■□静寂なる、白き王の。 〜伍〜 <<noveltopnext>>
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愛されていない?
嫌われている?

哂わせるな、お前は、まだ坊やだよ。


盲目なだけ、だ
お前は、そうやって、殺していくんだよ


辛辣な言葉は、けれど優しいのだ。

ああ、でも本当だね。







彼の罪は、『死』でさえ贖罪されずに
鎖のように繋がれて
彼の因果による『死』の影は19になるまで。
あの、あまり好きではないCの世界で理を見た。
ルルーシュの魂に絡みつく鎖。
それは魂そのものに食い込み、血を流し続けている。
恩讐の木霊する、その最中でも

何故だろうか。

笑っている。
正直、狂ってしまったのかと思った。
けれど、狂ってはいないと、C.C.は言う。
では、何故、笑っているのだろうか。

此処には、今、在るのは
恩讐と虚無。
そして――映す事だけしか、できない自分。

なのに
穏やかに、穏やかに、彼は、ルルーシュは微笑んでいる。


俺には、解らない。





(ああ、だから、お前は盲目なんだ)












潜めていた負の事象。
『不幸』を呼び、『死』へ誘う事柄がルルーシュの周りでおき始めた。
階段から落ちそうになったり、逆恨みで暴力を振るおうと
ナイフを嗜める輩や、信号無視の車、工事中の場所からの落下物。
事前に察知できるものを、寸前で食い止めて――
「……はぁ…はぁ……」
本殿の中で、息を荒げる自分を静かに見つめる金色。
「無理をするな。Cの世界は改変したが、コードを持つ私たちには
まだ到底、扱えるには容量が違いすぎる……」
ほんの小さなきっかけで、時は変わる。
Cの世界は、全ての過去と未来が記号となり収集された記録という概念。
繋がっている。
だから、他へ介入し、ほんの少し、ズらすのだ。
それさえも膨大な記録へと成り変わる。
「四六時中、ルルーシュの所にいれないから…事前に対処できるのなら」
「もっともだが……お前は、神でも、ましてや『王』の『器』にさえ
なれない存在だ」
負荷が、激痛が、罪そのものがスザクを蝕む。
顔面は蒼白し、珠のように汗をかき、痛みと罪悪に苛まれて
普通ならば、狂っている。
「死んでしまったら、意味がない!!」
狂いという境界がないのかもしれない。
確かに、彼は外部からの介入がなければ、既に死んでいただろう。
因果の律に沿って、そして、また生まれ、そして苦しみ死ぬ。
だが、C.C.は思うのだ。
魔女である自分に、『心』を頼んでもいないのに与えていった子。
彼ならば、規定された運命さえ打ち砕くのではないか、と。

「ヒトは、そんなに弱くはない」

額のギアスのマークを淡光させて、スザクが見上げる。

「ヒトは、簡単に死んでしまうんだ」

C.C.は瞼を下ろす。
彼に、言葉は届かない。
届く音色を持つのは、一つだけ。

「ささやかな願いと望みさえ、お前は視えないのだな」

一人、ぽつりと零す。









あの、夢。
特に興味がなかった、歴史書を紐解く。
英雄、ゼロ。
黒衣に仮面姿で、数々の偉業や英雄憚を残し400年ほど前に
亡くなった歴史的偉人だ。
その名を刻み込んだのは、悪逆皇帝の凱旋中の刺殺。
世界を恐怖に陥れた、憎悪の根源。
第99代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア――。
彼の写真などは、残されておらず――ほんの一年も満たない期間に
台頭して死んだ王であるから仕方ないかもしれないが
年若い、黒髪の秀麗な青年だったらしい。
その、悪魔の子とも呼ばれる、王と血迷ってか自分は同じ名前だ。
幼少の頃は、この名で虐められた事もある。
(それ相応の報復はしてやったがな……)
良い印象のない名前。
けれど、ルルーシュは『ルルーシュ』という名前を嫌いではない。

――ルルーシュ

甘やかな、あの声で、呼ばれる『名』は、もっと好きだ。
図書館の片隅で、歴史書を漁りながら
窓から風が舞い込んで、ページが捲られる。
記載されている、ゼロの写真。
その仮面の男は、良いセンスの服と仮面だとルルーシュは思う。
――リヴァルなどはエキセントリックだと言っていたが
民衆の前に立つ、ゼロ。
そのマントの合間から見える、しなやかな体は
無駄なく鍛えられた男のものだ。

「?」

とても既視感を覚える。
何処かで。
それも、よく知って――

ズキンッ

眼球が痛み出す。
最近、頻繁に痛むようになった。
大事を見て、医者に診てもらったが、至って異常はなく
ストレスや疲労からくるものだろう、と投げ槍な診断を貰っている。
痛みはすぐに消えて、溜息をついた。

