ヤマブドウの葉の上に赤い実のようなものが付いていました。
これは、虫えい(虫こぶ)の一種です。ブドウトックリタマバエの幼虫がブドウの葉に寄生してできます。寄生される植物名と部位及び形状から、虫えいには名前がつけられています。この虫えいはヤマブドウハトックリフシと呼ばれています。「日本原色虫えい図鑑 」の表紙にも使われている有名な虫えいなのでした。ちなみにこの図鑑は高額で、14700円もします。
この虫えいが成熟すると全体が赤くなり、特に頂部は赤紫色になります。緑色の葉に赤い虫えいは大変目立ちます。
虫えい内部の構造はどうなっているのでしょうか。
内部の構造を調べるために、虫えいを取り外し縦半分に割ってみました。すると、円筒形の部屋が縦に伸びており、ブドウトックリタマバエの黄色っぽい幼虫(うじ)が1匹見られました(白色矢印)。虫えいの意義は、オトシブミの「ゆりかご」と同じです。すなわち、幼虫を外敵や乾燥から守り、えさを供給しています。
「こんな奇妙な物を上手に作るなぁ」と感心させられます。一体どのように作るのでしょうか。
虫えい自体は植物由来です。タマバエが寄生することで刺激を受けた植物が異常増殖する、ということは想像できますが、詳細なメカニズムについては調べられていないようです。幼虫が植物ホルモン様の化学物質を出しているのかもしれません。また、「目立つ赤色」にはどんな意味があるかも不明です。鳥が実と間違って食べてくれるように、とブドウ側の防衛手段として色づいているのでしょうか。それとも、虫側が、なんらかの利益のために発色に関係しているのでしょうか。
他の植物にできる虫えいで有名なものがあります。ヌルデにできる虫えいは五倍子と呼ばれています。タンニンを多く含むので、収斂作用のある生薬や染料として使われてきました。
タンニンは植物側が出す生体防御物質のひとつでもあります。虫(この場合アブラムシの仲間)に寄生されるとタンニンを多く貯めて対抗しようとします。タンニン耐性のそのアブラムシは忌避しませんが、他の敵は遠ざけらてしまいます。その結果そのアブラムシは、植物を食べる外敵にも邪魔されない強力なシールドを得ることになるものと考えられます。