■□静寂なる、白き王の。 〜弐〜 <<noveltopnext>>
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お前は、もう、許されている

それは、魔女と呼ばれた少女の言葉だった。







何百年も過ぎている。
風景は、あまり変化は見られない。
人間の文明発展には制限があると、あの子は言っていた。
発展しすぎると滅んでしまうという。
彼女の言葉は、よく、意味が解らなかったが
神社から見下ろす風景を見て、そういう事なのだと感覚で知る。
鈴虫、蟋蟀、虫の音色。
赤とんぼが、風と共に過ぎ去って
枯葉の散る音が秋の終わりへと導いている。
「……綺麗にならないな……」
玉砂利の、境内に枯葉が舞う。
先ほどから、掃いて、掃いて、掃いて、掃いているのだが。
自身としては、別にこのままでも問題はないと思う。
けれども。
「また怒られるなぁ…これじゃあ」

神主なのだから、境内を綺麗に保て。
だから、参拝客が増えないんだ。
賽銭は神社経営には必須だろう!
せめて社を修復できるくらいは必要だ!
そもそも、この神社には何を奉っているんだ?

普段クールに見える彼の、百面相と共に言葉が浮かぶ。
思わず、笑みが零れて
気づいて、瞳を伏せた。
(俺は、何て……)
紅い、鳥居を見上げる。
この場所は、彼とのハジマリの場所。
転機となる、場所。
鳥居を抜けて、後ろの正面に。
(……そもそも、此処に来る保証はないんだ)
今日は、来ないかもしれない。
来なくて、正解だ。

いつまでも、彼の傍に、いるわけには

震えた。
風が肌寒い。
「掃除! 掃除!!」
意気込んで、竹箒をブンブンと振り回す。
だが、少し冷えた指先が滑り、振り回した竹箒が飛んだ。
飛んでいった竹箒を慌てて、追いかけると、

ガコンッ

そんな音が、階段の向こうから聞こえた。
階段下を見れば

「この神社は、箒が参拝客に攻撃してくるんだな……」

「あ……」
その飛んでいった竹箒を持った青年。
青年は頭を片手で押さえている。

「………其処に居直れ!!! 枢木スザク!!!」
「っ、はい!!!」

怒鳴り声が、秋空に響いた。





賽銭箱の向こう、板間の所でスザクは正座をしていた。
正しくは、正座をさせられている。
「いいか、箒というものは元来――」
その前には、立っている彼は通常のスザクの生活行動から
箒の由来、使い方、神社について――と多方面の説明と説教を
延々と聞かされていた。
正座をさせられているのは、黒竹色の袴を着た成年。
説教をしているのは学生服の青年。
成年は見目は17〜8歳に見えるが、それでも異様な光景だった。
「聞いているのか? スザク」
「聞いているよ! ルルーシュ」
此処で素早く返答しなければ、また説教の時間が延長されるのを
身にしみて知っている。
「ごめん…本当に、悪かった。ごめんなさい」
頭を下げる。
すれば気配がして、立っていたルルーシュが腰を下ろした。
「そんなに頭を下げなくていい。反省すればいいんだ」
下げた頭を上げさせて、ルルーシュは見つめてくる。
「……もう、竹箒を振り回したりしません」
「そうだ。まぁ、当たり前の事なんだが……」
そう言って、ポンポンと頭を彼が撫でる。
いくら、コードで不老不死で見目が同じに見えても、
年齢は間違いなく自分が上である。
腹立たしさが浮かぶ筈なのだが
そのままで、いた。
「それにしても、枯葉、凄いな」
「ああ……散っている最中だから、かな」
「それだけの理由で、こんなに散らかっているとは
思えないが」
ルルーシュから見れば、スザクの掃除は散らかしているようにしか
見えていないようだ。
「君に言われた通りにやっているんだけどな」
「お前は、馬鹿だからな」
彼の言葉に、瞳を細めた。

――馬鹿が、

遠い、遠い、遠い、あの時の向こうに消えた
悪逆皇帝に、裏切りの騎士が、よく言われていた。
「スザク?」
目の前の、この子と、同じ顔の、同じ性格の、同じ魂の――

彼はルルーシュ・ランペルージ。
現存しているブリタニア皇族の末裔ではない。

しかし、彼は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ。
不老不死の先輩となるだろう、魔女が告げていた。





