が煎れたコーヒーだね?」
 「よく、わかりますねセンセ。アタシのコーヒーと大差ないのに」
 本気で言っているのかな、ソレ・・・私は「はははは・・・・」とお茶を濁すだけにしておいた。
 いつかきっと、現れてくれるに違いない。彼女に真実を語ることのできる人間が。
 とりあえず、私にできることは、その人物には無料で診察してあげることくらいだ・・・
 「今日はバトロイには出ないんですか?」
 「そのつもりだったんだけどね。ほらアレ」
 と言って、さっきの少年の方を指差す。
 「私が出撃したら、せっかくの告白がお流れだ」
 しかし、彼女は意地悪そうに、
 「そ〜ゆ〜のを粉々にするのが面白いんじゃないですか♪ はい♪ 杉山センセ出撃登録、と♪」
 携帯している端末で有無を言わせずに登録する。
 「オニか、キミわ・・・」
 「あ〜ゆ〜若モンは人生の苦味ってヤツを教えてあげないと♪ アタシがOFFなら間違いなく真っ先 に全損にしますよ♪」
 ある意味、彼女がここの店員なのは幸運なのかもしれない・・・
 「え〜と、あの御ガキのデータはっと・・・おおすごい! Bランクだけど、ここ最近のプレイ時間が 50hもいってる〜 ふふふ、今日のために特訓したんだねぇ〜ボウヤ♪」
 「キミにわ、プライバシーの尊重って言葉はないんだね・・・」
 「あ、センセ。手ぇ抜いたら奥さんにチクりますよ♪ うら若い店員さん目当てにコニパ通いしてるって♪」
 「とほほ・・・」
 そんなわけで、私は他人の恋路をじゃまするイイ大人として出撃することになってしまったのだった・・・


THE DANGER PLANETS W
3rd BATTLEROYAL
IN AMEMURA

[登録確認 066-SA0023]
[本日のフィールドはαケンタウリ系]
[第4惑星 ゴーストシティエリア]
[重力1.2G、地雷源なし 快晴]
[制限時間は30分です]
[Good Luck]


 「ったく、えらい時に来てしまったな・・・」
 『はいソコ!ムダ口たたかない!』
呟いた瞬間に外部通信が入る。誰からかは言うまでもないだろう・・・
 「了解・・・」
 とりあえず、あの少年の乗っているボルゾイ以外を片付けよう。
 私は王虎をVPの集結しつつあるエリアへと移動させた。

 瓦礫だらけの滅びた街並。ところどころ風化したビルの乱雑するオフィス街といったところだろうか。
 レーダーの具合では、もう、あちこちで戦闘が開始されているようだ。
 「ん? 挙動不信な2機がいるな・・・」
 さっきからVPが密集している周囲を旋回している連中がいる。
 「どっかで見たようなパターンなんだが・・・まさかね・・・」
 不安を拭い去ろうとした瞬間だった。
 一斉に起きる小爆発。
 「100箇所以上の爆発反応だと!?」
 廃ビルが無数の瓦礫と化して密集していたVPに襲い掛かる!
 運悪く圧し潰されたVPの結構いるようだ。
 「こ、このC4爆弾の使い方わ・・・」
 王虎に気がついてないはずがない。そろそろ挨拶にくるはずだ。
 1機、急速接近! 私は即座に回避行動を取る!

 ドンッ

 今までいた場所に砲弾が炸裂する!
 舞い上がる土煙。
 そして着弾点から煙を払って出てきたのは言うまでもない、
 「ブラウン店長」
 「や、やぁセンセ」
 と、店長の駆るギルガメッシュがぎこちなさそうに手を振った。
 「てことはやっぱり?」
 「だれだって、幸せは放棄したくないさ・・・」
 恐らくは、コックピット内では遠い目をしているに違いない・・・
 「・・・お察ししますよ・・・」
 「ははははは・・・」
 もはや彼の口からは潤った笑いはでないだろう・・・
 「しっかしBランク相手にSAランクを2人も導入するとは・・・」
 「いや、ぢつわ・・・」

