アメリカンフットボールは、与えられた4回の攻撃で合計10ヤード以上進むことを 第一の目標とします。そして、10ヤード以上進んだ時点で攻撃回数がリセットされ、 再び4回の攻撃権が与えられます。もし、4回の攻撃で合計10ヤード進まなかった場 合、その位置で攻守が交替して相手の攻撃となります。だから、10ヤード進んだか進 んでいないかの判定は非常に重要なことなのです。 最近の標準的なグラウンドでは、フィールド上に5ヤード毎のラインが引かれていま す。さらに、サードラインには1ヤード毎の目盛が打ってあります。だから、大きな定 規かグラフ用紙の上でボール位置が移動しているようなかんじになります。 さて、選手、審判、観客の全てが、このラインや目盛を10ヤード進んだか否かの基 準に使っています。誰が見ても、最初の位置から10ヤード以上と判断できる距離まで 進んだときは、何の問題はありませ。しかし、10ヤード進んだかどうか微妙なときも あります。こんなときに登場するのが10ヤードチェーン(チェーンフラッグ)です。 この10ヤードチェーンは、その長さが文字どおり10ヤードで、その両端に赤色のフ ラッグが付いています(これも文字どおり)。そして、フィールドのサイドライン沿い で重要な役割を果たしています。 |
さて、攻撃チームがファーストダウン(FD)を獲得したとき、チェーンの片側をボ ールの先端位置に合わせます。この片端を(A端)とします。そして、他端(B端)を チェーンがピーンと張る位置まで持って行きます。これが、次の目標となる10ヤード 位置になります。ここにフラッグを立てて、観客、選手等全員の注目の的になります。 この2本のフラッグは、次のファーストダウン(FD)獲得までは、移動しません。 さらに、10ヤードチェーンの途中の何処かが必ず10ヤード毎にフィールドに引かれ たラインとクロスしているので、その位置に金具を止めておきます。 なお、ダウン表示を示す数字の付いた3本目のフラッグがあり、攻撃が行われるごと にボール位置へ移動していきます。なお、これらフラッグを持って移動する4名を「チ ェーンクルー」と言います。 さて、10ヤード進んだかどうか微妙な状態に遭遇すると、審判はタイムアウトを取 って、チェーンクルーに助けを求めます。サイドラインで、10ヤードチェーンを持っ ていた2人はフィールドに入場し、場内のボルテージが高まります。 まず、A端を持っていた人はフィールド内のファーストダウンの攻撃を開始した位置 にフラッグを立てます。と、言っても何の目印もないので何処に置いていいか少し悩ん でしまいます。実際は、前にかいた金具位置と10ヤード毎にフィールドに引かれたラ インを合わせる。こうして、お膳立ては整った。 B点を持っていた人は、そこからチェーンを引っ張ってボール近くまで持ってくる。 もし、チェーンの先端よりもボールが少しでも前ならば、10ヤード以上進んだことに なりファーストダウン(FD)獲得。チェーンが前なら10ヤード進んでいない。 場内緊張の瞬間、少しの静寂。 そして、審判のコールが先か、選手と観客の歓喜の声、落胆の呻き声が先か。 だが、しかし、この方法に納得しない人がいる。 「最初がいいかげんなのに、こんな方法で測定しても意味がないでしょ??。」 翻訳すると、こうなる。 「最後の1ヤード未満の距離が遠くからでは判らないから、わざわざチェーンクルーを 呼んでいるのである。それならば、スタート地点のA端を持っている人や審判は、最初 の時点で、A端とボール位置を合わせられていないはずだ。だから、ここで、こんな方 法で10ヤード越えたか、越えていないかを判断すること自体がおかしい。」 「ん〜〜ん・・・言わんとすることはわかります。でも、確率的には1/2と1/2。 長い目で見れば正確だし、それに、『アメリカン』フットボールらしいでしょう。」 と、言ったらどうかな?? でも、本当は、少し違うところに原因があります。最初の地点の判断を審判にさせて おいて最後の判断に別の手段を用いるという一貫性のないルールが発端です。最後の、 一見正確に思える判定方法が、逆に最初はどうだったのという疑問を誘発しています。 そこで、いっそのこと、10ヤードチェーンを無くしてしまって、最初も最後も審判 に全権を与えてしまったらどうなるか。しかし、獲得ヤードが10ヤード越えたか越え ていないかというのが基本であり大前提です。そこで、選手や観客にその目標地点を示 さなければならない。そのために、やはりフラッグが2本(最初と最後)必要になる。 ここからあとは、完全な私の想像だが、チェーンクルーの立場になると、最初の地点 のフラッグは審判との協力によって立てることは出来る。だが、目標の10ヤード位置 のフラッグは、簡単には立てられない。一方で、正確に10ヤード位置に置かなければ 目標の役目を果たさない。そこで、10ヤードをどのように測定するかだが、最初に書 いたフィールドに書かれた目盛を数えるという方法がある。 「いや、2本のフラッグを10ヤードの紐でつなごう。そうすればセットは簡単だ。」 こうして、現在の10ヤードチェーンの姿になったのではないだろうか。この状況で、 判定の道具に使われるようになるまでの過程は簡単に想像できる。 この論理ループを断ち切る方法が存るかどうかは判らない。それでも、審判や皆が、 最善を尽くし、かつ、信頼して運用しているシステムである。FDの確認にチェーン クルーが登場する瞬間は、難しいことを考えずに緊張と静寂を味わおう。 |
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