「アイツは、ルルーシュ……だ。
お前の方が、解っているだろう?」
「生まれ変わりとでも言うのかい? 有り得ないよ
君が言っていたじゃないか」
「ああ……だが、アイツがCの世界をギアスで変えた」
「だから?」
「Cの世界は、人類の思考そのものであり、象徴と、記号の集合体。
変動と共に周期が出来たのだろう。現にルルーシュ以外も、誕生している。
今のお前なら、視える筈だ」
「………あの場所は、嫌いだ」
Cの世界は、けれども、繋がりを断ちはしない。
永遠の罰。
「しかし、困ったな……なぁ、お前は知っているか? 因果というものを」
「因果、それが、どうかしたのか?」
「アイツは、それこそ囚人のように引き摺っている。
Cの世界が関係しているなら、尚の事――アイツは、ルルーシュは」

因果応報。
彼には災厄が降りかかる。
出会わなかった、数年の間だけでも
よく死ななかったという程に不運が彼を付きまとう。
一概に、彼の傍に在る妹と弟が
それを辛うじて、相殺しているようだが――それでも


人を、殺し、過ぎた


笑ってしまう。
彼と同じ、それ以上に殺している自分が、
此処にのうのうといるのに。

「だから、お前は……」

魔女の名が、廃る。
否、彼女は魔女の仮面を被った、女神だ。
その眼差しは、自分よりも優しさに溢れ、慈しみがあると
知っているだろうか。







だから、彼の、ルルーシュの傍にいるべきは
この罪人ではなくて、彼女の方が良かったのでないか。
思うのだ。
思うというのに、何故だろう。
此処にいるのは。
有効な期限を決めて、それを理由に、彼の傍に、触れているのは。
ルルーシュは、あの遠い日に、消えた。
スザクと一緒に。

「スザク」

彼はルルーシュではない。
彼はルルーシュだ。
彼の好意は、幼さからくる過ちだとしても
その好意そのものを、踏み躙っているのは、紛れもなく自分だ。
そう、スザクは思っている。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを、彼を通して見るのは
彼への裏切りだ。
(変わらないな……何処までいっても、俺は、裏切り続ける)

「スザク!!!」

瞬いて、目の前のルルーシュを見た。
眉を顰められ、強く腕を掴まれていた。
「あ、ごめん。ぼうっとしていたみたいだな。私は――」
英雄という名を刻んで、歴史に消えたゼロの一人称。
消えるつもりはなかったが、目的である優しい世界の差し支えとなる程に
人々は敬い、求め、そして、ゼロの驚異的な戦闘能力を欲した。
彼、一人で国を滅ぼせてしまうほどになってしまった。
それは、独裁政治の一歩手前となる寸前。
魔女が、ゼロを殺した。
共犯者であると告げて、崩壊寸前の『スザク』の手を引き
C.C.は、あの場所から連れ去った。
遠い、遠い。
「………」
「おい、」
「え? ああ……そうだよね」
「俺は、何も言っていないが」
不機嫌な顔は、けれど怒りよりも別の感情をスザクにぶつけてくる。
他人の感情は、Cの世界に介してやっと理解できるほどで
その訴える瞳の意味を、スザクは解らないのだ。
それが、余計に、苛む。
「寒いから、風邪でも引いてしまったのかな」
「俺を、」
何かを言おうとした、彼の言葉は続かない。
唇を噛み締めて、向けられる瞳は、冷たい。
これは、と思った瞬間、両手を掴まれ、圧し掛かり、唇を押し当てられた。
「んぐっ!? んんっ」
歯がぶつかり、痛い。
いきなりだ。彼は、いつも。
大きく抵抗する訳にはいかず、それでも抵抗しようと
彼の肩を掴んだ。
振り払うのは容易なのだ。
「……抵抗は、許さない」
ちらつかせる、その携帯。
脅迫の根源である、それを奪う事さえ、簡単で
簡単に、彼の前から消える事も出来るというのに
「………」
適応されるのは、愚かで卑怯者だからだ。
彼はルルーシュではない。
けれども、その当てられる唇は、その指先は、
何もかも、『彼』だった。
「君が、傷つくだけだ。
それに、此処は、外で――…っ、ぐっ!?」
瞳を閉じてはいけない。
幸福に覆われては、いけない。