 リンッ

 店長が言い終わる前に、生き残っていた少年を除く残り4機のVPが倒される。
 無残にもたったの一閃で・・・
 炎上するVPに映し出される浪人を思わせるシルエット。すこし遠慮がちに通信が入った。
 「・・・ど、ど〜も〜・・・」
 「・・・・・・夏樹さん・・・あんたもですかい・・・」
 「ははははは・・・幸せは1つ失うと辛いですから」
 不毛だ・・・悲しすぎる戦いだ。
 『さ〜て、それじゃアタシは彼女を見て来るんで、あとヨロシク♪』
 ハルちゃんの通信で、少年の結末はもう決まったような気がする・・・
 「さて」
 と、ブラウン店長。
 「それじゃあ、ね・・・」
 夏樹さんも覚悟を決めたようだ。
 「倒すしかない、か・・・」
 私たち3機は不幸な少年の駆るボルゾイに前進を開始したのだった。


 そのころ、ハルは問題の彼女へと近づいていた。
 「ねぇ、アナタ?」
 と、と〜とつに声をかける。
 「あのボルゾイに乗ってる子のトモダチでしょ?」
 「あ、はい。そうですけど・・・?」
 戸惑う少女に速攻で本題を切り出す。
 「さっき、告白されてたよね?」
 「え!? ええ、まぁ・・・」
 「勝ったら、OKしてあげるの?」
 ずかずかとプライバシーに割り込むハル。
 「・・・・・・やくそく、ですから・・・」
 「ふ〜〜ん。じゃあ、負けたらフルわけだ?」
 「・・・・・・」
 無言でいる少女にハルは続ける。
 「ま、絶対に彼は勝てないけどね」
 「え?」
 少女の困った顔がさらに強張る。
 「今、彼とやりあってるの、3機ともSAランクだからね。実力が違いすぎるのよ?」
 「・・・・・・そう、ですか・・・」
 「ん? 嫌いなわけ? 彼のこと」
 ハルの問いに少女は首を横に振る。
 「そんなことないです。ずっと・・・トモダチ、でしたし・・・嫌いじゃ、ないです・・・」
 「でも付き合うってのは、よく分からないってヤツね?」
 「・・・はい。イキナリでしたし・・・どうしてもっと、普通に言ってくれないんだろう・・・」
 少女は困った顔のまま、はにかんでみせる。
 「男ってのは、まったく・・・バカだからねぇ・・・女はなんかの賞品かいってね?」
 大げさな身振りでハルはシートにもたれ込む。
 「・・・ほんと・・・そうですね」
 ようやく笑った少女は、なにかが吹っ切れたようだった。
 「OK♪ じゃあ、せめてコンジョーあるとこぐらいは見せてもらいましょうか♪ 青少年♪」
 言ってハルはオペレーター用のヘッドフォンを少女に手渡した。


 「さ〜て、そろそろ、トドメといきましょうか♪」
 なんだかんだ言って、のってきているな店長さん・・・
 所詮はBランク、やはり実力の差は埋まりようがなく、しかも1対3ではもはや嬲られているだけだ。
 致命的な損傷はどこにも与えていないが、少年は並んで前に立ちふさがっている我々に、どう攻めればいいか考えあぐねているようだ。
 私は少年に通信回線を開く。
 「悪いが、そろそろトドメをささせてもらうよ」
 「くっ・・・」
 「あと、老婆心ながらアドバイスしておくと、女性にああいう告白はしないほうがいい」
 「なっ・・・!?」
 「そうそう」
 と、夏樹氏。
 「この人なんて、奥さんにね」
 プチンッ
 「だまらっしゃい!」
 いらんことを言おうとした、ギルガメッシュと蒼龍にショートスピアとパイルバンカーのツッコミをくらわせた!

 ちゅど〜〜〜〜んっ ×2!

 不意打ち覿面。2機とも仲良く全損となった。
 「ああ! しまった!」
 ちょっと、マジつっこみしすぎたかなと反省する。
 で、あらためて少年を見る・・・と、スクリーンに大きく迫るバズーカー砲が・・・

 ちゅど〜〜〜〜んっ!


