10ヤードチェーンの謎

updated, 1997. Feb. 17 at 01:10JST.
modified, 1997. Mar. 27 at 22:20JST.



 アメリカンフットボールは、与えられた4回の攻撃で合計10ヤード以上進むことを
第一の目標とします。そして、10ヤード以上進んだ時点で攻撃回数がリセットされ、
再び4回の攻撃権が与えられます。もし、4回の攻撃で合計10ヤード進まなかった場
合、その位置で攻守が交替して相手の攻撃となります。だから、10ヤード進んだか進
んでいないかの判定は非常に重要なことなのです。                

 最近の標準的なグラウンドでは、フィールド上に5ヤード毎のラインが引かれていま
す。さらに、サードラインには1ヤード毎の目盛が打ってあります。だから、大きな定
規かグラフ用紙の上でボール位置が移動しているようなかんじになります。     

 さて、選手、審判、観客の全てが、このラインや目盛を10ヤード進んだか否かの基
準に使っています。誰が見ても、最初の位置から10ヤード以上と判断できる距離まで
進んだときは、何の問題はありませ。しかし、10ヤード進んだかどうか微妙なときも
あります。こんなときに登場するのが10ヤードチェーン(チェーンフラッグ)です。
この10ヤードチェーンは、その長さが文字どおり10ヤードで、その両端に赤色のフ
ラッグが付いています(これも文字どおり)。そして、フィールドのサイドライン沿い
で重要な役割を果たしています。                        
 


チェーン

 さて、攻撃チームがファーストダウン(FD)を獲得したとき、チェーンの片側をボ
ールの先端位置に合わせます。この片端を(A端)とします。そして、他端(B端)を
チェーンがピーンと張る位置まで持って行きます。これが、次の目標となる10ヤード
位置になります。ここにフラッグを立てて、観客、選手等全員の注目の的になります。
この2本のフラッグは、次のファーストダウン(FD)獲得までは、移動しません。 
さらに、10ヤードチェーンの途中の何処かが必ず10ヤード毎にフィールドに引かれ
たラインとクロスしているので、その位置に金具を止めておきます。        
 なお、ダウン表示を示す数字の付いた3本目のフラッグがあり、攻撃が行われるごと
にボール位置へ移動していきます。なお、これらフラッグを持って移動する4名を「チ
ェーンクルー」と言います。                          

 さて、10ヤード進んだかどうか微妙な状態に遭遇すると、審判はタイムアウトを取
って、チェーンクルーに助けを求めます。サイドラインで、10ヤードチェーンを持っ
ていた2人はフィールドに入場し、場内のボルテージが高まります。        

 まず、A端を持っていた人はフィールド内のファーストダウンの攻撃を開始した位置
にフラッグを立てます。と、言っても何の目印もないので何処に置いていいか少し悩ん
でしまいます。実際は、前にかいた金具位置と10ヤード毎にフィールドに引かれたラ
インを合わせる。こうして、お膳立ては整った。                 

 B点を持っていた人は、そこからチェーンを引っ張ってボール近くまで持ってくる。
もし、チェーンの先端よりもボールが少しでも前ならば、10ヤード以上進んだことに
なりファーストダウン(FD)獲得。チェーンが前なら10ヤード進んでいない。  

 場内緊張の瞬間、少しの静寂。                        
 そして、審判のコールが先か、選手と観客の歓喜の声、落胆の呻き声が先か。   


 だが、しかし、この方法に納得しない人がいる。                
「最初がいいかげんなのに、こんな方法で測定しても意味がないでしょ??。」   
 翻訳すると、こうなる。                           
「最後の1ヤード未満の距離が遠くからでは判らないから、わざわざチェーンクルーを
呼んでいるのである。それならば、スタート地点のA端を持っている人や審判は、最初
の時点で、A端とボール位置を合わせられていないはずだ。だから、ここで、こんな方
法で10ヤード越えたか、越えていないかを判断すること自体がおかしい。」    
「ん〜〜ん・・・言わんとすることはわかります。でも、確率的には1/2と1/2。
長い目で見れば正確だし、それに、『アメリカン』フットボールらしいでしょう。」 
と、言ったらどうかな??                           

 でも、本当は、少し違うところに原因があります。最初の地点の判断を審判にさせて
おいて最後の判断に別の手段を用いるという一貫性のないルールが発端です。最後の、
一見正確に思える判定方法が、逆に最初はどうだったのという疑問を誘発しています。

 そこで、いっそのこと、10ヤードチェーンを無くしてしまって、最初も最後も審判
に全権を与えてしまったらどうなるか。しかし、獲得ヤードが10ヤード越えたか越え
ていないかというのが基本であり大前提です。そこで、選手や観客にその目標地点を示
さなければならない。そのために、やはりフラッグが2本(最初と最後)必要になる。

 ここからあとは、完全な私の想像だが、チェーンクルーの立場になると、最初の地点
のフラッグは審判との協力によって立てることは出来る。だが、目標の10ヤード位置
のフラッグは、簡単には立てられない。一方で、正確に10ヤード位置に置かなければ
目標の役目を果たさない。そこで、10ヤードをどのように測定するかだが、最初に書
いたフィールドに書かれた目盛を数えるという方法がある。            
「いや、2本のフラッグを10ヤードの紐でつなごう。そうすればセットは簡単だ。」
こうして、現在の10ヤードチェーンの姿になったのではないだろうか。この状況で、
判定の道具に使われるようになるまでの過程は簡単に想像できる。         

 この論理ループを断ち切る方法が存るかどうかは判らない。それでも、審判や皆が、
最善を尽くし、かつ、信頼して運用しているシステムである。FDの確認にチェーン
クルーが登場する瞬間は、難しいことを考えずに緊張と静寂を味わおう。     

 



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次回のテーマは、『第4Dパント≠休憩時間』です。



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