本白根山(群馬県草津町)にあるコマクサの花には写真のように無数の傷があります。この傷みは雨によるものと考えている人もいますが、犯人は他にいます。群生地でしばらく見ているとオオマルハナバチなどの大型のハチがやってきてコマクサに留まっているのに気づきます。オオマルハナバチはコマクサの正規の方向からは口を入れずに、外花弁の基部に穴を開け、そこから口を差し込み蜜を吸っていくのです。花粉の運搬に関係しない吸蜜行動を盗蜜といいます。マルハナバチは大忙しで次から次へと蜜を集めて回るので、ほとんどのコマクサの花弁に穴が開いてしまっているといったぐあいです。私が観察している間には、このオオマルハナバチ以外コマクサに吸蜜に来る虫はみられませんでしたので本来の受粉はどのように行われているかは正確にはわかりませんでした。
まず、コマクサの花の構造についてみてみます。花弁4枚は内と外に2枚ずつ別れ、外側は開花後、反り返り、内側の2枚は先端で合着して雄しべ、雌しべを包んでいます。その内側の合着した花弁を写真のように横方向にずらすと、硬い棒のような「しべ」が現れます。ですので、本来のポリネーターの行動と花粉の受け渡しは次のように行われていると推測できます。ポリネーターが反り返った花弁を背中側に花の中に進入し、内側の花弁に足をかけて蜜を求めてもぐり込もうとすると、棒のような雄しべが現れて虫の腹に花粉をなすり付けます。その虫が他の花に行ったときに同様にして雌しべに花粉が渡るといったしくみです。写真では、雌しべと雄しべの位置が同じで、雌しべが自身の花粉でまみれているようにも見えます。自家受粉をしない工夫がほかにあるのかもしれません。