[YOU LOSE]
[WINNER]
[Kenichi AND Sin−Graph]


 「・・・・・・」
 無言のハル・・・
 「・・・・・・」
 なんて言ったらいいのかわからない少女・・・
 「こ、コンジョー、見せたのかな・・・」
 「・・・え、と・・・」
 「と、とりあえず、ナイスガッツってことで・・・それじゃ、アタシは仕事があるから♪」
 とりあえず、まくしたくってこの場を去るハルであった。
 「ま、こ〜ゆ〜のもアリでしょ・・・」
 無様だった3人のお仕置きはどうしてやろうかと、もう帰ってきているであろう、スタッフルーム  のドアを勢いよく開け放った。
 「あ、ハルちゃん。いいところに来たね」
 夏樹さんが笑顔で迎える。
 「あれ? 杉山センセは?」
 「あ〜、逃げるようにして帰ったよ。あの人わ」
 と、てんちょ。
 「今ね、センセが奥さんにプロポーズしたときの話をしてたんだよ」
 おしおき、と思いながらも、そ〜ゆ〜話に興味がいくのは仕方がないでしょ。
 「どんな話なの?」
 「実はセンセもあの少年と同じように言ってね・・・」
 なつかしそ〜に言ってるけど、てんちょ、あんた何歳だ?
 「へぇ〜 で、うまくいったんだ?」
 「いやいや、言った瞬間にどつきまわされた」
 「げ・・・」
 あの奥さんって、そ〜ゆ〜人だったんだ・・・
 「『人を賞品だか景品だかといっしょにするな』ってね」
 「なるほど、よくわかるわ、その気持ち」
 どつきまわしたくなる気持ち、の方だけど・・・
 「じゃあ、どうやって、うまくいったの?」
 「いや、それがね『迷惑かけさせてくれ』って言ったんだよ」
 「ロマンチックじゃないだろ?」
 ふ、夏樹さん。わかってないわね・・・
 「そしたら・・・」
 「ストォ〜〜〜ップ」
 てんちょが先を言うのを制止して
 「そこから先はわかるわ。1発キツイのくらわせて『よくできました』でしょ♪?」
 「へ〜 よくわかったねぇ〜」
 驚いている2人にハルは、あっさりと言い放った。
 「そりゃそ〜よ。あたしだってそうするもの♪」


 1日の仕事が終わり、我が家へと帰宅する。
 いつもよりも患者さんの数が多くて、遅くなってしまった。
 「もう、娘は寝ているだろうな・・・」
 少し寂しいものを感じながら、私は玄関のドアを開けた。
 「ただいま〜」
 しかし、返事は返ってこなかった。
 娘の部屋へと行ってみる。
 「あ・・・」
 どうやら、本を読んであげているあいだに寝てしまったらしい。私は毛布を取り出し、娘に添い寝して いる妻にかけてやった。
 娘を見る。幸せそうな寝顔だ。
 妻もそうだ。
 私はベッドに座って妻の髪をなでた。
 「今日はキミにプロポーズしたときのことを思い出したよ」
 「あれは、痛かったなぁ〜」
 「でも・・・キミはうれしそうだったね・・・」
 私もうれしかったよ・・・
 声に出さずに呟いた。


 で、閉店間際のアメ村店。
 しくしくしくしく
 「あんなにキレイなのに・・・」
 しくしくしくしく
 「料理もうまいのに・・・」
 これを漢泣きと言わずして、なんと言うだろう・・・
 「「ハル(ちゃん)といっしょなんてぇぇぇ〜〜〜」」
 しくしくしくしく・・・
 「ちょっと〜〜〜2人とも仕事、しごとぉぉぉぉ〜〜〜!!」
 ハルの怒声も今日は空に舞うばかりであった。


外伝の外伝
 「幸せってなんだろう?」 完


 あとがき

 というわけで、人様のHPにもズカズカと進出かましてみました、3文小説家(自称)です。
 今回の話は下手すりゃブレイクエイジという作品に喧嘩売ってるカモ・・・などと、ちょ〜〜っと、 心配しまくっている今日このごろですが、あえて本編とは違う反応にしてみました。
 しかっし、めっちゃノロケかましましたけど、これOKですか梅安さん?

 梅安:「OKです!(^^)」

 アメ村店の小説を読んでくださっている方はご存知でしょうが、杉山センセはウチの小説で活躍 している梅安さんのキャラです♪
 その他のキャラとかについては、ぜひウチ( コニーパレスアメ村店)でご一読を♪(宣伝)

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