虚しさを感じるのは、自分でなければならない。

満たされては、いけない。








虫の音、烏の鳴声、夕空の橙に染まる境内。
舞い散る、枯葉。
神社の、参拝の者が神を呼ぶ、鈴が、境内に鳴り続けている。
参拝の者がいる、ワケではない。
「ひっ、ぐっ、ううっ…っっ、」
帯で、鈴緒にスザクは縛り付けられ、後ろから他人が貪っている。
神聖な場所で、堕ちる。
「っ、いや、だ…っ…うあっ、あっ、」
膝立ちの不安定な体勢、挿入に揺れ、鈴を鳴らすのだ。
「ルルーシュ、やめっ……こんな……っ、誰か、来たら」
袴は足に絡み、上着は擦り下ろされて。
下肢を、自らの精液で濡らして、喘ぎ、よがっているというのに、今更。
「こんな神社に、来る奴など、早々にいないさ。
……っ…ん……神主が、こんな、淫乱だから、な」
「……っ……ううっ…ぁ、これはっ、」
「声を聞いて……誰か、来るかもしれないな
来た参拝の者に、慰めてもらうか? 此処を」
「ひっ、いたっ、いたいっ!? うっ、ぃや、だっっ」
首を左右に振る。
モノを強く握られ、射精できなくなる。
溶ける思考は、快楽を拾うばかりだったが
「此処に、入れてもらえばいいさ……お前には、」
「いやだっ!!!」
耳に唇が寄せられる。
「嫌では、ないだろ。
お前が、好きでもない相手でも、こんなに善がって……」
「いや、だ……やめろ、ルルーシュ…っ、るるーしゅ、るっ…んあ、ぐ、ぅ!?」
乱暴に貫かれ、滑稽に鈴がカランカランと鳴る。
汗ばむ肌と、木目に堕ちる淫液。
「……なら、俺が、好きだというのか?」

それは、答えては、いけない。

彼にでさえ、一度も、告げてさえ、いない。

その言葉は。

「っ……ぃ、やだ……ひっ、っ!?」
尻肉を掴まれ、奥をかき回される。
他人が、儀心地のない、動きが、
「うあっ、あ、ぐぅ…んんぅ、あっ、あっ、」
熱が、包み込む。
「……見せてやりたいな、この、姿を」
涙で、視界が滲む。
首を左右に振った。

見れる事はない。
映す事はできない。
彼はいない。


いいや、もう、彼は、見ている


「ルルーシュッ、」

あと、どれくらい
傍に、いられるのだろうか。













起き上がる。
気を失っていたようだ。
場所は離れの一室、布団の上。
身は清められ、寝間着の白着物を着せられていた。
隣りに、寄り添うように、制服の上着を脱いだルルーシュがいた。
微かな吐息。
眠っている。
「………」
柱の時計は、6時過ぎ。
起こそうとして、枕上の制服の畳まれ方に動きが止まる。
畳まれた制服が裏返しに置かれている。
家には連絡してあり、泊まって行くという意思表示だ。
「俺は、泊まっていいって、言っていないのにな……」
呟いて、次の瞬間だ。
突き刺すような痛みが脳を揺らし、額が痛む。
すぐに、それは収まるが、胸元のはだけを整え、障子を開けた。
縁側の草履を履いて、そして境内へと駆ける。

「なんだ、早かったな」

「女の子、一人で暗い場所を歩くのは危険だよ」
その、緑に煌く髪を揺らして、少女はいた。
「様子を見に来ただけだ、心配するな」
「……やっぱり、君が、いるべきだと思う」
告げれば、少女はクツリと笑った。
「アイツは、お前を気に入っているようではないか。
まぁ、度が過ぎているのは、いつもの事だろう」
その金色の瞳は、全てを見透かす。
同じコードを持っている。
そして、Cの世界に極力介しないスザクとは違い
より強力なコードとなった彼女にとっては
筒抜けなのだ。スザクの心は。
「彼に、思い人が出来たら……僕らのコード、不老不死の呪いに
気づいたら、私は此処から消える」
どんな理由があれど、それが、決めた期限。
「不運のままである彼を置いて、か?」
「思い人が出来たら、もしくは、18歳を過ぎたら、周期が弱まって
命を落す程の災厄はなくなると――」
ギアスをかけられた『神』が、言っている。
それに伴う、喪失を、スザクは気づいてはいない。
彼女は、C.C.は、その眼差しを向けた。

