QBとは、アメリカンフットボールの選手で初めて名前を覚えるポジションであり、 初めて観戦する人でも、一番最初にその役割が判るポジションである。また、ボウルゲ ームの勝者なら必ず何かの賞はもらえると言っても過言ではない。一言で表現するなら 目立つポジションである。 しかし、QBのその日の調子、あるいは、トータル的な技量で、試合結果やシーズン 結果をも左右しかねないのも事実で、責任が重大である。このようなQBに要求される 資質は、戦いの中での状況判断、分析、瞬時の判断、指揮、戦略システムの理解構築、 他のメンバーから信頼を得られる人間性、さらには、くよくよしない切り替えのよさと 少しの冷静さと、軽く挙げただけでもこんなに多くのものが求められる。 さて、一チームにこれだけの資質を持った人間がどれだけいるだろうか。どちらかと 言えば人材不足のポジションであろう。以前は、「この1年間は、このQBで行く。」 と決めてシーズンに突入し、1試合、1シーズンを1人のQBにまかせていた。バック アップが登場するのはケガ負傷時ぐらいで、大量得点差があっても交替することはほと んどない。チーム全体がバックアップQBの出場を想定していないため、逆に、そのよ うな状況に追い込まれると、プレーの幅が狭くなったり、タイミングが合わないなど負 の要素ばかり目立って敗戦の原因となっていた。 しかし、この難しいポジションにも新しい傾向が出てくるかと予感させたのが96年 のシーズンであった。他のポジション、例えばRBなら交替選手がいて、ロングかショ ートによって起用する選手が異なっていてフィールドに入ったり出たりするのだが、そ れがQBのポジションにまで及んできた。1チームQB複数人の併用である。 96年のシーズンで、私が積極的に複数QBを登場させたと思われる関西のチームを 列挙すると、サンスター、マイカル、アサヒ飲料、京都大学、関西学院、立命館大、等 である。関東のチームは全てを見たのではないので漏れがあるとは思うが、日本大学、 リクルート、レナウン等に、少しその傾向があったのではないかと思う。 関西で2人のQBを併用したチームの中からいくつかを例に挙げてその特徴に簡単に 触れる。 まずは、田中と杉本の京都大学だ。2人の併用は、前年から少しずつデモンストレー ションされ、とうとう、96年のQB1名は決定しなかった(と、私は思っている)。 パスの田中、ランの杉本、と簡単に言われるがそれ程明確な色分けはない。甲子園ボウ ルでは前半杉本、後半田中をメインに据え、随所に織り込まれた田中のランが苦しい展 開を打破した。両QBは、セットのタイミングの差に大きな違いもなく、ラインに負担 がかからなかった。 一つ、疑問があるとすれば、96年リーグ戦唯一の敗戦であった関西学院戦である。 田中が苦戦している途中で、杉本が2プレーに登場、キーププレーが進んだ。あの状況 では強気な杉本のプレーが必要だったと思うが、流れをかえることをしないままのの敗 戦であった。杉本のケガのレベルが判らないので何とも言えないが、それ以外に何か深 い理由があるような様子もする。 さて、関西学院も秋のシーズン序盤戦は、先発は有馬、終盤に高橋が登場という展開 が続いた。この両者の攻撃パターンは、よく似たタイプで大きな特徴はなく、一つ挙げ るとすれば、有馬のアウトサイドのクイックパスか。だが、両者で一つだけ重大な違い がある。ボールをスナップするまでのタイミングが全く異なる。これが、ラインに負担 をかけ、特にリーグ戦の立命館大戦では重要なところでオフサイドの反則を連発した。 の対立命館大戦で有馬がデビューした時に、すでにその傾向は見られていたが、秋のシ ーズンでも直っていなかった。 だが、この違いが修正されれば、プレーの幅が大きくは広がらないが、調子の良い方 を選択起用できるという大きなメリットが出て来る可能性が充分にある。 マイカルはオプションの辻、パスの夏目の違いが出ていてタイミング差もなくプレー の幅が見事に広がった。勝敗に直接結び付かなかったのだが、来季は楽しみである。 サンスターも、オプションの浅井、パスの田原の違いが前面に出て、攻撃の幅が広が りそれに対応できるオフェンスメンバーだったので96年秋の目玉となると予想してい た。たが、対マイカル、対松下電工とも、浅井単独出場で、プレーの幅が今までと同じ になってしまったのが残念だ。96年春の西日本社会人決勝で、オフェンスゲームを展 開したサンスター−松下電工の再現を期待していたのだが、次の機会を待ちたい。 さて、このようなQB複数人を併用することの利点欠点を挙げてみると、 利点学年、世代間伝達に無理がない。チーム全体の士気向上。 効率よい練習ができる。 怪我をしてもあわてる必要がない。 プレーの幅が広がる。相手を惑わせやすい。 欠点2人の微妙なタイミングの違いが味方ラインも惑わせる。プレー数の増加と消化不良の可能性。 練習時間がのびる。 どっちつかずの可能性。 さて、上記の利点と欠点を見比べると、表裏一体となることがいかに多いか良く判る だろう。この難しく新しい試みを採用するか否か、採用できるか否かだが、それは各々 のチーム状況によって異なってくるのだが、続きは次回に・・。 |
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