5月から6月にかけて林の中を歩いていると地面に左の写真のような葉の筒が落ちているのを目にすることがあります。これは一体何でしょうか。実は、オトシブミという甲虫が作った「ゆりかご」で、この筒の中に卵が一個産み付けられています。これほど美しく巻き上げるのは難しいものです。実に器用な昆虫といえますし、こんな複雑な作業が脳も未発達で力も弱々しい小さな虫によくできるなぁと驚かされます。
どのように巻かれてあるのか開きながら調べてみることにしました。まず、巻いた筒が開かないようにする上で大切なのは、巻き終わりの処置です。巻いたときに内側になっている面(葉の表側:緑色の濃い方)を写真のように反転させることによってしっかりと留まり、筒が自然に開いてしまうのを防いでいます。この作業は、人が行っても難しいものです。
その留められた反転をほどいて少し開いたところです。葉の主脈と反対の側(葉のふち側)もきれいに折り込まれて巻かれていることがわかります。
完全に開いてみると、葉身がきれいに二つに折られているのではなく少しずれています。反対側を見てみると、葉の主脈に一定の間隔をとりながら傷が付けられているのが観察できます。これは、オトシブミがつけた噛み傷です。こうすることで、しおれさせて葉にしなやかさを出し、折れぐせを付けて巻きやすくしています。葉のふちの側にも噛んだような跡があります。巻く作業の前に準備を怠りなくすることが大切のようです。
二つ折りになった葉身を開いてみると、巻き始めの部分に1mm強の黄色い卵が一個産み付けられてありました。ここで、巻き戻して林の中にそっと返しておきました。実際に作業をしてみて、最後の留めのための反転が難しく「ゆるゆる」のゆりかごになってしまい、うまく巻き戻せませんでした。
巻く方向については右巻き、左巻き両方あるそうです。昆虫写真家の海野和男氏によるとどうやら、葉身の左側から切り始めるか、右側から切り始めるかで巻き方が変わるらしいです。それぞれの個体で巻き方が決まっているのか、ゆりかごを作るときに偶然に方向が決まるのかは調べられてないようです。
たった一個の卵のためにこれほど大変な作業をしているのは何故でしょうか。卵の一個一個にそれぞれ丁寧にゆりかごを作ることで、少数の卵でも命を落とさず成虫になれるように確実性を高めているといえます。ゆりかごは生まれてきた幼虫のエサであり、外敵や乾燥から子を守るためのシールドであるからです。