「お前は、もう、許されている」

父親を殺した事。
多くの命を奪った事。
裏切った事。
ゼロを殺してしまった事。

永い年月が、過ぎ去った時と共に
『神』が許したと。

スザクは、微笑んだ。


「私が、僕が、俺を許す事はできない」













肌寒さに、瞳が開く。
のそりと腕を動かすが、あの温もりがない。
すぐ様、起き上がると、開かれた障子から月明かりが差し込む。
「スザク、」
呟いた声が、自分でも驚くほどに、心細く震えている。
布団に、温もりはまだ残っている。
時間は、たっていない。
頭は状況を整理していくというのに、胸元を握りしめて立ち上がった。
縁側に置いた靴を履き、駆け出す。
不安は、境内の、その後姿を見つけて消し飛ぶ。

「すざ……」

言葉は続かない。
スザクが笑っていた。
その前には、見知らぬ女性。
月光に映える、その少女に。

あんな風に、笑う、スザクは知らない。
あんな瞳を、する、スザクを知らない。

一歩、一歩、後退り。
身を翻して、元いた場所へと歩む。



あの、女が、想い人か?




眠っている隙に、自分が、いない時に
今日のように逢っているのか。

微笑んで、微笑んで、微笑んで。


靴を脱ぎ、揃えて
布団の上へ腰を下ろした。
宙を見上げる。

微笑んで、当たり前。
逢い、心を交わすのも、当たり前。


俺だけ、彼を、スザクを。


思うのに、核心しているというのに。
だが、それは、ただの身勝手な思い込み。
白く変色するほどに手を握り締める。

「っ……ふふ……ふはははははははははは!!!!」

笑える。
見落としていた自身に。


ああ、解っていたじゃないか。
心は手に入らないと。



自身を嘲けて、そして、宙を睨み付けた。
眼球の奥がチリッと痛む。




「あ……ルルーシュ、起きていたのかい?」



振り返ると、戻ってきたのだろう、スザクがいた。
瞳をすっと、ルルーシュは細める。

「お腹、空いているだろ? 私が用意するから
何か、食べたい物は――」

手を伸ばして、腕を掴んだ。
手繰り寄せるように、引く。








捕マエタ







冬は近づき、凍てる空が覆い始める。
終わりの、時を告げる秒針が、動きはじめた。




++++++++++++
タイミング悪い、そんな二人。
某雑誌の相性の悪さを思い出しました。
外でエロは、色々と問題があるんですが
まぁ!ファンタジーって事で!!
エロいの表現したかったのですが、どうも動きに
カランカラン鳴る鈴は、私にとっては笑いのツボで……(最低だ!)

おさらい設定。
・ゼロレクイエム後、歴史の教科書に載るくらい時間が過ぎ去っている。
・400年ほど前に、スザクはゼロを引退。(政治形態の変更、C.C.の計らいもある)
・因果律の関係で、スザクやC.C.が知る人物が容姿、名を得て誕生している。
・ルルーシュの身を案じ、C.C.に半ば強制的に日本にスザクは連れてこさられる。
・ルルーシュ:18歳。
ブリタニアではなく、ランペルージ。双子の妹弟(ナナリーとロロ)の兄。
頭脳明晰、容姿端麗。体力は若干ない。
幼少の頃、集団リンチに合いそうになった時、スザクに助けてもらった後、
ずっと枢木神社に通っている。
ある事件後、スザクを脅迫して肉体関係を強要している(と思っている)。
・スザク:28〜32歳(実際は400歳以上)
容姿は17〜8歳。コードを持ち、不老不死。コードはVVのコードではない。
ルルーシュの姿を見て、立ち去ろうとしたが思わず助けてしまい、
C.C.の『責任を果たせ』という言葉から枢木神社(地図に記号でしか記載されて
いない)の神主として、彼を見守っている。
Cの世界を介して、他人の精神介入(接触が必要)とルルーシュの危険を察知できる。
ルルーシュに恋人か、もしくは自分以外の想い人ができた、もしくは不老不死がバレたら
姿を消そうと決めている。
脅迫(最中の写真を思い人にばら撒く)されているのだが
その想い人がルルーシュなだけに、関係に幸福と罪悪感の板ばさみ状態。



++++++++
本当に、鈴をカランカラン鳴らしている所を書いている際、
フイタ私です。
続けるつもりはなかったのですが、続けちゃいました。がふん。