(たかが、夢だ……)

けれど。
あの、業火の中での叫びは、まるで


枢木スザクが叫んでいるようだったから――。





知りたい、もっと、スザクを。
もっと、知らなければ、駄目だと思うのだ。
真実を知り、それが醜いものだとしても
抱きしめ、受け入れられる。
何か苦しんでいるのなら、その苦しみを分かち合い
その根源を打ち砕こう。
何か悲しく涙を流すのなら、この腕と胸を貸そう。
何か凍えているのなら、この体の熱を奪ってもいい。
忘れぬ想い人が、いても構わない。
多少、苛立つけれど、致し方ない。
そして、ヒトでなく、魔を有する化け物だったとしても、
いいのだ。

枢木スザクであれば。

この、ルルーシュの傍に、いてくれれば。


だって、そうだろう?
やっと、やっと、俺たちは――



「………」
ぼんやりとしていた。
だが、足取りはキチンと枢木神社の場所へと向かっていたようだ。
見える階段の、第一の鳥居。
そこに人影が見える。
「!」
スザクだ。
珍しい。
何か用があって、其処にいるだけかもしれないが
自分を待っていて其処にいる、と思うのは罰当たりではないハズだ。
駆け出す、その瞬間。
向こうも気づいたようだ。
「あ……」
手を振っている。

嬉しい、嬉しい、嬉しい。

早く、アイツの場所へ行きたい。
そして抱きしめたい。
脚を一歩、踏み出した。

「ルル〜〜!!」

呼びとめる声。










C.C.は心配はない。
そう言っていたが、スザクは心配で堪らなかった。
ヒトは簡単に死んでしまうのだ。
自分たちを置いて。
だから、こそ。
護らなければ――思う。
今日は、神社の境内ではなく、入り口の鳥居の前まで降りる。
彼は、何て言うだろうか。
馬鹿にするだろうか。
訝しむだろうか。
それとも何とも思わないだろうか。
道の遠く、ルルーシュの姿が見え出した。
景色に映える、その美しい容姿。
黒いコートを着て、白息を零して、歩いてくる。
彼が、瞬時に、自分を見つけた。

笑っている。


咽喉がひゅっと鳴った。
思わず、此処にいると手を振ってしまった。

嬉しい、嬉しい、嬉しい。




君は、いつも、俺を、みつけてくれる






彼では、ないのに。
彼では、ないのに。
彼との約束を、この身で完遂しきれていないのに。
それは、突然に舞い踊る。
温かい、ぬくもり。

けれども、現実を、見なければならない。




ルルーシュが、視線を逸らす。
その先に、あの、最初に彼を許し、許す事について教えてくれた
彼女がいたのだ。
(……シャーリー………)
ルルーシュが、また、別の微笑みを浮かべている。
あたたかい、それこそ、幸せな。

ああ、そうか。
ああ、そうだ。

本当に、自分の存在は。








「ルル!土曜日、絶対だよ!」
「ああ、解っている」
土曜日といえば、明日。
携帯に中々出ない、ルルーシュに態々、シャーリーが言いに来たのだ。
普通なら苛立つ筈が、シャーリーに対しては
微笑みが零れる。
彼女の存在は、胸を締め付けるような、嬉しさがあった。
「そう言えば、いつも、こっちの方から帰るんだね」
シャーリーの疑問は、ごもっとも。
こちらのルートは若干、遠回りだ。
ルルーシュは自然に身を動かす。
何となくだ。スザクの姿を見せたくなかった。
ちょっとした独占欲である。
「考え事をしてな……シャーリーは、まだ部活、終わっていないんじゃ
ないのか??」
「あ、うん。そうだった! 何はともあれ、忘れちゃ駄目だよ! ルル!!」
「ああ、忘れない」
微笑めば、シャーリーも嬉しそうに微笑み
何故か頬が赤いのに内心、首をかしげつつ
「じゃあね! ルル! また明日!!」
「ああ、」
元気よく手を振って去って行くシャーリーに、軽く手を上げて挨拶をして見送る。
そして、背が見えなくなった後、
ルルーシュは歩み出した。
駆け出したい衝動があったのだが、何だか子供のように思われそうで
なるべく平素を、けれども速足で神社の入り口へ行く。

