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失敗する風景写真:イメージと大きくかけ離れてしまうわけとは

 車坂峠近くでカラマツの黄葉と雲海を撮りました。しかし、カラマツの色が暗く、くすんでしまっています。心に残った風景はこんな色ではありませんでした。一体どうして心に残った風景と食い違ってしまうのでしょうか。

 まず、人はどの様に風景を見るのかを考えてみます。人の目は、カラマツを注視したときと雲海を注視したときで無意識に瞳孔の大きさを変えて露出を調節します。そして適正露出になったカラマツと雲海のそれぞれの画像を、脳が組み合わせてひとつの風景としてイメージにするのです。一方、写真では一枚につき露出が一つしか設定できないので、雲海に露出を合わせるとカラマツが暗くなり、カラマツに露出を合わせると雲海が白く飛んでしまうことになります。この違いから、風景写真は往々にしてイメージ通りに撮れないということになるのです。

 PLフィルターやハーフNDフィルターを使って露出差を小さくする方法もありますが、この雲海のフレーミングではプロが撮ったとしてもイメージ通りに撮ることはできません。ではプロはどうするかというと、このフレーミングは最初から諦めて撮影をしないのです。

 

 ここでひとつ考えてみたいことがあります。デジタル化が進み、画像処理ソフトの機能も充実しているというのに、なぜ、露出が合わないからと言って感動したフレーミングを諦めなければならないのでしょうか。画像処理ソフトでイメージに近づけることができるのなら利用したらよいと思います。今まで「露出のタブー」によって誰にも伝えられなかったフレーミングが、左のように露出を調整することで作品にできるのなら、そのほうが見る人に対して親切だと思うのです。
 他にも「注視した風景を組み合わせて一つのイメージに作りあげる」という脳の機能を感じさせられる事があります。ドライブしていると、良い風景を目にすることがあります。しかし、車から降りて写真を撮ろうと思っても、木や建物が邪魔になってどこにも撮影位置が無いのです。これは、動いている車の中から見えた細切れの景色を再編成し一つのイメージにする脳のはたらきによるものです。注視した景色だけが再編成され邪魔な物は組み込まれないために素晴らしいイメージになるのですが、実際は余計な物が存在しているためにイメージとかけ離れていることも多いものです。