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日当たりの良い草原に生えたトリカブト属は直立した姿をしています。

一方、日差しの少ない林縁に生えるときは斜めに伸び頭をしなだれた姿をしています。

トリカブト属は左右対称のユニークな花をつけます。花被を破っての盗蜜ができない構造となっており、虫媒花として最も進化した花と言えます。紫色をした部分は全て萼片です。上の一枚の萼片(上萼片)はかぶと状の形に進化し、花の中に雨が入らないようにするとともに、中にある蜜を貯めている花弁を守るはたらきもあります。2枚の側萼片は、花を訪れたマルハナバチの姿勢を制御するのに大切な役割があります。もし側萼片が無いと、マルハナバチに花粉を効率的につけられないことになります。下萼片2枚はマルハナバチが花にとまるときの足場の役割をしています。

 実際に、マルハナバチが訪れたところを観察しました。下萼片に足をかけて上向きに花にとまり、花の中を上に登って花の奥に頭をつっこみます。一度、すこし後ずさりするのですが、再び花の奥の方につっこんでいきます。この一度後ずさりする動作は必ず行われていました。これは何を意味するのでしょうか。花の中の構造を探ってみます。

写真のように上顎片を取り除くと2本の構造物があります。これがトリカブトの花弁です。上部がくるっと巻いてになっていてここに蜜が貯められています。マルハナバチが一度後ずさりするのは、2本の花弁両方から蜜を吸うためだったのです。花弁の形は種の同定に大変有用です。写真左はヤマトリカブトです。距が長く巻いています。写真右のツクバトリカブトの距は太く短くなっています。

花柄には屈毛が密生しています。この特徴は、葉柄が無毛の種もあり同定に利用できますのでチェックしておきましょう。ちなみに写真左はヤマトリカブトで写真右はツクバトリカブトです。両者とも屈毛が密生する特徴がありますが、微妙に様子が異なっています。ツクバトリカブトの方が毛が寝た感じでビロードのようです。

葉の形も種の同定に利用されますが、これについては注意が必要です。ヤマトリカブトの典型的な葉は写真左のように「3〜5中裂と切れ込みが浅いのが特徴」ですが、根に近い方の葉は写真右のように切れ込みが深く、裂片が線状に細くなっていることもあります。一つの株で根元付近と先端付近で葉の形が違うこともありますので、葉の形だけで同定するのはなかなか難しいのではないかと思われます。

花の色については、濃い紫色から薄い色までバリエーションが見られ、また、まれに完全に白色の花もありますので種の同定には役に立ちません。さらに、デジカメや写真の紫色は発色に忠実性が低い点も注意が必要です。