「ルルーシュ、」

彼が、スザクが名を呼んでくれる。
「どうしたんだ? 此処にいるなんて、」
「ん、偶には此処も掃除しないとな、と思って」
待っていたと言ってくれるとは思っていない。
落ち込みそうになる精神を保ち、振袖から見える腕を見た。
(やはり……)
傷がない。
見つめれば、姿は、あの時のまま。
「……さっきの、子…」
「え? ああ、同じクラスのシャーリーだ」
ふぅんと、曖昧な返答。
ルルーシュは首を傾げて、そして、ニヤリと意地悪い笑みを浮かべる。
「なんだ? ヤキモチでも焼いたのか?」
視線が、ふと逸らされて
スザクはゆるりと笑う。
「どうかな、」
どちらとも取れる言葉だった。
何だか面白くなくて、ルルーシュはむすっとした表情をして
顔を背ける。
「あのさ、ルルーシュ。日曜日、予定、空いているかな?」
「日曜?」
ふと、首を傾げて、そして土曜日に取り付けられた予定が浮かぶ。
ここ数日に何かあるのか。
「別に、予定はないが……」
訝しげに瞳を向けるルルーシュに相手は驚いたようだった。
「空いているのか! ……あ……気を遣ったのかな……
それとも、二人が……」
「なんだ、日曜日に何かあるのか?」
「……何かって、12月5日。君の誕生日じゃないか」
普段、人には抜けていると怒るぐらいだというのに
よっぽど当人の方が抜けているではないか。
そう言わんばかりの表情に、本気で忘れていたルルーシュは
怒るにも怒りきれない。
「たかが、誕生日――」
「たかが、じゃない!!!!」
急な大声に、瞳を瞬かせるルルーシュに、
謝罪を述べながらも、スザクは言葉を続ける。
「君が生まれてくれた日だ……私も、待ち望んでいた」
小さな囁きと、その翠の瞳が煌いた。
「スザク?」
「……でも、本当に予定は空いているのかい?」
「門限はあるが、空いている。
それよりも、何故、予定など聞く?」
一つの巡廻の後、スザクは真摯にルルーシュを見つめた。
「空いているなら、その門限までの時間
私と一緒にいて欲しい」
「…………」
ふらりとした。
一瞬、ルルーシュは相手の言葉を理解できなかった。
いや、正しくは脳で処理できなかった。
「一緒に……?」
「ああ、」
「………なんだ、スザク。
デートにでも誘っているみたいじゃないか」
ルルーシュとしては、混乱している脳を鎮める為
通常の空気の読めないスザクの発言を想定しての言葉だった。
(そうだ、期待はするな)
そう思うのに。
「うん。そうだね。
そういうコトに、なるのかな」
微笑んで、言うのだ。彼は。
簡単に。
「まるで、俺の事が、好きみたいだな……」
微笑みが消える。
一瞬の、透明な無の色へと戻り
そして射抜くような強い眼差しが向けられた。




「君が、好きだよ……何よりも」













縁側に、スザクは腰掛けて、冴え冴えとした月を見上げる。
静かに隣りへ立つのは、優しき魔女。
「お前、」
「最期だ……全て、討ち返す」
「お前は、」
微笑んでいた。
額のコードは赤く発光している。
「なぁ、スザク……お前は、アレを『ルルーシュ』ではないと
思うのなら、アレは誰だ?」

「だから、越えた明日の先に、俺はいない」

魔女は、C.C.は瞳を細めた。
何を言っても無駄であろう。
そして、それが彼の強さであり、愚かさの中でも消し得なかった
彼自身の心の覚悟。
だからこそ、だからこそ。



お前は、何度も『心』を殺して行くのだな




得る、明日への希望の犠牲は




「それは、絶え間なく……だが、お前が思う単純であったし
それよりも、ずっと強かったのだろう」
瞬くスザクを、C.C.は見下ろす。
それこそ、解らぬ相手への憐れみの色。

「痛くなかった訳ではない。辛くなかった訳ではない。
ただ、お前が、いてくれていたからだ」

その瞳の奥に映す真実を、スザクは掴めない。
「何の、事?」
「いつぞやの、お前の問いの答だ」
それだけ、言い放つと、C.C.は背を向けて歩み出す。
スザクの手は、一瞬、C.C.を引きとめようとしたが
宙を描いて下ろされた。






冴え冴えとした月を見上げ、最期の日を目指す。
その先に、あるのは彼が得る、これからの希望と幸せ。

そこに、自分は必要ない。
贖罪は終わっていないのだから。


ソノ、罪ハ、オ前ノ、罪カ?
オマエガ、贖ナッテイルノハ、オマエノ罪カ?


だが、彼の真なる至福は何たるか。
解らないからこそ、選べる道だ。

無知である事は、罪でもあり
無知である事は、強さを生み
無知である事は、同時に幸せなのだ。






(続)
++++++++++
解らないって、罪作りですね。
この後、ルルさんは日曜日まで、悶々ですよ。
で、何度もデートはマジですか?と聞くですね。スザクに。
当日まで、心の中で延々花占いですよ。
何はともあれ、あと2話で終わり〜です。
無知たる強さとは、
知らなければ、恐くないってヤツです。
(例:幽霊や怪談とか、知らなければ心霊スポットも恐くない)

++++++++++
知らなくて、幸せ。
その人の価値観で変わってきますよね。